カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年10月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師の学習(その5)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、初任教師の学習を促す授業研究の方法について考えてみます。

 多くの初任教師にとって、最初のうちは、とにかく1時間1時間の授業をどのように設計するかで精一杯です。その際、初任教師が最も頼りにしているのが教科書会社の指導書です。しかしながら、この時期は、指導書に掲載されている学習指導案から1時間の流れをイメージすることさえも難しいようです。そのことが大きな不安の原因となっています。ここで指導教員に求められることは、初任教師が1時間の授業をある程度までイメージ化できるように、指導教員自らが「子ども役」となって初任教師に授業シミュレーションを試みさせることです。いわゆる「現場版の模擬授業」です。

 一定期間授業を実践することによって、初任教師は1時間の授業の流れをある程度イメージできるようになります。次の課題は、学級の子どもの実態に合うように、指導書の学習指導案を修正することです。そのためには、主要な発問や説明に対する「学級の子どもの反応」を予想できなければならないし、子どもがつまずきやすい学習内容や学習場面を予測できなければなりません。これらは、とりわけ初任教師にとっては難しい課題です。そして、そのことが初任教師にとっては大きな不安の原因となっています。ここで指導教員に求められることは、筆者らが授業研究法として開発した「再生刺激法」などを活用して、「予想した子どもの反応」と「実際の子どもの反応」とのズレを初任教師に実感させることです。

 再生刺激法は、授業中の子どもの学習活動を中断させることなく、授業における子どもの内面過程(認知・情意過程)を把握する方法として開発されたものです。

 その方法と手順は、@授業のビデオ録画、A重要な授業場面の選択、B質問紙による子どもの自己報告(授業終了後、ビデオ録画された授業を子どもに視聴させながら、ポイントとなる授業場面でビデオを一時停止し、授業中に「考えていたこと」や「感じていたこと」を質問紙によって自己報告させる)、C自己報告の分析の四つの過程からなります。

 このような方法によって把握された子ども一人一人の内面過程についての結果を初任教師にフィードバックします。そうすることによって、「子どもの自己評価」と「教師による子ども評価」とのズレを初任教師に意識化させることができます。つまり、「どのような授業場面でズレが大きいのか」「どの子どもに対するズレが大きいのか」「なぜそのようなズレが生じたのか」などについて、初任教師に省察させるのです。そして、それらの一連の思考過程を通して、初任教師は「教材内容に関連した子どもについての知識」を形成していくことが期待できます。このことは、「子どもについての読み」の発達課題を解決することにつながるのです。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

いじめ防止対策推進法の成立A−義務主体としての“学校”?
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 いじめ防止対策推進法は,自治体や学校設置者,校長,教職員等と並んで,「学校」に対して義務を課している。学校及び学校の教職員の責務(8条),学校いじめ防止基本方針(13条),学校におけるいじめの防止(15条),いじめの早期発見のための措置(16条),いじめの防止等のための対策に従事する人材の確保及び資質の向上(18条),インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進(19条),学校におけるいじめの防止等の対策のための組織(22条),いじめに対する措置(23条),学校の設置者又はその設置する学校による対処(28条),公立の学校に係る対処(30条)が,これにあたる。だが,ここでいう学校とは具体的に何を指すのか。この点は必ずしも明らかではない。

 例えば,第8条の「学校及び学校の教職員の責務」では,「学校及び学校の教職員は,基本理念にのっとり,当該学校に在籍する児童等の保護者,地域住民,児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ,学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに,当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは,適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する」とされている。ここでいう学校については,「組織体としての学校とその構成員である教職員」という説明がなされることが多い(組織としての学校)。だが,組織としての学校という説明は,誰が責任の主体(名宛て人)となるかが不明瞭であり,政治的スローガンとしてはともかく,法的主体を指すものとしては適切とは言い難い。

 では,他の法律ではどのように考えられているのであろうか。例えば,学校教育法に,「私立学校は,校長を定め,大学及び高等専門学校にあつては文部科学大臣に,大学及び高等専門学校以外の学校にあつては都道府県知事に届け出なければならない」という規定が存在する(10条)実務上,ここでいう「学校」は,設置者である学校法人を名宛て人としたものとして運用されている。このように,条文ごとに,法的文脈や他の法律を参照し,その意味内容を考える方法を「論理解釈」と呼ぶ。いじめ防止対策推進法の「学校」についても,論理解釈を行い,条文毎に,学校の設置者,校長,教職員等が,単独,あるいは結合し,名宛て人となり,法的責任を負うと考えるべきことになると思われる。

