カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2012年6月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

秋田県の小学校での教育方法
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 秋田県の小・中学生がともに2007年から再開された「全国学力・学習状況調査」で常にトップクラスという結果が公表されてからというもの、秋田県の教育に全国から注目が集まっています。そして、秋田県は「日本のフィンランド」と呼ばれたりしています。しかし、秋田県の学力テスト結果が、昔から高かったのかというとそうではありません。40数年前に行われていた全国学力調査の結果は全国平均を下回り、全国40番台の常連だったのです。とりわけ農村部の学校の成績の低さは、秋田県の最大の教育課題と認識されていました。

 吉崎科研のメンバーの一人である秋田大学准教授の姫野完治先生は、秋田県の学力向上の要因とその背景について次のように報告しています。

「秋田県の学校を訪問すると、ほぼ間違いなくどこの教室も落ち着いて勉強している。押し並べて子どもたちは予習・復習する習慣が身についているし、最後まであきらめないで取り組んでいる。高成績の背景として指摘される少人数学級や少人数指導もよく見かける。少人数指導は平成13年度以降に県の政策として推し進めている事業であるが、そのはるか昔から、秋田市立築山小学校を拠点としてティーム・ティーチングの研究教育を推進してきていた歴史がある。そこで実績を積んだ教師が転任先で知を伝承してきたように、秋田の学校では教師間で実践知が脈々と受け継がれてきたのである。また、みんなの登校日という参観日を設け、地域の人たちが学校に足を向けやすい環境を作ったり、放課後学習チューターとして教職志望学生が継続的に補充指導の補助を行うなど、地域が支える学校というところにつながっている。このような点で、秋田県では学校のみならず、家庭や地域が学業に向かう子どもをバックアップできる体制になっている。とはいえ、このような日頃からの地道な取り組みだけで学力が向上したわけでもない。秋田県では、2004年度より県独自に学習状況調査を実施してきている。学校ごとのテスト結果が詳細に分析され、管理職を通じて教師へと結果がフィードバックされる。管理職をはじめ教師にとっては、かなりのプレッシャーになることは間違いない。ただ、これをきっかけとして、『教えたつもり』で満足するのではなく、学習成果を丁寧に見取ることが重視されるようになってきているという良さもある。そして、こういった見取りをもとに、子どもたちのつまずきや苦手意識を克服してきたことが、3年後の全国学力学習状況調査にも大きく影響したと言える。」

 さらに、筆者は、吉崎科研の研究成果報告書の中で、秋田県の小学校における教育方法の特徴を次のようにまとめています。

 第一の特徴は、県教育委員会が取り組んできた「少人数学習推進事業」が、個別指導、少人数指導、習熟度別学習、補充的・発展的学習といった「個に応じた指導の充実」に具現化されていることです。

 第二の特徴は、基礎・基本の定着(基礎型学力)と活用する力(活用型学力)の両方をバランスよく育成するための教育方法(例えば、きめ細かな指導、学習方法に関する指導、子どもの様々な考えを引き出したり、思考を深めたりするような発問や指導、実生活における事象との関連を図った指導など)が奨励されていることです。

 第三の特徴は、授業と放課後学習や家庭学習のつながりを大切にする指導が行われていることです。その結果、「家で学校の授業の復習をする」「テストで間違えた問題について、間違えたところを後で勉強する」「自分で計画を立てて勉強する」といった子どもの家庭学習の習慣が形成されているのです。

 第四の特徴は、「全国学力・学習状況調査の調査問題を授業の中で活用すること」や「全国学力・学習状況調査結果の個人票の充実」など、全国学力・学習状況調査の問題や結果を授業で積極的に活用していることです。

 第五の特徴は、教育専門監(教科指導に卓越した力を有する教諭)の配置、大学生学習チューター、学力向上推進カウンセラー(大学教員)、地域人材を活用した「地域学習教室」、ボランティア等による「読み聞かせ」や「読書指導」の機会の充実など、多様な人的資源が学校や授業をサポートしていることです。

 このように、秋田県の小学校では、子どもの学力を向上させるための多様な教育方法が着実に実践されているのです。そして、一つ一つの教育方法は当たり前の取り組みであったとしても、それぞれの教育方法が有効に積み重ねられたときに大きな教育成果が生み出されているのです。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

