カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年9月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師の学習(その4)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月も、先月に続いて、横浜市立川上北小学校のメンターチーム「メリーズ」を取り上げて、具体的な活動の様子を紹介します。

 私が見学に訪れたのは、平成25年7月22日でした。まさに夏休みに入る直前でした。

 今回のメンターチームの会合のねらいは、「子どものつくったもの」を持ち寄って、3か月の実践を大いに自慢しあうことを通して、教師一人一人の指導観や評価観などを共有・交換することにありました。そして、お互いに今後の実践に生かしていこうとしているわけです。もちろん、3か月間にわたる実践を行ったメンティ(5年目までの若手教師)を評価し、サポートする意味もあるようでした。特に、3名の初任教師にとって、この3か月は本当に大変な時期であったわけですから。

 本日のメニューは、寿司のネタになぞらえられていました。本当にアイデア豊かです。

 それらは、(1)たまご(アイスブレイク)→参加者をリラックスさせるために、風船を用いてのバレーボール、(2)えび(テーマ;夏休みにしておきたいこと、やっておきたいこと)→「買ったけどまだ読んでいない本が何冊かあるので、それらの本を読む」「海外旅行に行くので、食に関する教材研究を行う」「関心・意欲・態度の評価について学ぶ」など、(3)まぐろ(自由に話そう!)→「子どもたちががんばった成果」として自信をもって出せるものをお互いに見合いながら、その良さや指導のポイント、評価のポイントなどについてグループで話し合う。本日のメイン・ディシュ、(4)うに(締めのあいさつ・次回の予告)→次回は初任研の対象となっている教師の授業研究、(5)茶碗蒸し(最後まで頑張った自分にお菓子)、(6)酒(行きたい方は誘い合って。ついに夏休み)といった盛り沢山のメニューとなっていました。

 この日のメイン・ディシュである「子どもたちの作品から3か月を振り返ること」の様子を紹介します。

 6年生を担任している中村恵子先生は、嬉しそうに何人かの児童の「歴史新聞(奈良・平安新聞)」をグループの先生方に見せながら、作品の特長を説明していました。ある女子児童の作品(新聞)は、まるで中学生が書いたもののように素晴らしいものでした。「聖武天皇が東大寺大仏にたくした思い」をテーマに、「ききん」「伝染病」「貴族の反乱」といったことから世の中が不安になっていたのを聖武天皇が大仏によって鎮め、政治を安定させようとしたことなどが、写真やイラストを入れながら的確にまとめられていました。そして、最後の欄には「編集後記」とした児童の感想が書かれていました。

 中村先生は、教職5年目の教師です。来年からは、立場を変えて、メンターチームのリーダーか、サブリーダーといった重要な役割を担うことになります。この社会科の実践は、この教師の成長を裏付けるものでした。同僚教師からも、「どのようなことに気をつけて書かせたのか」、「これらの作品をどのように評価するのか」など、次々と質問が投げかけられていました。この実践に対する同僚の関心はとても高いものがありました。

 隣のグループでは、学力面で低い児童がすばらしい俳句を作ったことを自慢げに紹介する女性教師がいました。「春の風 春のにおいを はこぶ風」といった句が緑色の短冊に書かれていました。児童の作品(学びの成果)を同僚に自慢できる教師は、つくづく幸せだと思いました。

 本校のメンターチームの特長は、このようなソーシャル・サポートにあるのです。教師は、まさに同僚によってほめられ、同僚から認められながら成長するものなのですね。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

いじめ防止対策推進法の成立@
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 6月28日,いじめ防止対策推進法が成立した(平成25年法律第71号)。同法は,公布の日から起算して3月を経過した日から施行されることになっており,9月下旬から,その効力が生じる予定である。今後,いじめ対策の中核を担うことになると考えられるこの法律について,今号から数回にわたって,学校現場との関わりを中心に考えてみることにしたい。なお,詳細については,坂田仰編『いじめ防止対策基本法 全文と解説』学事出版(2013年10月刊行予定)を参考にして頂ければ幸いである。

 周知のように,いじめ防止対策推進法は,滋賀県大津市のいじめ自殺事件を直接的な契機としている。この事件を例に出すまでもなく,いじめは,いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し,その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えることになる。また,その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれが存在している。これらの点に鑑み,同法は,児童等の尊厳を保持するため,いじめの防止等(いじめの防止,いじめの早期発見及びいじめへの対処をいう。以下同じ。)のための対策に関し,基本理念を定め,国及び地方公共団体等の責務を明らかにし,並びにいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針の策定について定めるとともに,いじめの防止等のための対策の基本となる事項を定めることにより,いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的としている(1条)

 いじめ防止対策推進法によって,「児童等は,いじめを行ってはならない」とされた(4条)。法律の制定によっていじめがなくなるわけでないことは,改めて言うまでもない。だが,罰則規定等は存在しないものの,法律によっていじめが明確に禁止されたことは,いじめの撲滅に向けた国民の決意の表明として,大きなメッセージ効果を有するものと考えられている。

