カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年11月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

タブレット型端末を活用した新しい授業の可能性
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、今年の10月25日(金)と26日(土)の両日にわたって杜の都仙台市で行われた全日本教育工学研究協議会全国大会(宮城・仙台大会)の中から、仙台市立愛子(あやし)小学校で行われた公開授業の様子を紹介します。なお、愛子小学校は、仙台市の西部に位置し、駅の整備とともに児童数が増加して、広瀬小学校から平成21年4月に分離した新しい学校です。現在も、児童数は1273名、学級数40という大規模校です。

 2年3組で行われた算数の授業「新しい計算を考えよう」は、見学している人に新しい授業の可能性を実感させる、すばらしい実践でした。

 授業者は、30代はじめの舩山和栄先生です。本時の目標は、「いろいろなかけ算の問題づくりを通して、2・3・4・5の段の理解を深める」ということです。

 前時の学習内容(「2×4」「3×5」の文章題の問題づくり)を振り返った後、本時の学習課題(いろいろなかけざんのもんだいをつくろう)が板書されました。

 子どもたちは、ペアとなって1台のタブレット型端末を使い、意気揚々と問題づくりを始めました。まず、二人の組、番号、名前を慣れた手つきで打ち込んでいました。これらのコードを打ち込むことによって、自分たちが作った問題を教室の前方にある電子黒板に提示できるようになっているのです。

 子どもたちは、学習用デジタル教材がインストールされたタブレット端末を自由に操作しながら、次々と問題を作り、電子黒板に送っていました。ある男の子は、8個のチューリップが咲いている花壇を三つ作り、次のように問題を書き込んでいました。「1つの花だんに花は8りんさいています。花だんが3つあります。花はいくつありますか。」これは、8段の問題であって、教師が予定していた5段までをこえる問題になっていました。しかし、子どもにとってはどの段までということは関係がないようです。

 また、電子黒板の送られてきた問題には、「こいが池に4ひきずついます。こいはなんびきですか」といった掛け算になっていないものもありました。もちろん、文章題の下には、二つの池にコイが4匹ずついる絵がつけられているので、問題を作成した子どもの意図はわかるのですが。

 次に、問題ができたペアは、電子黒板に送られた「他のペアが作った問題」をどんどん解いていました。友だちが作った問題を解くのはおもしろいようです。

 このような新しい形の共同学習は、タブレット型端末と電子黒板が有効に組み合わされることによってはじめて実現可能になったのです。今や授業も新しい局面に入ったことを実感させるものでした。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

いじめ防止対策推進法の成立B−いじめ防止対策組織
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 いじめ防止対策推進法は,学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため,複数の教職員,心理,福祉等に関する専門的な知識を有する者等により構成される「いじめの防止等の対策のための組織」の設置を義務づけている(22条)。いわゆる「いじめ防止対策組織」の設置義務である。

 言うまでもなく,いじめの撲滅は,全教職員が一丸となって行うべきものである。だが,この理念を実現するためには,中心となって活動する人材や組織が求められる。いじめ防止対策組織は,まさにそのための組織であり,いじめ問題の予防,解消,再発防止に向けて,イニシアチブを発揮し,活動することが予定されている。それ故に,この組織は,公私立の区別を問わず,全ての小中高等学校に設けられることになる。

 いじめ防止等対策組織は,複数の教職員と学校外の人材(外部人材)で構成することが基本である。教職員からは,管理職や生徒指導主事,養護教諭等が参加することになろう。問題となるのは外部人材である。いじめの克服が,教育,心理,福祉等に跨がる複合的課題であることから,条文上,「心理,福祉等に関する専門的な知識を有する者」が,明記されている。ただ,これはあくまでも例示であり,外部人材は,必ずしも心理,福祉等に関する専門的な知識を有する者に限定されるわけではないことに注意を要する。医師,看護師等の医療関係者,地域に配置されている保護司,児童委員,民生委員,人権擁護委員等も有力な候補になると予測されている。また,教員や警察官のOBやOG,地域の自治会や子ども会の役員等も,当然,候補になると考えてよいであろう。

 なお,いじめ防止対策組織の活動で懸念される点として,プライバシー問題があげられる。いじめへの対応は,調査,指導等,あらゆる場面で,児童・生徒のプライバシーと関わる事項に触れることになる。したがって,外部人材の登用にあたっては,個人情報を保護するために守秘義務等に関する制度を整備することが不可欠と言える。この点については,やはり外部人材を登用している学校評議員制度(学校教育法施行規則49条)の経験が参考になるであろう。

