カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年8月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師の学習(その3)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、横浜市立川上北小学校のメンターチーム「メリーズ」を取り上げて、具体的な活動の様子を紹介します。

 川上北小学校は、昭和44年4月に川上小学校から分離・独立した、今年で創立45周年になる学校です。JR東戸塚駅から徒歩3分の「交通の便のよい」ところにあります。そして、児童数は900名を超え、教職員も54名という規模の大きな小学校です。

 同校では、前田崇司校長の卓越したリーダーシップのもとで、教職員の専門性を高める学校組織(学びの共同体)を構築するために、さまざまな試みを展開しています。それらの試みの中核にあるのが「メンターチーム」と「共同研究」です。

 同校のメンターチームは、「メリーズ」とよばれ、メンティー(教職5年目までの若手教師)として11名(1年目3名、3年目2名、4年目1名、5年目3名、臨採2名)、メンターとして6年目2名(リーダー、サブリーダー)と校内年次研修者コーディネーター・ファシリテーター2名、その他のアドバイザーとして随時、校長、副校長、主幹教諭などが加わっています。このように、実に多様なメンバーが柔軟な組織形態のもとで参加しているのが、「メリーズ」の特長です。

 私が訪れたのは、平成25年6月5日(水)の今年度第3回目のメンターチームの研究会で、「学級経営と学級環境」がテーマでした。

 同校のメンターチームの研究会のプログラムは、毎回、料理のメニューのように構成されています。実におもしろい考え方です。当日は、(1)先付(アイスブレイク)→参加者をリラックスさせるための簡単なゲーム、(2)刺身(テーマ;発言ルール)→挙手・つぶやきの使い分け、「はい」の有無、起立の有無、聞かせる方策などを自由に話し合う、(3)焼き物(教室ツアー)→各教室を巡って、掲示物などの教室環境について気づいたことや思ったことを遠慮なく伝え合う。本日のメイン・ディシュ、(4)煮物(体育安全研修)→この活動は、翌日に延期された、(5)酢の物(締めのあいさつ・次回の予告)、(6)菓子(最後まで頑張った自分に)、(7)酒(行きたい方は誘い合って)といったユニークで盛り沢山のメニューとなっていました。

 この日のメイン・ディシュである「教室ツアー」の様子を紹介します。

 参加者の教室を低学年から見て回りました。教室の掲示物や展示物などを見て、「工夫しているナァ」「どのようなねらいや考えがあるのかナァ」と感じたことを各教室の担任教師にたずねていました。そのやりとりはとても和やかで、しかも何かを学ぼうという雰囲気が参加者に漂っていました。

 私が、とても感心したのが、2年4組を担任している渡瀬将二郎先生の教室でした。この先生は1年目の初任教師であるのに、とてもしっかりとした掲示物やはり紙を教室の壁全体に貼っていました。例えば、教室の前面には、学級の愛称「たんぽぽ」と、学級目標「がんばる」「なかよく」「たすけあう」のはり紙があり、低学年の児童に親しまれやすい文字で書かれていました。また、「話し方(みんなのほうを見て、みんなにきこえるように、はっきりとさいごまで)」や「聞き方(はなしている人を見て、うなずきながら、しっかりとさいごまで)」といった集団学習の基本となることがはり紙で明確に示されていました。渡瀬先生によれば、「いろいろなはり紙は子どもができるようになったら外していく」ということでした。しっかりとした考えをもっているナァと感心しました。そして、参加者一同が注目したのが、教室前方の入り口に大きなはり紙で書かれた前回の国語と算数の学習内容です。算数では、45−18の「繰り下がりのある引き算」の考え方と筆算方法がわかりやすく4枚の画用紙に3色のマジックで書かれていました。このはり紙は、渡瀬先生によれば、「前の時間の国語や算数の学習内容を本時の中で30秒間でも視覚物で見せるとよい」との初任者指導教員の助言を受けて、毎回掲示しているとのことでした。的確な指導・助言をされた指導者はもちろん立派ですが、助言されたことを素直に受け止めて継続している渡瀬先生も立派です。さらに、教室の後方の壁には、「学習コーナー」の国語や算数には、前の単元の学習内容がコンパクトにまとめられて掲示されていました。