 なお,ここでいう「いじめ」とは,「児童等に対して,当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって,当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」を意味する(2条1項)。以前から学校現場で使用されてきた定義と同趣旨と言えるが,近年問題となっている「ネットいじめ」が明記されている点に留意する必要があろう。

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◇ 学校の風景 ◇

行事
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 多くの小中学校で、校内合唱コンクールが開催される時期が近くなった。児童生徒の中から、指揮者をはじめ、ピアノ伴奏者、パートリーダー等が選ばれ、クラス一丸となって練習に取り組む姿は、それだけで胸を打ち、保護者や地域住民の関心を集める。

 合唱コンクールでは、一般に課題曲と自由曲の2曲を歌うことが多いが、実情に合わせ、課題曲だけ、あるいは自由曲だけという学校もある。自由曲を決定する際には、何を合唱に求めるかでクラス内で意見が分かれるところでもある。クラスの音楽的な力量を配慮しつつも、自分たちにとって、どんな曲がふさわしいかを選んでいく。そのためには、何度となく曲を聴く、歌詞の意味を考える、アドバイスをもらうなどの手順を踏む。このステップが大事である。

 小学校高学年から中学生が好んで歌う曲に、松井孝夫作詞作曲の「マイバラード」がある。定番ともいえる曲であるが、松井氏はこの曲を作った1987年当時、荒れた中学校の教員であったと言う。『どうすれば、クラスの子どもたちが仲良く、一緒に過ごせるだろうか。一緒に合唱練習ができるだろうかと、思い悩んでいたときにひらめくようにしてできた』曲である。「みんなで歌おう」と呼びかけで始まるこの曲の歌詞の一節一節は、仲間がいるじゃないか、辛いことを一緒にのりこえていこうと呼びかけられた感じがする。そう言って、小中学生たちはこの曲を選ぶことが多いようだ。

 児童生徒たちは、成長の過程で悩むことがある。これは、避けて通れない。どうすればよいかと悩み、考え、解決していく過程で自己が確立されていく。そして、他の価値観と出会ったときに、ますます自分の価値観を認識することになる。行事の取り組みでは、互いの価値観の違いが明らかになることが多い。クラスとしても山あり谷あり、涙あり笑いありという局面があるだろう。合唱コンクールで、心ゆさぶられる曲にめぐり会った後、練習時の対立や協力を経て、互いに成長していくことができる。また、達成感を味わえる。このような経験は、その後の人生に豊かさを提供してくれるに違いない。

 学校は、塾ではない。多くの他者との共同作業の中で養われる心の成長は、点数で測ることができない。この点において、合唱コンクールばかりでなく各行事の果たす役割は大きく、そこで培われるものは、他に代えがたい。それゆえ、授業時数確保等のために行事の精選や内容の検討が進む中ではあるが、学校行事そのものを安易に削減すべきではないと考える。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜「負の記憶」はどう伝えられているか 〜
「訪ねてみよう 戦争を学ぶミュージアム/メモリアル」(岩波ジュニア新書)
[記憶と表現]研究会 著
岩波書店 定価780円(税別)

先月、松江市教育委員会が市内小中学校に漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を求めていたことが明らかになりました。結局同教委は閲覧制限の要請を撤回しましたが、戦争という子どもには見せたくない「負の記憶」をどう伝えるべきか、大人が問われる出来事でもありました。

さて、本書は戦争の被害や記録を後世に伝えるために設立された「ミュージアム」(博物館、美術館、資料館、記念館など)と「メモリアル」(記念碑、遺構など)のガイドブックです。ただ、それらを網羅的に集めたものではなく8テーマを設け、前半は「沖縄戦の記録」、「ヒロシマとナガサキ」、「空襲」、「動員/戦場/加害」と、いわゆる「15年戦争」あるいは「アジア太平洋戦争」そのものを扱った施設、後半には「平和運動のうねり」、「アジアと日本―戦争展示の比較」、「冷戦下の〈戦争〉」、「21世紀に負の記憶をどう伝えるか」と、少し視点を変えた施設が並びます。通常のガイドブックと少し違うのは、戦争や災害の記憶がどのように表現されているか、表現されるべきかを研究する建築史と歴史の専門家が執筆しているためです。

著者は、ミュージアムそのものが表現であり、展示内容だけでなく、「誰が、何のために」その施設をつくり、運営しているのかに注意することが重要、といいます。中国や韓国には加害者としての日本を衝撃的な展示で映し出すミュージアムもありますし、アメリカには広島に原爆を投下したB-29を堂々と展示するミュージアムもあります。ミュージアムの展示には価値中立的なものではなく、どのような展示であっても制作者側の意図が込められているというわけです。一方、ミュージアム/メモリアルが存在しないことにも意味があるといいます。

高校生以上の若い世代を対象に書かれていますが、「知ったつもり」になっている大人にこそ必要な書かもしれません。「その場に立って目で見ないとわからないことが絶対にある」という著者の言葉に従って、これらのミュージアムを訪ねてみたくなりました。  (関)

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