カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2012年5月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

「教育方法の改善研究」から見えてきたこと(その1)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月号から5回にわたって、「教育方法の改善研究」から見えてきたことを報告いたします。

 筆者を研究代表者とするプロジェクト研究「初等・中等・高等研究における教育方法の改善・開発に関する総合的研究」が、科学研究費補助金の助成をうけて平成21年度から23年度の3年間にわたって、18名の研究者によって精力的に行われました。 わが国の小中高大での学力問題に対して、教育課程(教育内容)の見直しとともに、教育方法の改善・開発が喫緊の課題となっています。そこで、本研究は、日本教育工学会の主要な研究者が研究チームを編成して、学会の緊急課題として、「教育方法の改善・開発」に取り組み、成果をあげることを目的として行われました。その際、小中高大の比較といった「タテ」軸と、国内と国外の比較といった「ヨコ」軸を交差させながら、教育方法に関する研究を総合的・実証的に行いました。

 まず、小学校から大学までの教育方法についての国内調査を実施しました。調査においては、教師や教育委員会関係者へのインタビューとともに、実践事例(授業、学習者に関する資料など)および文献資料の収集を行いました。小学校は、文部科学省による「全国学力・学習状況調査」において、平成19年度以来、「国語A、国語B」、「算数A、算数B」のすべてで全国トップの成績を収めた秋田県を調査対象県にしました。中学校は、「全国学力・学習状況調査」において、平成19年度以来、「国語A、国語B」、「数学A、数学B」のすべてで全国トップレベルの成績を収めた福井県と富山県を調査対象県にしました。高校は、特定の県に限定せずに、特徴ある教育実践を行っている学校などを調査対象にしました。大学は、FDで知られている大学などを対象校にしました。

 次に、小学校から大学までの教育方法についての国外調査を実施しました。そこでは、国内調査の場合と同様に、調査においては、教師や教育委員会関係者へのインタビューとともに、実践事例(授業、学習者に関する資料など)および文献資料の収集を行いました。小学校は、シンガポールを調査国にしました。というのも、シンガポールは、IEAによって2003年に実施された「国際数学・理科教育動向調査2003(TIMSS2003)」において、小学校4年生の算数と理科の平均得点は世界第1位だったからです。中学校は、香港を調査対象地域にしました。なお、香港は、TIMSS2003の結果をみると、中学校2年生の数学の平均得点は、シンガポール、韓国に次いで第3位となっていました。さらに、2006年のPISA調査では、「読解力」が第3位、「科学リテラシー」が第2位、「数学リテラシー」が第3位でした。このように、香港の生徒は、「知識・技能に関する学力」も「知識・技能を実生活で活用する学力」もともに高く、世界のトップレベルにあります。高校は、カナダを調査国にしました。なお、カナダは、2006年のPISA調査では、「読解力」が第4位、「科学リテラシー」が第3位、「数学リテラシー」が第7位でした。このように、カナダの生徒は、「知識・技能を実生活で活用する学力」が三つの分野とも安定して高いのです。大学は、アメリカを調査対象国にしました。とういうのも、アメリカは、日本よりも早く「大学の大衆化(ユニバース化)」をむかえ、大学の授業改善やFDに積極的に取り組んでいるからです。

 さらに、収集された資料(知見)を学校種別に分析・ 整理するとともに、学校種間の比較・検討を行いました。以上のように、本研究では、学力の高い県や国(地域)を調査対象に選んでいます。そして、高学力をうむ教育方法の特長を見出そうとしました。

 そこで、6月号では「秋田県の小学校での教育方法」、7月号では「シンガポールの小学校での教育方法」、8月号では「福井県と富山県の中学校での教育方法」、9月号では「カナダの小学校と高校での教育方法」について報告する予定です。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

亀岡市通学路暴走事故とマスメディア
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 京都府亀岡市の通学路で,無免許運転の乗用車が暴走したのは4月23日のことであった。集団登校中の児童2名と保護者1名が亡くなったほか,負傷者は多数に上る。この悲惨な事故を受けて,多くの学校では,現在,通学路の見直しに追われている最中であろう。

 マスメディアは,連日,事件を報道しているが,その様子にはある種の違和感が存在している。被害者の氏名や年齢,そして生前のエピソードまで,時には写真や映像付きで,詳しく報道されている一方で,加害者側については未だに謎が多いままである。特に氏名すら明らかにされていないことに怒りを覚えている国民は少なくないであろう。加害者の匿名性確保に汲々とし,被害者を殊更に顕在化させる。報道の至る所にその矛盾を見ることができる。

 いうまでもなく,その最大の理由は,加害者が未成年だからである。第二次世界大戦による混乱が色濃く残っていた時代に作られた現在の少年法は,何よりも非行に陥った未成年者の社会復帰を第一の目標に据えている。報道等を通じて加害少年が特定されることは,順調な社会復帰を妨げる要因になるのである。この点を考慮し,少年法は,「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」と規定し,加害少年の身元が判明するような報道を禁止している(61条)。いわゆる「推認事項報道禁止規定」である。

 マスメディアは,社会の木鐸として,国民の知る権利に奉仕する存在と自負している。にもかかわらず,少年事件の報道についてだけはどこか腰が引けた状態に見える。その結果,重大な少年犯罪が発生する度に,加害少年の保護に傾斜しすぎているのではないかという批判が繰り返し寄せられることになる。日本国憲法は表現の自由(21条)を保障しているが,そこにはマスメディアの報道の自由も含まれていると理解されている。未成年者保護という言葉の前に思考停止するのではなく,結論は別として,その意味を正面から議論する時期が到来していることを,今回の暴走事件は示唆しているのではないだろうか。

