カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2012年3月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

アメリカのレッスン・スタディを見学して(その1)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今回は、今年の2月末に見学したアメリカ(サンフランシスコ、オークランド)の小・中学校の「レッスン・スタディ(授業研究)」のうちのサンフランシスコの小学校について書いてみます。そして、来月号でオークランドの中学校(といっても、日本の小学校6年生にあたりますが)の「レッスン・スタディ」について報告いたします。

 サンフランシスコは、ご存知のように、ケーブル路面電車、金門橋(ゴールデンゲイト・ブリッジ)、フィシャーマンズ・ワーフで有名な世界的な観光都市です。

 訪問した学校は、アフリカ系アメリカ人の指導者であった人物の名前をとったMalcolm X小学校でした。この学校は、各学年1クラスの小規模校であり、児童の8割以上がアフリカ系アメリカ人です。児童の家庭環境は相当に厳しいものがあることが、児童の様子や教師の話からわかりました。しかし、教師は若い人が多いのですが、みんなとても仲が良く、元気です。そして、「この学校には、他の学校の教師が移ってきたがらない」と屈託もなく話すのです。

 その元気な理由が、レッスン・スタディにあることがわかりました。私たち4名(同僚の澤本教授、相模女子大学の相原教授、日本女子大学院生の壷井さん、そして筆者)は、3年生の「英語(ライティング)」と1・2年生合同クラスの「英語(ライティング)」を見学しました。これらの「レッスン・プラン(授業案)」は、二人の授業者を含む5名の同僚教師によって作られていました。まさに、Planning Teamが組織され、「同僚性」が機能しているのです。そして、研究授業が始まると、3〜4名の児童からなるグループごとに2名の教師がついて、「児童の学習の様子」に関して気づいたことを「授業観察記録用紙(時刻、観察したこと、意味すること)」に熱心に書き込んでいるのです。さらに、授業終了後、約30分間の「授業研究討議」がありました。その討議内容は、それぞれの教師が観察した児童の様子を報告することが中心となり、必要に応じて教材や授業者の教授行動が話題にのぼっていました。その内容は、なかなか授業者に気づかないようなことにまで言及されていて、授業改善にとって有意義なものでした。

 その後、この学校の「レッスン・スタディ」の中核メンバーの先生方に話を伺ったところ、「子どもの学習の様子を中心とした授業観察」は教師にとって抵抗が少なく、多くの教師が「レッスン・スタディ」に参加しやすいとのことでした。このことは、日本の教師にとっても同じだと思いました。教師は、自分の教授行動や教材研究のことばかり言われると、自分が評価されていると身構えてしまうものなのです。しかし、子どもの様子から始まって、しだいに教師の行動や教材研究などに話題が移ることには比較的抵抗が少ないものなのです。まさに、見事な「授業研究のストラテジー」です。

 さらに、この学校の「レッスン・プラン(授業案)」で感心したことは、「子どもの活動」という項目の隣に「子どもの予想される反応」という項目が設けられていることでした。もちろん、「評価のポイント」という項目もありました。そこで、この学校の「レッスン・スタディ」を指導しているSan Francisco Unified School District顧問のAUDAP先生に、「子どもの予想される反応」を加えた理由を尋ねたところ、「レッスン・スタディ」の世界的リーダーであるミルズ大学のルイス教授の助言にもとづくとのことでした。「やはり、ルイス先生だ」と納得しました。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

教員の勤務時間管理を考える
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 平成23年11月11日,広島県教育委員会は,勤務時間で虚偽の報告を行ったとして,県立高等学校の校長と教頭を懲戒処分とした。発表された処分理由によれば,週休日に実施する模擬試験の監督等の業務に従事するための営利企業等従事許可の申請において,校内で常態的に申請とは異なる実態があることを是認し,県教育委員会に繰り返し虚偽の副申をしていた等とされている。

 公立学校教員の勤務実態,特に勤務時間管理については,実態にそぐわない状況が常態化しているという指摘は跡を絶たない。例えば,本来例外的にしか認められていない超過勤務一つを取ってみても,文部科学省の調査によれば,教員一人あたりの1週間の超過勤務時間の平均は,小学校が14時間3分,中学校が16時間41分,持ち帰り残業は小学校が5時間53分,中学校が3時間44分にも上るとされている。

 一般に労働時間とは,労働法制上,上司の指揮・監督の下,労働者が職務に従事することを要求される時間を意味する。いわゆる労働待機の時間を含めて考えられるが,休憩時間は含まれないことに注意を要する。ここでいう労働時間は,更に法定労働時間と所定労働時間に区分することができる。法定労働時間とは,労働基準法(昭和22年法律第49号)が規定する労働時間の上限であり,現在,一週間につき40時間,一日あたり8時間以内と定められている(32条)。

 これに対し所定労働時間とは,就業規則や労働契約によって定められる労働時間のことをいう。所定労働時間は,法定労働時間の範囲内において個別に決定される。公務員の場合,所定労働時間に相当する「勤務時間」は,法定労働時間の範囲内で法律,条例によって決定される。第二次世界大戦以前,日本の官吏には「勤務時間」という概念がそもそも存在せず,無定量の勤務を強いられていた。しかし,戦後,現在の公務員法制が創られる過程で,勤務時間という概念が導入されるとともに,一部例外を除き労働基準法の適用を受けることになった(地方公務員法58条3項)。