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◇ 学校の風景 ◇

掲示物
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 学校には、様々な掲示物がある。学校目標、学年目標、クラス目標、時間割、係活動の分担や、生徒の活動のための記録、表等であるが、学習内容に合わせて絵画等、個人の作品も掲示されていく。目標に関するものや時間割等は、教室の前面に貼られることが一般的であろうが、どこに何を掲示するかは学級担任の裁量によることが多い。

 中でも、前面黒板周辺の掲示物は、学習中に絶えず子どもたちの視野に入る。それ故にその量や色合いには注意を払わなくてはならない。なぜなら、掲示物が色とりどりである場合、注意力散漫になる児童生徒もいるからである。また、発達障害児にとっては、黒板に貼られた連絡用紙やマグネットさえも集中できなくなる要因となる場合があるので、さらに気を付けなくてはならない。

 掲示物に使用できる紙の種類も豊富になり、目的、用途によりその質、厚さ、色を選べる時代である。自作の掲示物を使い、学級に楽しい雰囲気をかもしだす演出は、情操教育にも有効であろう。特に、教室の中に季節を感じさせる工夫をすることは、伝統や風習を学ぶ上でも意義がある。子どもから、アイデアを募集してもよい。教室内の、どこにそのようなコーナーを作ることができるであろうか、担任と子どもたちが一緒に考えていくのもよいだろう。

 ランチルームが完備されている学校を除くと、教室は給食時には食堂に早変わりする。
食欲を失ってしまうような内容の掲示物があったり、授業後に残っているようであれば、どのような理由からであろうとも即座に撤去すべきであろう。例えば、人体解剖図やごみ処理施設等の掲示物、写真等は授業時には大いに有効であったとしても、食育指導上は、好ましくないものであろう。

 また、個人の作品に破損した状態やいたずら書きはないかと気を配ることは大切である。いじめの発見につながることがあるからだ。いじめの初期段階では、個人の掲示物等へのいたずらが見られることが多いからである。この段階で、教員が事態を把握することができれば、いじめ問題に関して早期に効果的に対応することが可能になるであろう。

 クラスの掲示物の状態を見ると、担任の性格や学級の雰囲気が分かることが少なくない。教員の日常のちょっとした気配り目配りの積み重ねがクラスへの安心感、帰属意識を養っていく。子どもたちが学校で過ごす時間の長さを考えると、担任は教室環境の整備に誠意を尽くし、「環境が人を作る」ことを肝に銘じ、実践したいものである。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜読書指導に発想の転換を〜
「読書生活をひらく『読書ノート』」
 杉本直美著 
 全国学校図書館協議会 定価 800円(税別)

猛暑も去り、ようやく秋。秋と言えば“読書”。最近は、学校でもブックトークや読書マラソンなど読書への興味を持たせる工夫をした読書指導が数多く行われています。

しかし、残念ながら学年が上がるにつれ本から離れてしまう子どもが少なくありません。中学校教員時代、国語科研究主任として、国語の力をつけつつ考える力を育てることを模索していた著者は読書指導に目を向けますが、「主人公の気持ちを考えたり主題を考えたりすれば読書指導的」と、とらえられがちな授業に「何のために読むのかを子どもたち自身が実感しない限り、主体的に本を読む行為には至らないのではないか」と疑問をもちました。そこで、「必要なときに必要な本を探して手に入れ、読むことができる。自らが置かれた状況に照らしながら本と向き合い、自分の読書生活を切り開き、創り出していく力の育成」、つまり「読書生活デザイン力」が読書指導には不可欠という結論に至ります。

その際、手助けとなるのが著者が提案する「読書ノート」です。@読みたい本、A読んだ本、B読書あれこれ、C読書生活を振り返るーという構成の「読書ノート」は、読んだ本の紹介や感想を書くだけではありません。読書に対する思い、図書館・書店に関する情報、テレビ・インターネット・友達から得た本の話題や情報など、読書に関するすべての出来事を自由に書いて構いません。読書が苦手な子どもでも何かしら書くことができ、ノートを使って友人や教師との交流活動を行えることが大きな特徴です。読書生活を豊かにすると共に、書いて考える、考えて書く、という行為が「思考力・判断力・表現力」を育成します。「私は読書家ではないので不安」という先生向けには「困ったときのQ&A」も付いています。

紹介が最後になってしまいましたが、著者は本学文学部国文学科の卒業生で現在、文部科学省国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を務めておられます。既刊「自立した読み手が育つ読書生活デザイン力−子どもが変わる読書指導−」(東洋館出版社、2010年)も併せて読まれると、「読書ノート」の効果がさらに理解できるでしょう。もうすぐ「読書週間」も始まります。子どもたちと一緒に「読書ノート」にチャレンジしてはいかがでしょうか。 (関)

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