職員会議のあり方を考える
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 職員会議は,校務の円滑な運営を支える組織として欠くことのできない存在である。だが不思議なことに,近年まで,学校教育法その他に明確な根拠規定が置かれているわけではなかった。そのため,一部の学校では,大学の教授会に擬えて,学校運営の根幹に関わる重要事項は,職員会議において議決されなければならないという考え方が跋扈していた。いわゆる最高議決機関説である。

 これを憂慮した旧文部省は,2000年1月,一部において「校長と職員の考え方の相違により,職員会議の本来の機能が発揮されない」,「職員会議があたかも意思決定権を有するような運営がなされ,校長がその職責を果たせない」といった問題があるとし,「職員会議の運営の適正化」を図り,その意義と役割を明確にするため,学校教育法施行規則を改正し,職員会議に関する規定を新設した。その結果,職員会議は,学校教育法施行規則上,設置者の定めに基づき「置くことができる」ものとされた(任意設置主義)。そして,職員会議は,「校長の職務の円滑な執行に資するため」の補助機関として位置づけられ,校長が職員会議を主宰することになった。

 職員会議の主宰とは,職員会議を開催するか否か,何を取り上げるか,会議の結論を受け入れるかといった点について,校長が決定権限を有しているという意味で理解されている。だが,校長の職員会議の運営に設置者がどこまで関与できるかについては,今も明確な規定は存在しない。この点を巡って,挙手による採決を禁止しようとする教育委員会と,これに反対する校長が対立した事例がある。訴訟では,教育委員会が,学校の運営方針を職員会議の挙手で決めることを禁じた通知の有効性が争点となったが,判決は,通知は校長の権限を十分に行使できる環境を整えるために出されたものであり,校長の裁量権を侵害する性質のものではないとしている(東京地方裁判所判決平成24年1月30日)。

 研究を主眼とする大学とは異なり,教育実践に主眼が置かれる小中高等学校においては,大学の自治に相応するような高度の自治権が保障されていると考えることは困難である。したがって,「校長が教師多数の意見を尊重するのが望ましいということは言えるにせよ,専門家である教師の多面的討議の結果を慎重に検討したうえで,教育専門職である校長において最終的な決定をなすことが,憲法及び〔旧〕教育基本法等の趣旨に反するとまでは解することはできない」と見るべきであろう(宮崎地方裁判所判決昭和63年4月28日)。

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◇ 学校経営の視点から ◇

子どもの成長課題を学校、家庭、地域とで共有することを
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 今月の初めに、都内のある小学校の運動会を半日ですが参観する機会がありました。子どもたちの練習の成果を見ようと保護者とその親戚の方、地域の方々が校庭に入りきれないほど来られていました。

 高学年の金管楽器による演奏に合わせて入場し、開会式では1年生の代表が力強く開会を宣言し、紅白の応援団長の女子が高らかに選手宣誓を行い、準備体操、応援合戦と続き、各学年種目が始まりました。子どもたちの行動はきびきびしており、リズム表現ではしなやかに、表情豊かに、走る種目では誰もがゴールまで全力で走りぬき、練習時よりもより早く走りきった満足感をアピールしていました。各係の児童もそれぞれの役割をしっかりと果たしていました。統一したユニフォーム姿の教職員の動きも無駄のないもので、全体として充実感を感じさせる運動会でした。応援に来ておられた保護者や地域の方々も子どもたちの姿に満足され、この学校の教育に更なる安心感を抱いたのではないかと思いました。

 運動会のような学校行事の場は、普段の教育の集大成の場として子どもたちの育ちの状況を紹介し、学校教育への一層の理解を得ていただく機会でありますが、教員や保護者、地域の方々にとっては、子どもたちの新たな学びの課題を見つけ出すことができる機会でもあります。子どもたち自身にとっても自らの課題を自覚できる絶好の機会となるものです。そこで、子どもの育ちの現状と新たな課題を、学校、保護者、地域の方々、そして子ども自身も含めて共有することが求められます。そのためには、教員はこのような行事の後には、子ども一人一人の努力、成長を評価すると共に、各自の課題とそのことへの取り組みを整理させ、それを家庭で話題にしていくようにします。保護者会等で取り上げることも重要です。地域に対しては、今後の取り組み課題として学校全体として整理し、自治会の会合等で説明したり、広報誌で取り上げていただいたりしたいものです。行事は、事前指導と共に事後指導が大切です。そして、事後指導で見えてきた課題を家庭、地域との共有の課題にして、次の動きを創りだしていくようにします。校長がこのような助言を適切に行うことが、教員の一連の行事指導をより意味のあるものにし、疲労感だけで終わることなく、深い充実感を味わえるものにしていくことができるものと思っています。そして、家庭、地域と共に子どもを育てる「共育」を具体的な課題で実践していくことになり、子どもたちの新たな成長を共に創り上げていくことになります。「行事が一つ終わったね。次は・・・、フ―」と、ため息が漏れているような学校はないでしょうか。見えた課題を学校だけに留め置いていることはないでしょうか。

