オープン・リサーチ・センター

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  (1)講演会の開催 (2)技術講習会の開催 (3) 理科啓蒙活動 (4)技術開発

これまでの活動


(4)技術開発


 
 幅広い対応力を持った超微構造技術を次世代に継承するためには、基礎的なトレーニングに加え、先端的な技術にも触れさせて問題解決能力を養うことが必要である。この考えに基づき、本組織独自の先端的技術開発にも取り組んだ。そのうちの、主要な3つの技術開発について以下に示す。
  1. 加圧凍結固定法の各種生物に対する応用の成果

     生物を扱う研究者は、生体にできる限り近い状態で試料を観察したいと願う。そこでまず、生物を凍結することが1950年代から考案され、次に静水圧を用いることが1960年代末から試みられた。その後、急速凍結法、すなわち−10,000℃/Sの超スピードで凍結する方法が開発されたが、この方法では生物試料を20μmの深度までしかよい状態で凍結し得ない欠点があった。しかし、100μmもの大きさを有する植物細胞や、動物組織のある部分を調べたいという研究者の強い希望があり、それには500μm位までの深度の試料をガラス状に固定することが望ましい。そこで考案されたのが、加圧凍結である。例えば、210MPaの加圧状態では、水の凝固点は−20℃となり、粘性が上昇し、氷晶は−220℃に下がるまでは形成しない。この利点を利用して、加圧凍結法が開発された。また、急速凍結ではよい凍結状態の試料を多量に得ることは難しい。われわれは、加圧凍結固定により、良好な試料を得ることができ、免疫電顕学的研究を行うために最適な加圧凍結置換固定法を開発したので、微生物試料を用いての成果を紹介する。詳しくはPlant Morphology 12, 20-31 (2000)、「微生物利用の大展開」, 中忠行編, 潟Gヌ・ティ・エスp 392-399 (2002)を参照されたい。


  2. 極低温・高分解能低加速電圧走査電子顕微鏡法(ULT-UHR-LVSEM) 

     走査電子顕微鏡(SEM)の分野において、日本では1974年の電子顕微鏡学会誌に、”cryo-SEM”という用語が最初に使われ、英国では1977年に”low temperature SEM”という用語が現れている。当時は凍結した試料をSEMに挿入して、そのまま低温で観察していた。その後、試料をSEMに挿入する際に着く霜を、加熱装置を用いて昇華させ、試料面を露出させて観察したり、SEMの試料室や鏡体内で、割断・コーティングして、低温で観察する方法などが試みられた。透過電子顕微鏡(TEM)用試料の作製において、急速凍結置換固定が主流となった時でも、酵母は厚い細胞壁を有するので、動物や植物の固定法をそのまま踏襲することはできなかった。そこで2枚の銅版に細胞を挟んで急速凍結した後、銅版を引き離して、細胞壁の一部に傷を付けて、オスミウム酸を浸透させるサンドイッチ法を開発して、凍結置換固定に成功した。しかし、この手法では、少量の試料しか固定できない。それを克服したのが、加圧凍結固定であり、装置の市販によって種々の試料に応用できるようになった。一方、1999年にOxford社から売り出されたクライオシステムAlto 2500は、従来のクライオシステム(いくつかのメーカーから市販されてはいたが)では困難であった大型の試料や強固な細胞壁を有する試料などの割断を可能とした。加圧凍結法とクライオシステムを装填した高分解能SEM XL30 SFEGAlto 2500とを組み合わせることにより、「加圧凍結・極低温・高分解能低加速電圧走査電子顕微鏡法」を誕生させることができた。この方法は、加圧凍結した試料を、極低温(185175)で割断し、瞬時に白金パララジウムを2nmの膜厚でコールド・マグネトロン・スパッタ・コーティングして、細胞の表面は勿論、細胞内の微細構造を極低温下(−140℃)で、観察すること可能とした。しかも、そのSEM像は、フリーズレプリカ像と対比できる解像力を有している。さらに、この方法においては、加圧凍結した試料から、SEMTEM用の試料を同時に作製することができるから、両者からの同一試料の情報を同時に得ることができ、比較検討も可能となる(電子顕微鏡Vol.36 (2) 108-110 (2001)、走査電子顕微鏡, 共立出版, 電子顕微鏡学会関東支部編p294-298 (2000)を参照)。


  3. 集束イオンビーム走査透過電子顕微鏡(FIB-STEM)観察法 

     集束イオンビーム(FIB)は細く絞られたイオンビームを試料表面に走査することにより、試料表面より発生する二次電子を用いて、走査電子顕微鏡と似た立体的な画像を得ることができる。FIB加工装置は半導体デバイスの解析や配線修復用として開発された装置であり、材料表面を観察しながら、削ったり、金属を堆積させたりできるユニークな装置である。特定領域の解析が必要な半導体デバイスの分野では、FIB加工技術は最も重要な試料の前処理手段であり、試料作製に当たっては、これらの機能の全てが複合的に利用できる。
     生物試料への応用の第一段階として、これまで電子顕微鏡観察の最も基本とされた超薄切片法で用いられる、樹脂包埋された試料を用いて,材料系分野で確立された“マイクロサンプリング法”を応用して技術開発した。
     
    集束イオンビーム観察装置FB-2100 内で、先ず約3×3×5μmに切り出し、さらに0.3μmの厚さに加工し、走査透過電子顕微鏡(STEM)HD-2300で角度を変えて連続記録し、酵母細胞内のオルガネラを三次元的に解析した例を示す。J. Electron Microscopy Vol.53, (5)563-566 (2004) に報告した。