カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年6月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師の学習(その1)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月号から数回にわたって、「教師の学習(Teacher Learning)」について考えてみます。

 「学び続ける教員を支援する仕組みの構築」ということが、2012年8月に出された中教審答申で言われているように、教師の学習を支援する仕組みを考えることが授業改善や学校改革にとってますます大切なこととなっています。

 授業において、子どもが「教科や教材を学ぶために学習(Learning to learn)」するのに対して、教師は「教科や教材を教えるために学習(Learning to teach)」するのです。では教師は何を学習するのでしょうか。それらは、大別すれば、「信念(教育観、授業観、子ども観、指導観、教材観など)」「知識(教材・指導方法・子どもなどについての知識)」「技術(授業設計・実施・評価、学級経営などについての技術)」の三つです。

 ところで、教師はどのような機会や方法で学習しているのでしょうか。大まかに言えば、わが国の教師は、「自己研修」「校内研修」「校外研修」といったさまざまな機会や方法で学習しています。特に、「校内研修」での授業研究(レッスン・スタディ)が海外の教育関係者から注目されています。

 今回は、ミドル・リーダーである小・中学校の研究主任55名が、石川県教育センターで行われた「校内研修を活性化する授業研究の在り方」という課題の校外研修でどのような学習をしたのかを紹介します。

 この研修は、校外研修でありながら、校内研修のことを考えるという興味深いものです。つまり、これらの教師は、授業者としての力量を高めるだけでなく、校内の授業研究を活性化させるリーダーとしての力量を高めることが求められているのです。

 この講座は、今月の7日(金)の9時半から16時半まで行われました。また今年の12月に午後の半日行われます。

 7日の午前中は、私が、「校内研修の活性化のために」というテーマで講義をしました。そして、午後から「授業分析の在り方」をテーマにワークショップを行いました。そこでは、参加者が5名(4名が小学校教師、1名が中学校教師)ずつのグループに分かれて、ベテラン教師が実践した小学校・6年算数「円の面積の求め方(正方形の中に書かれた二つの4分の1の円の隙間の面積を求める学習)」の授業ビデオを使って、授業分析を行いました。そして、授業分析のために、「VTR中断法」が採用されました。というのも、授業をマルゴトすべて分析するよりも、研修時間のことを考えると、授業のポイント場面での教師の対応行動(手だて)について集中的に検討することが有効なケースが多いからです。なお、VTR中断法は、録画された授業(他の教師が実践したもの)のポイント場面でVTRをいったん停止させて、「もしあなたがこの授業者であったら、次にどのような教授行動(手だて)をとるつもりですか」というように、視聴者(同僚教師あるいは学外の教師)に次の手だてについての意思決定を求める方法です。このワークショップでは、「個人で解決できた児童が2、3人(20人のうち)に過ぎなかった場面」「集中力が落ちた児童が数名みられた場面」「二つの解決方法が出たが、他の方法を出させるか迷っていた場面」の3場面で授業VTRを中断させて、グループのメンバーで議論してもらいました。

 さすがに主任教師だけあって、各グループともそれぞれの場面で複数の手だてが考え出されました。

 もしこのような方法を「校内研修の授業研究」で採用するならば、参加している教師(特に、若手教師)の教授知識を豊かなものにさせることにつながると思います。というのは、他の教師(同僚の中堅・ベテラン教師)の意思決定の内容とその理由を知ることによって、教材内容とのかかわりの中で手だて(教授方法)の多様性と適切さを学ぶことができるからです。

 また、「そのような授業場面において、どのような教授行動が他に考えられるか(代替策の可能性の探索)」を、校内の教師全員で模索することは、「授業ルーチンの確立」という若手教師がもっている発達課題の解決に道を開くことになります。例えば、授業に集中できない子どもがいた場合に、「どのような注意をその子どもにあたえるのか」「注意をあたえる代わりに、その子どもにある課題を提示するのか」「話を聞くときの姿勢や態度を確認するのか」など、いくつかの手だてが考えられます。そのような授業場面で、同僚教師がどのような授業ルーチンを子どもとの間に確立しているのかを若手教師が知ることは、とても有意義なことであると思います。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

セクシュアルハラスメントについて考える
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 スクール・セクハラという言葉がメディアを賑わせている。教員が教え子や保護者に,そして同僚間にと,その対象,内容は多岐にわたっている。だが,セクシュアルハラスメントとは,労働法制等において,「職場」において行われる「労働者」の意に反する性的な言動を意味する用語として用いられてきた。以下では,本来の意味におけるセクシュアルハラスメントについて,その基本事項を考えてみたい。

 まず,セクシュアルハラスメントにおける職場とは,労働者が業務を遂行する場所を指し,いわゆる「勤務場所」のみならず,出張先や業務で使用している車中等を含む広い概念である。また,労働者には,正規労働者に加えて,パートタイム従業員等の非正規労働者も含まれ,更にいわゆる派遣社員についてもその対象になると解されている。

