カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年7月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師の学習(その2)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、校内での研修(OJT)を通しての「教師の学習(Teacher Learning」について考えてみます。

 ところで、東京、横浜、名古屋、大阪などの大都市圏では、教職員の大量退職に伴う大量採用によって、学校現場は、経験の少ない若手教師の急増と多くのベテラン教師、そして少ない中間層といった二極化の状況となっています。例えば、東京や横浜の大多数の小学校では、採用10年以下の教師が過半数を占めるといった状況にあります。

 そこで、横浜市教育委員会では、今後も大量採用が見込まれる初任者の早期育成と、成長し続ける学校組織を育成するための「校内OJTシステム」として、平成18年度から「メンターチーム」を推奨しています。そして、その実践成果が、単行本(横浜市教育委員会『「教師力」向上の鍵―「メンターチーム」が教師を育てる、学校を変える!―』時事通信社)にまとめられ、全国の教育関係者から注目されています。

 横浜市ですすめる「メンターチーム」は、メンター(教職6年目から10年目の教師)とメンティ(初任者、初任2年目、初任3年目を中心に、教職5年以下の教師)を複数対複数の関係にして、経験のある先輩と経験の浅い後輩の「タテ」の関係と、同期や1、2年先輩といった同じキャリアステージにある「ヨコ」の関係を相互に組み合わせているところに特徴があります。そうすることによって、1対1の関係によるメンタリングで受ける心理的な圧迫を軽減できるとともに、仲間から精神的なサポートを受けることができるわけです。そして、主幹教諭や初任研コーディネーター・指導教員などがアドバイザーとして「メンターチーム」に参加しています。そこに、ベテラン教師がもつ経験知が活かされているのです。

 実によく考えられたOJTシステムであるといえます。そこでは、初任教師の学習を促すだけでなく、5年次や10年次教員研修の一環としても機能しています。つまり、5年次や10年次の教師は、メンティにアドバイスをすることを通して、自らの研修を深める機会となっているのです。まさに、教えることによって、学んでいるのです。

 来月号では、横浜市立川上北小学校のメンターチーム「メリーズ」を取り上げて、具体的な活動の様子を紹介します。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

被害者の保護と公正な裁判の実現−わいせつ事件を巡って−
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 7月12日,和歌山県下で,担任をしていた中学二年生の女子生徒に淫らな行為に及んだとして,公立中学校に勤務する男性教員が逮捕された。児童福祉法違反の容疑である。7月に入り,同様の行為は栃木県下でも発覚しており,やはり児童福祉法違反で公立中学校の教員が逮捕されている。学校を舞台とした教員のわいせつ行為,いわゆるスクール・ハラスメント根絶の困難さを象徴する出来事と言える。

 ともあれ,刑法や児童福祉法に違反したとして逮捕された場合,警察の取り調べを受けた後,検察官に送致される。そして,検察官の公訴提起を受けて,公判が開かれ,判決を受けるというのが通常の流れである。だが,東京地方裁判所において,この流れが滞り,物議を醸している。東京地方検察庁が公訴提起にあたって,被害児童の氏名を伏せたことがことの発端である。

 事件は,小学生が,面識のない男性に公園のトイレに連れ込まれ、わいせつな行為をされた上に写真を撮られたというものであった。被害児童の保護者は,本人が特定されるならば誹謗や中傷等の二次的被害を受ける可能性が強いとし,東京地方検察庁に対して匿名での起訴を要望したと言われている。検察側はこの要望を容れて,被害児童の氏名を明らかにせず,年齢だけを記載し,犯行に及んだ日時,場所、方法等を起訴状に記載した。これに対し,東京地方裁判所が,被害児童の氏名を明らかにすることを求めたのである。

 学校の場合,教員のアカデミック・ハラスメントに対して,被害児童・生徒の保護を理由に,氏名どころか,日時や犯行の場所,学校名まで,非公表とされることも少なくない。それ故に,東京地方裁判所の要求に不可解なものを感じる学校関係者は少なくないであろう。

 だが,刑事訴訟法は,「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない」とした上で,「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければなら」ず,「訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」旨を規定している(256条1項,3項)。可能な限り訴訟の対象を絞り込むとともに,冤罪や被告側の訴訟負担を避けるために設けられた制度である。

 被害者の氏名は,ここでいう罪となる事実の一部として,記載されるのが一般的である。東京地方裁判所は,公正な裁判の実現という視点に立ち,従来のやり方に従うことを求めているのである。学校現場であれば,被害者優先の一言で済まされる問題も,刑事裁判においては簡単に割り切ることが出来ない。公正な裁判をどのように実現するかという司法制度の根幹と,被害者保護との間で,東京地方裁判所が揺れていると見るのは,いささか大げさであろうか。

