オープン・リサーチ・センター

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2003年度のトピックス

   

公開科学教室実施報告

去る11月10、11、14日の3日間、日本女子大附属豊明小学校5年生の児童に対する公開科学教室が実施されました。小学校の3−4時限の授業時間を使い、桜、若葉、楓の3クラスが大学の顕微鏡施設にて実習を行いました。

  理科の授業時間に取り上げた試料(池の水、花粉)や大学で用意した試料(葉の葉緑体、酵母、タンパク質、ガン細胞)を蛍光顕微鏡・電子顕微鏡用に試料作 製し、観察を行いました。これらの試料が電子顕微鏡を通して彼女たちの前に現れると、彼女たちが光学顕微鏡を通して見ていた時には見えなかった微細構造ま で観察でき、今まで認識していた姿より複雑な形態をしていることに驚いていました。先生方から、顕微鏡や顕微鏡の倍率の違いにより、同じ物を観ていても今 まで自分たちが認識していたものとは、異なった形態に見えることを指導され、自然界の不思議を改めて体験した一日になったようです。以下に彼女たちの様子 を伝えます。

   

豊明小学校5年生 公開科学教室
「顕微鏡で見る生き物」

今年も附属豊明小学校の5年生を対象とした公開科学教室が、 11 月 27 ・ 28 ・ 30 の 3 日間に行われました。今回は走査電子顕微鏡を使って、花粉(キク、ユリ、アカマツ)、プランクトン(ケイソウ、ミカヅキモ)、髪の毛の観察を行いました。 髪の毛は実際に有志の児童さんから提供してもらったものを、蒸着装置でコーティングして観察に用いました。また、 80 年館地下 1 階に展示されている、3 D メガネで観察すると立体的に見える写真を見たことも、楽しい体験だったようです。  以下に当日の様子を紹介します。




日本女子大学 オープン・リサーチ・センター(JWU-ORC)
第一回公開講演会報告

  去る平成15年10月25日(土)にJWU-ORC主催の第一回公開講演会が本学百年館低層棟506番教室で開催されました。「生物と病気の秘密をひも解 く」と題して、ヒト臓器・ガン細胞・植物細胞・ウイルスなど様々な生物の専門分野の先生方により、丁寧で解り易い講演が行われ、盛況を博しました。当日の 講演会風景と要旨を以下に記載します。




1. からだはミクロの造形美 ─電子顕微鏡が教えてくれた世界─

新潟大学大学院医歯学総合研究科細胞機能講座・顕微解剖学分野  牛木 辰男 教授

  私たちのからだは、「細胞」と呼ばれる小さな単位が集まったものである。一人の人間のからだには百兆近くもの細胞が詰まっているが、それは皆ばらばらにあ るのではなく、一定の秩序をもって並び、「組織」や「器官」という構造をつくりだしている。そして、それぞれ異なった専門の仕事を手がけるようになる。肝 臓は胆汁を分泌したりグリコーゲンを蓄えるために働き、腎臓は尿をつくるために働く。また眼はものを見るために発達する。  このようにして細胞がつくりあげた社会は、1ミリの千分の1のオーダー、つまりミクロンと呼ばれる世界の出来事である。目には見えないこの微細な世界 は、顕微鏡によって拡大することで、覗き込むことができる。したがってこうした研究は、顕微鏡の助けを借りて行われてきた分野ともいえる。とくに過去数十 年におよぶ電子顕微鏡の発達は、細胞自身や細胞の社会を実につぶさに、しかもリアルに観ることを可能にしてきた。  私は、電子顕微鏡、とくに走査型電子顕微鏡を用いてからだの仕組みを調べることを仕事にしているが、こうして顕微鏡を通して垣間見ることができるからだ の世界は、実に巧妙で精緻にできており、驚くほど美しい。それは、妖精の森に迷い込んだようでもあり、不思議なモニュメントの前にたたずんでいるようでも ある。また、ときには珊瑚の海の底にいるような錯覚に陥ることもある。こうして仕事であることを忘れ、時にその美しい風景をさすらう旅人の気分になれるの は、顕微鏡学者の特権といえるかもしれないと思うことがしばしばある。  ここでは、そんなからだの風景を皆さんにご紹介しながら、電子顕微鏡が私たちに教えてくれた美しい内なる世界を、しばし一緒に散策してみたいと思う。




