カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2012年12月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から

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◇ 所長だより ◇

シンガポールの教師教育
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

今月は、シンガポールの教員養成を中心とする教師教育について紹介する。

私たちが3年前に訪問したシンガポール国立教育研究所は、ナンヤン工科大学の一画にあり、シンガポールの教員養成および現職教育の中心機関であるとともに、世界の教師教育の関連機関と積極的に連携をとっている。

@教員養成の三つの信念パラダイム
 ●信念パラダイム1は、「学習者中心という価値観( Learner-Centered Value )」である。
それは、学習者に対する意識(学習者の発達と多様性についての理解)、信念、ケア、献身である。
 ●信念パラダイム2は、「教職に対する個人の価値観( Teacher Personhood Value )」である。
それは、学び続けること(継続学習)に対する専門職としての自覚( professional identity)や、学ぶことへの投資(investment in learning)によって特徴づけられる。
 ●信念パラダイム3は、「専門職集団に貢献するという価値観( Professional Community and Service Value )」である。
それは、教職というキャリアを通して、専門職集団での「正統的周辺参加(徒弟制)」「メンターシップ」「実践研究(アクション・ リサーチ)」を行うことである。

A教員養成プログラムの内容
 実習生が「効果的な新任教師」となるように、教師として必要な「スキル(技能)」「知識」「信念」の獲得をめざす。
 ●スキル(技能)
 「教育方法」「対人関係」「リフレクション」「個人(個性)」「管理・経営」といった事柄に関するスキル
 ●知識
 「教育政策」「教育内容」「カリキュラム」「児童・生徒」「教育方法」「自己(セルフ)」といった事柄に関する知識
 ●信念
 「すべての児童・生徒へのケアと関心」「多様性の尊重」「教職への献身」「協働とチーム精神」「継続学習や卓越性および革新への熱意」「すべての児童・生徒が学習可能であること」といった事柄に関する信念

Bシンガポールの教師教育から学ぶこと
 ●教員養成において、教育実習が非常に重視されている。そのために、どのプログラムも最低10週間以上の「現場実習」を必修としている。このことは、4週間の「現場実習」というわが国の教育実習とはかなりの違いがある。また、シンガポールでは5週間にわたる、教育現場での「教師の補助(TA)」を求めている。さらに、NIEのスタッフ(教授、講師など)が教育実習のメンターとなっている。
 ●教育学部(教育学科)以外の学部を卒業した学生が、1年間で教職の資格を取得できるコースが整備されている。このことが、人文科学や自然科学の専門分野をもつ人材を教育界に迎えることができるシステムとなっている。なお、わが国でも大学院を修了することが教職に就く条件とすることが検討されているが、シンガポールのような1年間を学部4年間にプラスすることがよいと思う。そして、修士(教職)を取得させることがよいのではないかと思う。
 ●教員養成プログラムにおいて、「スキル(技能)」「知識」「信念」の獲得をめざすことが、学生が「効果的な新任教師」となることであるという明確な指針がある。とりわけ、「知識」において自己(セルフ)を取り上げられていることが注目される。つまり、学生は効果的な新任教師となるためには、自分のことを知る必要があるということである。また、「信念」において「すべての児童・ 生徒が学習可能であること」が大事であると考えられている。わが国でも、学生や教師がこのような「子ども観」をもつことが求められている。
 ●多様な大学院プログラムが用意されていて、教師がいろいろな方法で修士号や博士号を取得できるようになっている。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

“子ども・子育て関連三法”の成立
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 2012(平成24)年8月,「子ども・子育て支援法」,「就学前の子どもに関する教育,保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」,「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育,保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」という三つの法律が成立した。いわゆる“子ども・子育て関連三法”である。これら法律の成立は,少子化が進行する中,政府が取り組んできた子育て支援の三本柱,@幼児教育の振興,A認定こども園制度の創設・改革,B保育制度改革の集大成と言うことが出来る。

 従来,義務教育と後期中等教育に重点を置く教育法制の中にあって,就学前の子どもに関する教育は,いわばエアポケット的存在であった。それが,2006(平成18)年の教育基本法の改正によって幼児教育が生涯にわたる人格形成の基礎を培うものとして認知され,翌年の学校教育法改正では,幼稚園が,義務教育の基礎として明確に位置づけられた(教育基本法11条,学校教育法22条)。教育法制の視点から見た場合,“子ども・子育て関連三法”は,その延長線上に位置している。 今回の制度改正における目玉的施策は,言うまでもなく,「認定こども園」制度の改革である。幼保一体化の施策として鳴り物入りで導入された認定こども園制度ではあるが,指導・監督系統が二本立てになる等,その複雑さ,煩雑さ等が影響し,2012(平成24)年4月現在,全国で911園と少数に止まっている。今回,認可,指導・監督権を一本化し,学校と保育所双方の法的性格を併有する新たなタイプを追加することによって,幼保一体化をより促進した上で,機動的な運用が可能になったとされている。また,認定こども園,幼稚園,保育園に共通する支援策として,「施設型給付」が創設されたことも見逃してはならない点であろう。

