国際シンポジウム 「今後の教員養成と現職教育のあり方を考える」

 日時 2011年11月28日(月)・11月29日(火) 13:00〜17:30
 場所 日本女子大学新泉山館大会議室

多角的な視点で日本の教員養成と授業研究を検討

教職教育開発センターは2011年11月28日、29日、本学の特別重点化資金を受けて、国際シンポジウム「今後の教員養成と現職教育のあり方を考える」を新泉山館で開催しました。研究者や現職教員、教育行政関係者、民間教育団体関係者の他、選択授業で「教育」をテーマに学んでいる高校生たちもはるばる和歌山県から参加してくれるなど、様々な分野の方にお集まりいただきました。

第1部「今後の教員養成のあり方を考える」(28日)の基調講演では、国際学習到達度調査(PISA)で好成績を収める韓国とフィンランドからインスーク・リー教授(セジョン大学)とアンジャ・ハイキネン教授(タンペレ大学)が自国の教員養成の現状と課題について報告し、日本からは現在中教審委員として教員養成改革に関わっている安彦忠彦教授(早稲田大学)が、同審議会特別部会におけるホットな審議内容も交えながら私案を提示しました。

韓国は近年、学齢期の児童・生徒数の急激な減少のために教員の需要と供給がアンバランスになっています。政府は需給のバランスをとり、変化する社会的ニーズに応えることで、教員養成の質を改善しようと2009年から2010年の教員養成系学生の定数凍結、カリキュラム改革、教員養成機関に対する評価、モデル機関の選定、経済的支援など政策レベルで改善策を次々と打ち出してきていますが、リー教授は「コミュニケーションスキルやカウンセリング、学級経営、授業評価など社会の変化に応じたカリキュラムの必要性、実習期間の質の向上、大学教員のコンピテンシーの改革」の必要性を改めて指摘しました。

フィンランドの教員養成は、国立大学及び州立高等職業学校で行われており、教師は非常に人気の高い職業です。小学校にはクラスルームティチャー、中・高校はサブジェクトティーチャーという教科教員、職業学校には両者とは別に職業教育専門の教員がおり、教員養成システムも異なります。PISAで上位の成績を収めたことの要因についてハイキネン教授は「フィンランドは過去他国に占領された歴史をもつこともあり、国家の創設のために教育を重視してきたこと、教育システムは単純でも地方ではかなり柔軟に運営されていることから、子どもたちは学校生活を楽しんでおり、リラックスしたなかに豊かな学びがある」ことを挙げました。また、教師の質については「全員が修士号を持ち、質が高いといわれているが、PISAの対象は15歳なので教科教員がそれを支えている。教科教員は教科内容や教科教育法をしっかり学んできていることが成功の背景にあるのではないか」と分析しました。

一方、日本の教育養成改革は現在、中教審「教員の資質能力向上特別部会」で審議中です。中教審委員でもある安彦教授は、審議状況について教員養成大学・学部と一般大学・学部の綱引き(開放制と目的制の対立)と地方教育委員会と大学の綱引き(養成・採用・研修の主導権)が起きていると指摘しました。その上で、私論として養成期間ははじめから6年間とするのでなく、4年+大学院修士課程1年から2年として、学部で「基礎免許状」、修士で「一般免許状」を出すこと、大学院については現行の教職大学院はモデルにならないので一般大学院(教育学研究科など)の長所短所を考慮した新たな目的制の大学院を考えること、開放制の維持により学部4年間での養成を容認した場合は「オプション」的イメージの教職課程を再検討し、受講希望者への試験を課すことなどを提示しました。

講演を受けた後半のシンポジウムでは、社会変化に対応した教員の能力・使命とは何か、その能力は単に大学・大学院の修業年限を延長すれば伸びるのか、教育実習やインターンシップなど実践的科目の量と質を限られた時間でどう確保するか、また養成と採用の関係性など、決して新しい問題ではありませんが、韓国やフィンランドとの共通課題やわが国独自の課題が明らかになることで議論を深めることができました。

第2部「今後の現職教育のあり方を考える―授業研究と教師の成長―」(29日)は、日本で伝統的に実践されてきた授業研究を自国の現職教育に導入し発展させてきたアメリカと香港からキャサリン・ルイス教授(ミルズ大学)とポー・ユー・コウ准教授(香港教育学院)、さらに日本からは秋田喜代美教授(東京大学大学院)が基調講演を行いました。

香港では日本の「授業研究」と中国の「教授研究」の影響を受けて、コウ准教授らが協働的なアクション・リサーチ形態で行う「ラーニング・スタディ」を開発してきました。2000年頃にはこのプログラムに参加する学校は2、3校であったのが、2010年には209校が展開しているそうです。ラーニング・スタディは、観察、ビデオ撮影、テストによる分析が基本的な形態ですが、生徒が何を学んだかを確認しあうことと教師とも学びのシェアリングをすることが特徴です。特に、生徒へのインタビューや事前・事後テストを実施しており、生徒の実態が把握できる事前テストを重視しています。コウ准教授は「事前・事後を比較するデータを作成することで教師のリフレクションになる」と指摘しました。

アメリカのレッスン・スタディは、ルイス教授が中心となって、1990年代後半に急速に普及してきました。教材研究と授業実践、そして生徒が何を学んだかを明らかにし、授業を改善するためのリフレクションを行います。しかし、教師の協働性が薄く、他の教師の授業を一緒にみることは「かなり稀」なアメリカでは、日本の授業研究とは異なる課題も残されています。ルイス教授は学校教育目標や教科書、そして政策とレッスン・スタディを結びつけることが課題解決につながると指摘しました。

秋田教授は、日本では授業研究を中核に制度的、組織的に教師の成長を支えるサポートシステムが多層的に形成されてきたと分析しています。そして、新任教師が増えてきた現在、再度考え直すべきなのは、教師の成長や発達のモデルであると指摘。ある中堅教師の一人に焦点をあて、教師の成長発達は、特定の授業に関する知識や技能の発達だけでなく、異動先の学校の文化や研究主任等の役割上の変化等によっても変容するというモデルを提起されました。

その後のシンポジウムでは、いずれも授業研究の第一人者である先生方とフロアの熱心なやり取りで、改めて日本における授業研究の「価値」が明らかになると同時に、学校の小規模化や若手教員の増加などの変化に応じた「継続可能な授業研究」の創出、そして授業研究を学校の文化として定着させる努力が必要であることなど、授業研究の「先進国」としての今後の課題も明らかになりました。

 2022年度のセミナー・ワークショップなど