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◇ 学校の風景 ◇

委員会活動
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 小中学校の委員会活動は、学習指導要領において、特別活動の中に位置づけられている。どの学校も、学級委員会、保健委員会、放送委員会等同じような名称の委員会を有するが、その取り組みには各学校の独自性がある。児童生徒の活動が、他の児童生徒のみならず保護者にまで影響を与えた委員会活動の例を紹介したい。

 入間市立黒須小学校の保健委員会の取り組みである。委員会の児童たちは、本年5月に普段食べているお菓子の全校調査をした。その結果、スナック菓子、アイスクリーム、チョコレートが、どの学年でも多く食べられていることがわかった。教員はスナック菓子、チョコレートは予想していたが、調査時が夏ではなかっただけにアイスクリームの多さに驚いた。児童たちは、食品に含まれている糖分を中心に児童朝会で発表したが、それに先立ち学校保健委員会でも発表した。学校保健委員会とは、教職員・校医・学校歯科医・学校薬剤師・保護者代表・児童生徒等を委員とした、学校における健康に関する課題を研究協議して健康づくりを推進する組織である。

 保健主事、養護教諭からは、糖分のみならず、近年心配されている脂質の取りすぎについて心配の声が寄せられた。昨今、大人になってからの健康に、学齢期の栄養状況が大きく関わっているといわれているからである。これを受けて、学校保健委員会では、子どもたちに、スナック菓子やアイスクリームの中の脂質が見てわかるような簡単な実験が企画された。1つの実験はスナック菓子を熱湯に入れ、2分間煮るだけであるが、ほとんどのスナック菓子に油膜が厚く浮き上がった。参加の保護者から、驚きの声が上がったのも無理はない。一般に、学齢期の児童の1日の摂取脂質量は約55gであるが、そのうちお菓子としての適正摂取量は6gといわれているが、この日の実験で、あるスナック菓子80g(小一袋分)から約10gの脂質が確認できたからである。

 保護者が子どもの健康問題の現状を知り医療関係者とともに協議し、直接アドバイスをもらうことができるこのような状況は、まさしく開かれた学校と言えるであろう。この黒須小学校では、学校歯科医師をはじめとした医療関係者の学校保健委員会への出席率が高いこともうなずける。さらに、児童の発表の場面が多く設定されている点も効果的である。発表という緊張する場面を通しての自己肯定観・達成感は、経験でからしか学びえないものであり貴重である。各地で、このような意欲的な取り組みが実施されることを期待し、支持したいものである。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜災害は現場で起きている!〜
「いのちを守る気象情報」
斉田季実治著 NHK出版  定価740円(税別)

関東地方では梅雨明けと同時に猛暑が続き、熱中症対策が気になりますね。ところで最近は、熱中症注意を呼びかける「高温注意報」をはじめ、「暴風警報」「大雨警報」「津波警報」など様々な気象情報に触れることが多くなりました。

とはいえ、やはり自然災害による事故は起きています。「『情報』だけではいのちを守ることはできません。数分のニュースや気象情報の中に詰まっている『いのちを守る情報』を活かすためには見る側にもある程度の『知識』が必要であり、自分だけは死なないという『意識』から変えていく必要があります」というのがNHK「お天気お兄さん」である著者の主張です。以前所属していた報道部における災害取材を通して、正しい情報によって救われるいのちがあることを痛感した著者。気象キャスターとしてできることは何かを問い続けた答えの1つが本を書くことだったそうです。

ですから本書は、「台風」「大雨」「地震」など8種類の自然災害の基本的メカニズムはもちろん、私たちが予報・警報をどう読み、どう行動すべきかにフォーカスしています。例えば、大雨では「どれくらいの雨が降ったときに、どのような災害が起こる可能性があるのかをイメージする」。雨の強さを表す予報用語は5段階ありますが、「やや強い雨」は「地面からの跳ね返りで足元が濡れる」、「強い雨」は「傘をさしてもぬれる」、「激しい雨」は「道路が川のようになり、山崩れ、がけ崩れが起きやすい」、「非常に激しい雨」は「川やがけのそばに近づいてはいけない」、さらに「猛烈な雨」は「大規模な災害発生のおそれがあるので厳重な警戒が必要」といった具合です。災害ごとにまとめられた「行動に移すためのチャート」のほか、「雷ナウキャスト」や「降水ナウキャスト」など気象関連webサイトが紹介された「最新情報の集め方」も役立ちます。

子どもたちのいのちを守る皆さんにも是非読んでいただきたい一冊です。(関)

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