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◇ 学校経営の視点から ◇

校長のマネジメント力
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 新年度が始まり、既に1カ月半が経とうとしています。各学校では、教育目標の具現のための大局的な実践構想に基づき、具体的な教育実践と組織運営を展開されていることと思います。

 1.残念な姿の散見
 ところが、いくつかの学校において、残念ながら次のような姿が見られました。それは、学級担任、教科担任等、及び分掌した校務のそれぞれにおいて、個別分散した形態での「職務遂行」となっていると思われたことです。各教員が自己の経験と知識のみにもっぱら依拠して教育活動を遂行しようとしているのです。組織運営に対する「裁量権」をもって、個別的に意思決定を行っています。組織型ではなく個々完結型での職務遂行形態です。また、教員は、自校の教育の実態・課題等に対する共有感覚が弱く、相互作用を機能させていないのです。まさに個業的な組織運営なのです。

 昨年度末から今年度初めにかけて、組織的運営の重要性は何回も確認されていると思っていたのですが。このままでは、学校としての意思形成と、それを踏まえた教育活動の組織的な改善や変革が成り立たない状況を常態化させてしまい、内部の改善力を阻害してしまうばかりでなく、一人一人の教員の閉塞感、疲労感を強めてしまうことが予測できます。このような学校は、このままでは子どもや保護者の多様性、複雑性に対応できず、学校組織の機能不全を招くことになってしまいます。

 2.早急な対応策を
 このような学校では、早急に校長等の管理職がマネジメント力を発揮して、教育活動が各教員に過度に分散化することの回避を行わなければなりません。明確化した校長のビジョンの再説明と全教職員での再確認、組織としての運営の仕方及び意思決定権限の確認等を改めて行う必要があります。また、時間を生み出し、教員の相互作用を活性化させ協働化を図る活動を強化すると共に、保護者、地域に対して学校としての説明責任と結果責任を果たす機会を積極的に設けるようにすることが求められます。

 特に、教員間の協働化を進めていくために、5月末から6月初めにかけて、例えば次のような内容での協議をしたいものです。まず、各自が学級等の子どもの実態を捉え、それに対して子どもの変容を期待しながら、自分はどうすべきか、どうすることができるか、という課題を見出し、それをこれからの実践の目当てとしていくこと、これら一連のことを各自が整理し全教員に報告、協議するのです。その後、夏季の長期休業まで具体的に実践し、その成果を子どもの姿の中から見出していく協議を行います。多くは教員個人で行っていることですが、このサイクルを教員間で行うのです。個々分散型の職務遂行や個業的な組織運営を早期に改善していかなければなりませんので、校長の強いリーダーシップで実施することが必要です。また、校長はこの協議の際に、教育目標との関連、全校的あるいは中・長期的な視点をもって、教科教育論的及び学級・学年経営論的観点から、また社会的動向等の広い観点から指導助言をしていく役割を持つことになります。

 上記に紹介したような残念な姿の学校では、学校教育をめぐる様々なリスクに対応することはできないわけですが、実践上はなかなか克服できていないのが現状です。校長のマネジメント力とは、何よりも先に述べたような協働化のプロセスを通し、学校の組織力の向上を図りながら、教育による成果を子どもの姿の中に創り出していくことだと考えています。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜 ネットとうまく付き合える子どもに〜
「保護者のためのあたらしいインターネットの教科書―おとなの知らないネットの世界」
一般社団法人インターネットユーザー協会編 中央経済社
定価 1,600円(税別)

 先日、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のゲーム商法「コンプリートガチャ」(コンプガチャ)の違法性が報道されました。コンプガチャは、有料で武器などのアイテムを当て、特定の組み合わせをそろえると希少アイテムを獲得できるといったものです。ユーザーは組み合わせができるまでアイテムを購入し続けるため、料金がかさみ、「子どもが珍しいカードを得ようとして月何十万円もの請求がきてしまった」など、消費者庁への相談が相次いでいました。

 同庁は「景品表示法に抵触する可能性があり、一定の規制が必要」との見解を示し、コンテンツを提供する事業者はすぐにサービスの中止を発表しました。新しいメディアやサービスが次々と登場するネットの世界では、しばしば保護者や大人より子どものほうが先を行っています。

 本書の編者である「インターネットユーザー協会」も、ネットリテラシー教育の重要性を伝えるのが一番難しいのは、普段仕事などでインターネットを使う必要のない「一般家庭の保護者」といいます。実は筆者も恥ずかしながら「コンプガチャって何?」というレベルでニュースを聞きました・・・。

 本書は、ネット企業、携帯電話会社、教員、作家、弁護士など多彩なメンバーが、保護者が子どもたちに携帯電話やゲーム機などを与える時に重要なポイントをジャンルごとに解説しています。ネットやメール、SNS、ゲームの「しくみ」を説明するとともに、「なぜ、そのような使い方をしてはいけないのか」といった「理由」もわかりやすく解説することで、子どもたちが未知の問題にも対処できるよう配慮されています。もちろん、学校における情報リテラシー教育、情報モラル教育においても役に立つ一冊です。 (関)

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