 参観者は、ワイワイ言いながらも、この初任教師の教室環境から多くのことを学んでいました。このように、メンティーからメンターやベテラン教師が学ぶこともあるのが、本校のメンターチームの特長なのです。まさに、教師の学びは「相互啓発学習」なのですね。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

文部科学省「体罰に係る実態把握(第二次報告)」を読む
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 平成25年1月,文部科学省は,大阪市立桜宮高等学校の体罰自殺事件を受けて,体罰の実態調査に本格的に乗り出した。いわゆる体罰緊急調査の実施である。その最終報告というべき,第二次報告が8月9日公表された。この調査結果について,紙幅の許す範囲で概観することにしたい。

 調査は,「児童生徒に対する体罰の実態を把握し、体罰禁止の徹底を図るため」に行われたものである。平成24年度に発生した体罰について,全国の「国公私立の小学校、中学校、高等学校(通信制を除く)、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校」を対象に実施された。これまで,私立学校を対象とした本格的な体罰調査はほとんど存在せず,これを対象に入れた点に特徴が存在している。

 今回,平成24年度一年間に,全国で6721件の体罰事件が発生していることが明らかとなった。4月下旬に出された第一次報告(平成24年4月〜平成25年1月分)では,発生件数は840件であった。それが,八倍にも膨れ上がったことになる。この数字は,関係者の予測を遙かに超えており,大きな衝撃をもたらすことになった。

 校種別の内訳をみると,小学校で1559件,中学校で2805件、高等学校で2272件,特別支援学校で47件,その他校種で38件という結果になっている。中学校,高等学校での体罰が,圧倒的多数を占めていることが分かる。大きな要因は,桜宮高等学校事件でも問題となった部活動である。中学校で1073件(38.3%),高等学校で948件(41.7%)の体罰事件が,部活動の場面で発生している。その多くは体育会系の部活動であり,「スポーツは,努力と根性,そして体罰。」という,非科学的,前近代的な指導方法が,今も学校現場の主流となっていることを示唆するデータである。

 部活動関係者がどのように反論しようとも,部活動関連の体罰事案が,中学校,高等学校ともに,全体の四割前後を占めているという事実は覆らない。部活動指導における体罰問題を解決するだけで,体罰事件は激減するという計算が成立することもまた同様である。中学校,高等学校の関係者は,この点に留意し,部活動のあり方を根本的に考え直す必要があるといえよう。

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◇ 学校の風景 ◇

携帯電話
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 携帯電話は、利便性の高いコミュニケーションツールであるが、若年層が保有する際の危険性については、早くから指摘があった。元群馬大学教授下田博次氏は、最も早く携帯電話に関するリスク教育を提唱した知識人の中の一人である。氏とその支援グループは保護者を対象に携帯電話の危険性を伝える活動を行っている。この活動の大きな特徴は地域の有志の中から指導者を育て、自治体と協力しながら小中学生の保護者に直接伝達していく点にある。このような取り組みは、指導者の顔が見え、「なんだ、同じような不安を持っていた人なのか。」と、聞く方に安心感を与え、質問が出やすい。電子機器に関しては、時には子どもの方が親より詳しい場合がある。だからこそ、地域の人が指導者になり共に考え伝えていくこのような試みは、技術の進歩に対する危惧以上に、本来、家庭が持つべき対話の姿とその必要性を浮き彫りにしていく。