 なお,待機児童解消策の一環として,認定こども園,幼稚園,保育園よりも小規模の保育,「地域型保育給付」制度の導入による小規模保育(利用定員6人以上19人以下)や,いわゆる保育ママ(利用定員5人以下)等の拡充も見逃してはならない。中でも保育ママは,家庭的保育者(市町村長が行う研修を修了した保育士その他の省令で定める者であって,これらの乳幼児の保育を行う者として市町村長が適当と認めるもの)の居宅等において保育を行う事業である(児童福祉法6条の3第9項)。2008(平成20)年の児童福祉法の改正によって,保育所における保育を補完するものとして法律上明確な位置付けが与えられた(「家庭的保育事業」,24条1項但書)。今回の制度改正で,認可事業とした上で,地域型保育給付の対象とし,多様な施設や事業の中から利用者が選択できる仕組みとして新たなスタートを切ることになる。

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◇ 学校経営の視点から ◇

担任の学級経営力を育てる校長に (3)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

前回からの続きである。実践されている先生方の話を伺いながら考えている。

 ある先生は、「学級が不安定であるということは、集団として機能していない状態、すなわち集団のもつ教育効果が発揮されていない状態のことであると考えている。このような状態の学級では、クラスの子どもたちの成長にいくつかの負の影響を及ぼしやすくなる。」と述べ、「例えば、社会性の育成への影響があると思う。集団生活を通して、規則にそった生活の経験や、係や当番の活動による役割経験などの機会を損ないやすくなることから、社会性を身に付けることが乏しくなりやすいと感じている。」と話された。また、別の先生は、「人間的に成長するような深い人間関係を結ぶ機会が減少しやすくなる。」と実感を込めて話された。私はその話を伺いながら、次のようなことを思った。子どもは学級集団に属することによって、集団内の活動や生活を通してコミュニケーションのための基礎的な力を身に付けたり、人のためになるということはどういうことかを学んだりすることができる。また、集団内に憧れ・モデルとなる対象がいることにより、行動の仕方や考え方、感じ方を修正したり、拡大したり、新たに学んだりすることができる。不安定な学級では、こうした集団のもつ教育力を受けることが少なくなるのだろう、ということである。更に、ある先生は、「学習活動への影響が考えられる。学級を単位として授業を行うことから、一斉指導が困難になり、学習活動が停滞し、学習意欲も減退してくることになる。授業内容の定着率に影響してくると考えられる。」と言うことであった。

 学級が集団として十分に機能していないことは、子どもたちの成長に大きな影響を与え、教育目標の具現も叶わないことになることから、校長の学校経営力も問われかねない問題であるということになってしまう。そこで、前回の「関係図」をもとに、校長は担任等の学級経営のどこに目を向けていったらよいか、その観点等について簡単にふれてみることにする。

 まず、校長は「集団としてのまとまり状況」を取り上げたい。ここでいう「まとまりのある学級」とは、子どもたちからの視点から学級を見てのことであり、その学級に喜んで所属しており、ずっと留まりたいと思っているかどうかということである。担任との会話を通して、こうした子どもたちの意識を捉えることを示したい。そして、子どもたちがこのようになるためには、担任は、どの子どもも、今の姿をまず受け止め、一人一人個性ある人間として認めることをスタートとすること。子どもたちからすると、担任に対して「自分の思い、願いは小さなことでも先生に言える。」「自分は先生から認められている。」という安心感、信頼感を抱けるようになること。こういう内容を助言したい。こうした担任と一人一人の子どもとの関係の中で、学級内の生活班の活動や係活動などを活発にしながら、学級集団全体の凝集性を高めるように導いていくこと。初めから学級集団全体を一気にまとめようとしてもなかなかできるものではない。一人一人の子どもが対教師、対仲良しの友達という1対1の人間関係から、私的な仲良しグループ、班や係活動を行うグループ、そして学級全体と人間関係を拡大、重複させていくことが、学級を集団としてまとまりのあるものに創りあげていくプロセスであり、子どもが成長していく姿でもある、ということを助言していきたいと考える。

 次回には、「学級を集団として動くようにする」、次次回は「子ども一人一人にかかわり、育てる」ということについて考えることにする。

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