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◇ 学校の風景 ◇

姿勢を見る
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 背筋が伸びている姿は、老若男女を問わず美しいものである。が、身体のどこかに異常をきたすと、どんなに良い姿勢の持ち主でも痛んだ部位をかばい、姿勢が崩れるものである。姿勢は、身体的な安定を保つ技術であるが、一方で、精神活動の基盤でもある。したがって、教員は子どもの身体の姿勢の変化を通し、身体の不調のみならず、心の不調に関しても気がつくことがある。

 姿勢と各運動能力、特に背筋力との関係はよく取り上げられる。背筋が弱いために正しい姿勢を保持できず、体調が悪くなることは十分考えられることである。長年の習慣から悪くなった姿勢を、改めて改善するには努力が求められ、場合によっては苦痛を伴なうこともある。だからこそ、早い段階でよい姿勢を身に付けることは極めて重要な課題である。

 近年の子どもたちの日常の姿勢の悪さは、多くの教職員が指摘するところである。井上文夫他の調査(2011)では、小学3年生の実に67%が授業中の姿勢に問題があるという。同調査では、姿勢が良くない結果として、@机・いすが平行になっていない、Aいすと机の間があきすぎ(つまりすぎ)、Bいすにあさくかけている、C足を後ろに曲げている、D足を前に伸ばし机よりぬき出している、または、横に出している、E足をぶらぶらさせている、Fたてひざをしている、Gほおづえをしている、という8つのカテゴリー(2011年京都教育大学調査項目)を挙げ、これらのよくない姿勢が多いほど、「いらいらする」「悩みがある」「授業に集中できない」などの心の不安定さが表れるという。子どもたちの姿勢の改善は、心の問題からも喫緊の課題と言える。 

 前述の井上たちの調査では、食事中の姿勢について注意を促している家庭の児童ほど、姿勢がよいという結果が出ている。学校でも、根気よく注意深く声をかけていきたいものだが、学校で「姿勢を正す」指導をおこなうときは、規律遵守や学習態度の矯正に教員の意識があるように感ずる。「姿勢を正す」ことは、子どもの健康に関する声掛けととらえたいものである。そのうえで、良い姿勢を成長段階で身につけることの重要性を熱く語りたいものである。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜災害にひるまず自律的行動をとれる準備を〜
「京大人気講義 生き抜くための地震学」
鎌田 浩毅著 ちくま新書 定価 800円(税別)

「天災は忘れた頃にやってくる」といわれるように、自然災害の記憶は時間とともに風化していきます。東日本大震災から2年余が経ち、私たちの地震への恐怖も薄らいでいるような気がします。しかしその一方で、専門家の間では近い将来、「首都直下地震」、「南海トラフ巨大地震」、そして巨大地震が誘発する「富士山噴火」が起こることは確実視されており、様々な予測情報が飛び交っています。

京都大学で地球科学を教えながら地震・津波・噴火のアウトリーチ(啓発・教育活動)を続きてきた著者は、地震予測の情報が「一部の人は過剰な心配をしたり、逆に予測情報を軽視したりという両極端な現象を生んでいること」を懸念しています。「『3.11』で日本列島の地盤は完全に変化してしまった」状況を正しく認識し、地震や噴火の被害から人災を減らして被災を最小限に食い止める「減災」の重要性を訴えます。

本書は、地震が起こるメカニズムだけでなく、災害場面を想定した実用的なノウハウも豊富です。例えば、「帰宅支援マップ」を用いて都心から千葉県松戸方面に歩いた体験レポートがあります。フィールドワークで足腰に自信がある著者でも山道より舗装道路を歩くほうが足への負担が大きく、5時間、距離にして11キロメートルで中断。ペットボトルの水500ミリリットルはすでにカラ・・。実際に歩いてみて、東京の下町にはどんな危険があるか、どれくらい疲れるものか実感できた、といいます。

一方、「減災」については、梅雨の雨、秋の台風、冬の豪雪などに規則的に訪れる自然災害に合わせて防災行事に取り組むことを提案しています。大掃除の時に防災グッズの交換をしたり、海開きの日に津波の訓練をしたり、という具合です。人々が楽しみながら参加できるイベントや年中行事の中に結果的に防災になるようなシステムを採り入れる提案をしています。「2030年代には西日本を巨大地震が襲う」という著者の言葉は確かにショッキングですが、自律した行動こそ生き抜くポイント、と改めて思える一冊です。 (関)

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