カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2012年10月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

福井県の中学校での教育方法
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、文部科学省が実施した「全国学力・学習状況調査」で常にトップレベルの成績を収めている福井県の中学校の教育方法について紹介する。

 吉崎科研の中学校グループ・メンバーは、平成21年に、福井県越前市立武生第三中学校を訪問した。この学校は、昭和27年に二つの中学校を合併して開校した。そして、武生駅から車で約10分のところにある中規模校(生徒数406名、14学級、職員数32名)である。なお、文科省が実施した「全国学力・学習状況調査」の平成21年度の調査結果は、「国語」が全体的に全国平均を上回り、県平均に対してもおおむね良好な正答率であった。そして、「数学」は全体的に全国平均を大きく上回り、県平均と同等か上回る良好な結果であった。

この学校の教育方法の特徴を、次の四つの観点から記述してみる。

●授業を構成するもの(A群) 「個に応じた指導の工夫・充実」をスローガンに、第2・3学年の数学と英語でのティーム・ティーチング、第3学年の数学において習熟度、少人数での指導を取り入れている。また、各学期に行っている漢字・計算・スペリングのコンクールでは、個人目標の設定や学級対抗などの意欲づけを行った結果、朝学習や帰りの会で互いに協力し合って学習する姿が見られるという。

●授業成立のための基盤づくり(B群) チャイム着席、学習準備、挨拶、忘れ物、返事など、授業を受ける際の学習ルールの共通理解を図る。また、学期に2〜3回の徹底週間を設け、各教科担任が「学習状況チェック表」に記入し、帰りの会などでクラス担任が生徒の意識づけを図る。

●家庭での学習・生活(C群) 学期の初めに「学習係」へのオリエンテーションを行い、帰りの会での家庭学習課題の連絡、ホワイトボードへの記入、提出物のチェックや提出方法について徹底する。また、クラス担任と教科担任が連絡を取り合い、未提出者への働きかけを行うとともに、保護者への啓発と協力依頼を行いながら、学校と家庭が連携して「家庭学習・生活習慣(家庭学習2時間、7時間睡眠、家を出る1時間前起床)」の定着を図る。

●教師の力量形成(D群) ICT機器を有効に活用した「わかる授業づくり」や「楽しい授業づくり」のための校内授業研究会を充実させている。そして、普段より全教科においてICT機器を有効に利用した授業を公開しあって、お互いの授業の改善に努めている。

 このように、福井県の中学校では、「基本的な取り組みを徹底していること」、「きめ細かな指導」、さらに「教員同士の学び合いの質の高さ」などに特徴がみられる。特に、大多数の教員が小学校での勤務を経験している。それは、わが国の小学校教育のよさである「きめ細かな授業展開や指導」を学ぶためだという。

 最後に、中学校メンバーの一人である富山大学の高橋純先生は、次のように結論づけている。

「福井県や富山県の学力が全国よりも高い理由は様々な要因がある。学力向上のための一つ一つの取り組みも、どの地域でも行っているような基本的な取り組みばかりで、魔法のように学力を上げる方法は見当たらなかった。しかし、その徹底度の高さ、それぞれの取り組みの長所を活かし短所を補うような組み合わせの緻密さ、そして、教員と保護者の連携による絶え間ない努力など、小さな取り組みを積み重ねた献身的な姿が高い学力を支えていると考えられる。」

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◇ 教育時事アラカルト ◇


校内禁煙を考える
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 2002(平成14)年8月の健康増進法(平成14年法律第103号)制定から,10年が経過した。健康増進法は,多数の者が利用する施設の管理者に対して,利用者が,室内又はこれに準ずる環境において,他人のたばこの煙を吸わされることを防止するために必要な措置を講じることを求めている(25条)。いわゆる受動喫煙防止規定である。法令上,学校は,体育館,病院,劇場,観覧場,集会場,展示場,百貨店,官公庁施設等を押さえて,受動喫煙の防止が求められる施設のトップに例示されている。

 だが,健康増進法が受動喫煙の防止を「努力義務」に止めていることもあり,今も一部自治体においては,公営の施設すら「敷地内全面禁煙」になっていない状況にある。その中にあって学校は,未成年者の喫煙防止教育,薬物乱用防止教育を担っていることから,先陣を切って全面禁煙に踏み切るべきとの声が強い。

学校の敷地内禁煙と喫煙防止教育の関係を巡っては,2003(平成15)年,全面禁煙を実施しないという不作為により,効果的な喫煙防止教育が妨げられ,精神的苦痛を被った等として,学校設置者を相手として慰謝料を求める訴訟が提起されている(名古屋地方裁判所平成16年2月26日判決)。

 訴えを提起した教員は,校長をはじめとして敷地内で喫煙をする教職員が存在することを問題視している。その人格を傷つけることになるため敷地内全面禁煙を要求していることを生徒に語れず,結果として自らの喫煙防止教育が妨害されていると主張したのである。これに対し判決は,現行の教育関係法規は,敷地内を全面禁煙とすべき作為義務を課していると認めることはできないとした上で,原告が全面禁煙を求めていることを他の教職員が具体的に妨害している事実は存在しないとして,訴えを退けた。