 セクシュアルハラスメントは,講学上,「対価型」と「環境型」に分類することが多い。対価型は,性的な言動に対する労働者の対応によって当該労働者が労働条件に関して不利益を受ける可能性のあるものを指す。これに対して,環境型は,性的な言動によって労働者の就業環境が害されるものをいう(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」平成18年厚生労働省告示第615号参照)。

性的な言動とは,性的なからかい,性的な噂を殊更に流す,あるいは食事等に執拗に誘うといった発言,身体への接触,性的な関係の強要,わいせつな図画等の配布や掲示等の行動が,その典型である。この点を加味すると,雇用の継続や昇級等に関連させて性的関係を強要するといった行為が「対価型」,職場で卑猥な言動を繰り返す例が「環境型」にあたることになろう。

 なお,セクシュアルハラスメントは,1990年代には,女性に対する行為のみが問題とされていたが,今では男性に対する行為も同様に問題になっている。この点を考慮し,男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)は,2006(平成18)年6月の改正で,「女性労働者を対象とする事業主の雇用管理上の配慮義務」から「男女労働者を対象とする事業主の雇用管理上の措置義務」へと変更されることになった。

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◇ 学校の風景 ◇

交換
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

「白いタオル、200枚」消耗品申請時に、こう伝えると事務職員に驚かれた。

中学校では、理科は実験や観察という体験から学ぶ機会が多い。自然と授業は理科室を使うことになる。当然、次のクラスのために授業終了後、生徒は「片づけ」をしなければならない。ある時、その片づけに気になることがあった。薬品や道具の片づけではない。備え付けの台ふきを嫌そうに触るそのしぐさから、机をふく作業が好まれていないと感じた。とはいえ、次のクラスのために机はふかなくてはならない。

思い切って、乾いたタオルを使うようにした。担当する全クラスの授業で、毎回、濡れていないきれいなタオルを配るには、干したりたたんだりそれなりの労力がいるのだが、それまで生徒たちが嫌がり滞りがちだった作業は一気に解消していった。さらに、期待以上の副産物をも生んだ。

「お日様って、ありがたいっすね。」と言って、タオルを干す生徒、「まとめて全部の班のタオルを洗います」という係。養護教諭の協力により、漂白を兼ね洗濯機で数クラス分のタオルを一気に洗うこともあった。そんな時には、「タオル宅急便、預かります!」と言って、タオルを洗濯機のある保健室に届けてくれる生徒も現れるようになった。1学年が、こうなるとしめたものである。3つある理科室の全てで、白いタオルが心の架け橋となり、和やかなムードが漂うようになった。タオル200枚×3、安いものである。かねてから、理科室に生徒が走ってくるような授業をしたいと思っていたが、白いタオルがそこにも一役買ってくれた。たかがタオル、されどタオルである。

「何々せねばならないこと」を根気よく諭すことは、もちろん重要であり、教育の本質に通じる。しかし、小さな工夫が、大きな成果への突破口になることがある。このタオル効果は、一種の環境改善ともいえるだろう。全国のあちらこちらの教室でオリジナルの「環境改善」がなされているに違いない。先生方、「環境改善」の情報交換をしてみませんか?

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜難問たちに揺さぶられる面白さ〜

「100の思考実験−あなたはどこまで考えられるか」

ジュリアン・バジーニ著、向井和美訳 紀伊國屋書店  定価1,800円(税別)

「列車の暴走で40人が死にそうなとき、5人だけ死ぬ方にレバーを切り替えられるとしたらどうするか?」−この問いは、マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」でも取り上げられた問題だそうです。本書には、生命倫理、環境、格差、身体と脳等に関する哲学・倫理学の100の問いが並びます。「思考実験」と称するこれらの問いは、読者を挑発するような難問ばかり。実生活で倫理的な問題を判断する時、絡み合う要因を解きほぐしつつ、変化する状況も考慮する複雑な作業が求められます。ところが、状況に振り回され、時として問題の本質を見失うことも少なくありません。そこで、「思考実験」では問題の本質を見定めるため、あえて実生活上の複雑な要因は取り除き「核心となるひとつの概念や問題」にフォーカスしています。著者も解決への道筋を一応述べてはいますが、意図的に反対の立場をとる場合もあり「どちらの立場をとるかはあなた次第」と読者を突き放します。グローバル化する現代社会の中、私たちは、考えても議論してもベストアンサーを見つけにくくなりました。さらに、職場の多忙化が考える時間さえ奪います。とはいえ、大人は「考える」ことを放棄する恐ろしさを子どもたちに伝えなくてはなりません。「ベジタリアンは、遺伝子操作で形態を変えられ“徐脳”されたニワトリなら食べられるか」、「自分が透明になる指輪を手に入れたら、よからぬ誘惑に抗していられるか」など、非現実的で刺激的な難問たちにあなたも揺さぶられてみませんか。(関)

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