 子どもたちを育てるのは学校だけでは不可能です。分かっているのにあれもこれも引き受けていないでしようか。学校、家庭、地域のそれぞれがそれぞれの役割を責任を持って果たす、その時に共通課題が明確になっていれば、指導の方向も示しやすいものです。前々回のこのコーナーでも触れましたが、私は、公立の義務教育学校、特に小学校では「地域性」=子どもたちの住む地域に根ざした学校であること、「平等性」=どの子どもにも同じ内容と到達点を持ち、指導方法は個に応じて多様に行う学校であること、「多様性」=地域で身近に生活している多様な友達、大人とのかかわりを創りだし、視野を広げ、共に学び、共に成長を創りだしていくことを支える学校であること、が求められていると述べました。これらは公立学校の基本スタンスだと思っていますが、このような立ち位置を持ってこそ、家庭や地域社会が共に動いてくれると信じています。繰り返しますが、そのためにも、子どもたちの育ちの現状とこれから取り組むべき成長課題を、学校と家庭と地域とが共有することが不可欠です。

 運動会を応援に来られていたある自治会長さんがおっしゃっていました。「地域は今、子どもたちのためのコミュニティになろうとしている。子どもたちが学校で頑張っている姿や成長している姿を見るのは実にうれしい。自分も地域でスポーツクラブをつくり厳しく指導している。地域の子どもが通っている学校があることが、地域の人々の気持ちを一つにしてくれている。共同体としての意識は薄まっていることは確かだが、やはり学校は精神的にも物理的にも地域の核だ。心配な震災や緊急時の避難場所としても地域の学校は重要だ。日ごろから安全に登下校できるようにどの子にも声をかけているよ。」

 校長のマネジメントは、潜在しているこのような地域パワーを積極的に学校経営に取り込んでいくことではないでしょうか。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜 言いたいことを相手に伝える術 〜
「コクヨの1分間プレゼンテーション」
下地 寛也著 中経出版
定価 1,429円(税別)

 組織で仕事をする中で、必ず遭遇するのが「メリハリのない退屈な会議」ではないでしょうか。学校は、職員会議、学年会議、部会議など、会議が多いところですが、残念ながら「学校の先生は会議下手」という話をよく聞きます。「長時間の会議で部活動顧問が不在の間に事故」などという事態は避けなければいけません。

 本書は、たった1分間で言いたいことを相手に伝えるプレゼンテーション習得のためのテキストです。もちろん、学校の業務は商品や企画の売り込みとは異なりますが、会議でも授業でも「言いたいことを相手に伝える」スキルは重要です。著者によると、時間が限られたプレゼンに必要なのは、「情報圧縮力」。

 情報圧縮力を構成するスキルは@取捨選択能力(言うべきことを厳選する力)、A文章構成力(シンプルな文章構成)、Bキーワード力(相手の心に残るキーワード)―の3つだそうです。そして、実際に必要なスキルの優先順位は@シナリオ、A話し方、B資料づくり―の順です。「シナリオ」は「疑問」の投げかけ15秒、「結論」10秒、「理由」35秒と1分間を3ブロックに分けて考えること。聴き手が「何だろう」→「へぇ〜」→「なるほど」と考えてくれれば成功だそうです。「1分間なんて短すぎる!」と思われるかもしれませんが、原稿用紙1枚分の約400文字、1つの文章は長くても30〜50字ぐらいとすると、1分間で話せる文章の量は平均して12個程度になります。そう考えれば、かなりの情報を盛り込むことができそうですね。その他、聴き手を意識した話し方や資料の作成方法など、具体的なスキルも整理されているので、効率的・生産的な会議運営のための良きガイドとなるでしょう。多忙な教員にとって、タイムマネジメントは重要です。会議は効率的に終えて、子どもたちの相手や教材研究に貴重な時間を充てたいものですね。                   

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