 現行の教育関係法規が学校の「敷地内全面禁煙」を義務付けているとまで解することができないという点については異論はない。しかし,受動喫煙の適切な防止対策を進めるにあたっては,公共性等,当該施設の有する社会的役割を十分に考慮する必要がある。文部科学省は,旧文部省時代の1995(平成7)年,既に「学校等の公共の場においては,利用者に対する教育上の格段の配慮が必要とされることから,禁煙原則に立脚した対策を確立すべき」との姿勢を明確に示している(「喫煙防止教育等の推進について」7国体学第32号)。受動喫煙が社会問題化している現在,「喫煙防止教育の最前線に位置する砦」としての性格を有する学校については,法的解釈とは別に,より厳格に取り組むべきとする主張にも一定の合理性があるといえよう。

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◇ 学校経営の視点から ◇


担任の学級経営力を育てる校長に (1)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 教職経験の少ない教員が増えてきていることから、OJTによる資質向上が校長の大きな課題となってきている。とりわけ学級経営に関しての指導力が課題である、とある校長は眉にしわを寄せて語っていた。学校経営方針の具現化は、多くは学級において行われるからである。

 先月、お世話になっている大学で、教育実習の事前指導の一環である授業参観・授業分析のために、都内の公立及び附属の小学校と中学校に伺った。参観校ではそれぞれの授業において、子供たちの意欲的な学びの姿を拝見することができた。学生は、参観した授業を基に教科としての論理の組み立てについて意見を交わし合うと同時に、指導法や学級経営的な側面に至るまで多岐にわたって感想・意見をぶつけ合い、学び合った。学生は教科教育法等の講義と共に、こうした体験を通して具体的な授業展開を学び、来る教育実習でその成果を発揮することになる。このような機会が多く設定されることを願うものである。

 ところで、私は、冒頭に紹介した、眉にしわを寄せている校長のことを思い出しながら学級の様子を拝見させていただいた。その観点は、「学級全体としての雰囲気」「子供たちの相互の関係」「学習への取り組み姿勢・意欲」である。これらの観点からの学級の様子は、入室後それほど時間を要せずとも感じられるものである。さすがに参観させていただいた学級においては、学級全体の雰囲気としては、それぞれに自分を出して楽しんでいると共に、全体としてのまとまりもあり、活気が感じられた。子供たち相互の関係については、特に仲の良い友達をもち、休み時間には全員が誰かと一緒に遊んでいるという状況であった。そして、係の活動には学級のみんなが楽しめるような創意工夫がされており、とてもうれしそうにその活動に取り組んでいた。また、学習への取り組み姿勢・意欲に関しては、自分の考えを聞いてもらいたい、友達の考え方も聞きたいという態度がにじみ出ており、自分がわかったこと・できるようになったことを素直に喜び、さらに向上したいとの気持ちが強く表れていた。これらがバランスよく満たされている学級が多かったといえる。

 校長は、適時、各学級の様子を把握され、それぞれの学級の状況に即して指導されていることと思いますが、この時期に改めて先のような観点で各学級の様子を観察されてはいかがでしょうか。次回には、これらの観点から見た子供たちの姿がバランスよく育っている学級の担任について、その学級経営力を探ってみたいと思います。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜 授業における学びとは 〜
「学びの心理学−授業をデザインする」
 秋田喜代美著 左右社
定価 1,600円(税別)

「平凡な教師は言って聞かせる。よい教師は説明する。優秀な教師はやってみせる。しかし最高の教師は子どもの心に火をつける」(ウィリアム・ウォード)―教師であれば誰もが「そんな授業をしてみたい」と思うことでしょう。そのために教師は日々の授業を振り返り、その質を向上させるために学び続けなくてはなりません。しかし、教師にとってはとても長い道のりです。経験知だけではない「拠り所」が欲しくなります。

本書は、授業研究の第一人者である著者が、教師が授業を見たりデザインする時の一助となるよう、授業で質の高い学びを生む具体的手立てを分かりやすくまとめたものです。学校現場では「研究と実践は違う」という声もよく聞かれますが、長年、授業参観や校内研修に関わり、数多くの教室を訪問した著者による学術的視点と実践的視点の両方を踏まえた知見からは、初任、中堅、ベテラン、どのライフステージにあっても授業改善のヒントを得ることができるでしょう。

「教師とは子どもの成長を幸せに感じそのことで自らも成長できる専門家のことである」と著者は言います。教師としての歩みを振り返り、次のステップを踏み出すためにもお薦めしたい一冊です。 (関)

※我が国の授業研究は「輸出」され、今や欧米やアジアで「レッスン・スタディ」として普及しています。当センターは11月10日、授業研究をテーマに国際シンポジウムを開催します。米国からレッスン・スタディの専門家を招き、授業研究の動向と展望を議論する予定です。こちらへのご参加もお待ちしております。

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