 携帯電話を媒介とした事件事故の報告は、後を絶たない。残念ながら、性犯罪事件も相当数含まれている。本年5月13日に警視庁より発表された資料によると、平成24年度下半期に、コミュニティサイトを介する被害児童の約86.9%は携帯でアクセスしていた。コミュ二ティサイトの利用について親から注意を受けたことがなかった児童は28.2%であるが、親にサイト利用を隠し、またはゲーム利用と偽っていた児童を含むと50%を超える。また、被害児童のうち92.3%はフィルタリングの設定がなかった。携帯電話を媒介にした問題が、学校現場や家庭の周辺でしばしば起こっていることを、保護者はもっと知らなくてはならない。

 有害サイトへのアクセスを制限するには、フィルタリングは有効である。もちろん、フィルタリング機能で、子どもへの被害が完全に防げるものではないが、利用制限など保護者の意思を反映しやすい。この機能に関しては、「ガラケイ(ガラパゴス携帯)」と呼ばれるもともとの携帯電話と、スマートフォンでは大きな違いがある。フィルタリング機能を活用しやすいのは圧倒的にガラケイである。一方、スマートフォンにはフィルタリング機能がつけにくい。

 チェーンメールはもとよりライン、ツイッターなどのSNSも、場合によってはいじめを誘引する。2013年6月に制定された「いじめ防止対策推進法」においては、いじめの定義の中にインターネットを通じて行われたものを含むと明記された。このことからも、事態が相当深刻であることが推察される。

 保護者が子どもを護るということを肝に銘じたうえで、スマホも、ガラケイも子どもに買い与えなければならないと考える。最終的には、家庭が有する人間フィルタリングこそが、携帯電話の危険性からわが子を守る最大の武器なのではないだろうか。学校では、タイムリーなメディアリテラシーを展開することで、人間フィルタリングの後方支援ができる。今や、就職試験もインターンネットを介して情報がやり取りされる時代である。子どもたちは、やがて各種電子機器を使いこなし、情報社会に適応していくだろう。しかし、成長過程においてあまりに無防備な状態で、「知らなかった」危険にさらされないように、保護者は用心するよう、学校からもリスク教育の発信が求められている。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜「考える」を「見える化」する〜
「思考力の鍛え方―学校図書館とつくる新しい『ことば』の授業」 桑田てるみ編著 学校図書館とことばの教育研究会
静岡学術出版 定価1,200円(税別)

新学習指導要領が本格実施となり、学校では「思考力・判断力・表現力」育成のための「言語活動」の充実に取り組まれていることと思います。PISA調査で日本の子どもたちに不足しているとされた「思考力・判断力。表現力」育成のための「言語活動」ですから、形だけのレポート作成やプレゼンを行う学習活動でないことは確かです。中央教育審議会答申の各教科の「言語活動」例には「視点を明確にして、観察したり見学したりした事象の差異点や共通点をとらえて記録・報告する」(社会・理科等)とか「比較や分類、関連付けといった考えるための技法、帰納的な考え方や演繹的な考え方などを活用して説明する」(算数・数学・理科等)など、「比較や分類」、「帰納的」、「演繹的」など欧米型の論理的思考のための技能(思考スキル)が求められていることが伺えます。

本書はアメリカ・カナダの探究型学習で用いられている思考スキルや言語スキルを紹介し、日本の中学校でそれらを実際に活用した授業例を紹介します。課題解決プロセスにそって、「クラスタリング」、「フィッシュボーン・マッピング」など、思考を可視化するワークシートや図・表を活用しますが、何より学校図書館との協働授業を試みているのが大きな特徴です。学校図書館は「読書センター」であり、「学習・情報センター」でもあります。実は司書教諭や学校司書は課題解決型の学びを支援するスキルをもっているのですが、残念ながら同僚には認識されていないことが少なくありません。学校図書館と協働授業を行った中学校教師の一人は「図書館の支援を受け、ティ―ムで授業を創りあげていくという意識を持っただけで、何か重たくのしかかっていたものから解放され、新しい活力が満ちていくのを感じた」と感想を述べています。「よく考えて!」と教師に言われても「わかんない」「別に・・・」としか答えられない子どもたちを笑顔にするために、そして教師自身のストレスを軽減するための手がかりにされてはいかがでしょうか。 (関)

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