2. ひとつの細胞が二つになるとき

日本女子大学理学部物質生物科学科  松影 昭夫 教授

  人の体は約60兆個の細胞からなる.元をたどれば,父親の精子と母親の卵が合体してできた1つの細胞から出発して,細胞分裂を繰り返して生じたものであ る.このようにして出来た全ての細胞が,両親から1つずつもらった1対の全遺伝情報(ゲノム)を受け取っているのである.このことは,こどもが精子または 卵を作り,孫をつくることを考えればよく理解できる.  1つの細胞が2つになるときに最も重要なことは,ゲノムが複製されて,同じものが2つの細胞に正確に分配されることである.ゲノムの複製と分配には,生 物の持つ複雑で巧妙なメカニズムが働いている.ゲノム複製→ゲノム分配→細胞分裂 の繰り返しは,細胞周期と呼ばれ,これが数時間から20時間ぐらいに1 回ずつまわることにより細胞数が増えていくのである.細胞周期のタイマーとして働き,スイッチを入れたり切ったりする役目を果たしているのが,サイクリン /CDKである.  ところが,細胞は増え続けるだけではない.一定の数に到達すると増えるのをやめていろいろな特性を持つようになる.これを分化というが,このようにして 種々の臓器が作られるのである.このことは,生物は細胞の増殖を止める巧妙なメカニズムも併せて持っていることを示している.  遺伝子の突然変異やウイルスにとって,上に述べた細胞増殖を調節するメカニズムが増強したり,止めるメカニズムが失われることがあれば,無制限な細胞増 殖をもたらす.これが,全てのがんに共通してみられる現象である.したがって,1つの細胞が2つになるときにおこることを解明することは,がんの原因の理 解や治療にも役立つのである.




3. 不思議な形をもつ植物の話

日本女子大学理学部物質生物科学科 今市 涼子 教授

  植物の体は、茎、葉、根の3つの器官から構成されるのが普通である。しかし、広く植物の世界を眺めると、このような基本ルールから大きくはずれ、どこが茎 か葉か、根か、はっきりしない特異な植物が存在する。中でも、世界の熱帯の川床や滝の岩に固着生活をするカワゴケソウ科(約270種)は、最も奇妙な植物 の1つである。  カワゴケソウ科は2つの亜科(トリスティカ亜科とカワゴケソウ亜科)に分けられるが、カワゴケソウ亜科の方に不思議な体制を示す種が多い。これらの体の 中で、岩に固着する部分は、細長い軸状なのが一般的だが、時にリボン状になり、さらには扁平になってまるで葉のようにみえるものまで存在し、実に多様であ る。しかしこれらは全て根から変化したものである。固着器官が根なら、カワゴケソウ亜科のどの部分が茎と葉に相当するのか。葉は固着器官から直接出ている ようにみえるが、茎は大半の種で不明瞭で、全く存在しないものさえある。一般の植物では、葉は茎に作られるのが普通である。茎をもたないカワゴケソウ亜科 では、どのようにして葉が作られるのか。形態形成観察からは、葉の基部に新しい葉が作られるようにみえる。彼等は葉が葉を作るという、実に不思議な能力を 葉が獲得したことになる。  遺伝子データに基づく系統樹と合わせると、以下のような進化過程が推定される。カワゴケソウ亜科の祖先で、まず茎が退化するという大事件が起きたのであ ろう。彼等は、その大事件を、根と葉に様々な形態形成能力を進化させることによって、乗り切ったと考えられる。そのような多様な形を進化させることができ たのは、カワゴケソウ科が生活する過酷な環境に、他の植物が進入できず競争が起らなかった事が大きな要因と考えられる。そしてまた水中というのは案外、様 々な形が許される特殊な環境なのかもしれない。




4. ウイルスと人体

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野  山本 直樹 教授

  ウイルスは病気を起こすことで発見された。19世紀末にロシアのイワノフスキー、オランダのベイエリンクらがタバコモザイク病の病原体の原因として発見し たのがウイルス学の始まりである。ウイルスはそのユニークな性質から他の微生物とは明確に区別されている。ウイルス粒子の構成は基本的には遺伝子核酸 (RNAかDNA)とそれをつつむタンパクの殻よりなっている。以下に本講演でお話しをさせていただくウイルスの特徴を挙げる 。
(1) ウイルスは非常に小さく、その構造はきわめて単純である。
(2) ウイルスは、生きた細胞の中でなければ増殖することができない。
(3) ウイルスは細胞でなく、その増殖は二分裂によらない。
(4) 細胞あるところウイルスは存在し、あらゆる臓器に病気を起こしうる。
(5) ウイルスにはトロピズム(感染指向性)があり、その性質を利用して遺伝子治療に用いられている。
(6) ウイルスは同世代(水平)、または世代を超えて(垂直)感染できる。
(7) ウイルスは遺伝子の運び屋である。そのためヒトの進化にも関係しているし、すでにわれわれの体の中に入りこんでいるものもある。
(8) 最近の新興・再興感染症のアウトブレークはすべて人間の行動が引き金になっている。