 国家公務員の勤務時間については,「一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律」(平成6年法律第33号)に規定が置かれており,現在,「休憩時間を除き,1週間当たり38時間45分」となっている(5条1項)。そして,一日につき7時間45分を超えない範囲内で勤務時間が割り振られることになる(6条2項)。これは,平成20年8月11日,人事院が,それまで労働基準法上の法定労働時間に一致させていた一般職の国家公務員の勤務時間を,民間の所定労働時間の実勢と均衡させるために短縮するよう勧告したことを受けたものである。公務員の勤務時間その他の勤務条件が社会一般の情勢に適応するように,随時,適当な措置を講じるという「情勢適応の原則」に基づく措置であり,平成4年の完全週休2 日制の導入以来の勤務時間短縮であった。

 本来,人事院の勧告は,国家公務員を対象とするものであり,地方公務員に対しては直接影響力を持つものではない。しかし,総務省は,平成20年11月14日,事務次官名で地方公務員の勤務時間についても同様の措置を講じるよう求める通知を都道府県知事(指定都市市長)に向けて発した(「地方公務員の給与及び勤務時間の改定に関する取扱い等について」総行公第87号,総行給第106号)。その結果,多くの自治体が一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律に準じる形で関係条例を整備しつつあり,勤務時間短縮を求めた人事院勧告は,地方公務員としての身分を有する公立学校教員にも事実上その影響を及ぼしている。

 だが,教員の超過勤務を見る限り,単に法令上の勤務時間のみを短縮することは,公立学校教員に対してより多くの「自発的」な超過勤務,持ち帰り仕事を強いることになるだけではないか。この懸念に対する回答は,「情勢適応の原則」という形式的解決からは何も見えてこない。一年を振り返って,各自の勤務時間を精査してみてはどうだろうか。

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◇ 学校経営の視点から ◇

自らに「問い」・「求める」校長に(二)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

先月号の続きです。校長が子どもたちと関わる際に心掛ける5点のうちの3点目から述べます。

B観念的理解ではなく、個別的理解に努める
 校長は担任等と異なり、多くの時間を子どもたちと過ごすわけではありません。子どもたちとの距離があることにより、新鮮に感じる姿に多々接することがあります。このことは、特定な子への観念的な理解(あの子は「落ち着きがない子」「攻撃的な子」などという固定的な見方を持ち続けること)をすることなく、その子のしていることをその子に即してそのまま見ていくという個別的な理解を行うことができやすい状況にあると言えます。担任等に子どもへの固定概念を取り去った見方を促すのは校長の重要な役割だと思っています。

C三人称的理解から二人称的理解を
 学校全体の子どもたちを見ている校長は、とかく子どもを対岸において「大勢の中の一人(one of them)」として三人称的に見てしまいがちです。しかし、「この学校の生徒としてのあなた(you)」として見たいものです。固有名詞を持った世界にたった一人だけの存在者としての本校の生徒、という関係が出来上がります。校長が、在学している全ての生徒を「私にとってのあなた」として受け止めることは、校長の認知を超えた感じる力を働かせることができるようになるものです。

Dその子を丸ごと理解する
 私たちが何かを見る場合、一つは、対象を自分と切り離して、部分を切り取り、その部分を分析して明確にし、普遍化・一般化する見方をします。もう一つは、自分と対象を切り離さず、主観も尊重し、現象の明確な分析を多少犠牲にしてでも丸ごとの状況を大事にして全体を把握しようとする見方をする場合もあります。自己葛藤を行い、他との摩擦を経ながら自分を創り、高めていく時期の子どもたちの見方として、その子を個として丸ごと受け止めていくという姿勢を児童生徒理解の基底にすることを担任等と共通理解しておくことは校長の大切な基軸だと思います。

 これらの観点は、校長の見方として留めておくものではなく、一人一人の教職員、特に担任の見方として共有していきたいものです。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜学校は、地域再生への希望 〜

「東日本大震災と学校教育―震災は学校をどのように変えるのか―」
日本学校教育学会「東日本大震災と学校教育」調査研究プロジェクト編
かもがわ出版 1,400円(税別)

 東日本大震災から1年が経ちました。亡くなられた方たちのご冥福をお祈りするとともに、自身も被害者でありながら学校運営に尽力されてきた教職員の皆さんに心より敬意を表します。その時、学校現場では何が起こり、何が問題となり、その後どのように学校を再開したのか―。本書は、日本学校教育学会調査研究プロジェクトによる現地調査及び公開研究会での報告をまとめたものです。「第1部」は、津波防災教育の取り組みが功を奏して児童全員が避難できた岩手県宮古市立鍬ヶ崎小学校長、避難所となった学校の保健室を診療所として開放しながら地域住民の命を守った宮城県立石巻高校養護教諭、原発事故で全町避難を余儀なくされたものの集団移転先で学校を再開した福島県大熊町教育長のリアルな現状報告です。続く「第2部」と「第3部」は研究者や教育行政担当者による論稿により、大震災から見えた学校教育の課題を多面的に取り上げ、被災地の復興と再建のビジョンを探ると共に学校教育全体の改革の方向性を検討しています。

 震災から2日後、校庭は泥だらけでがれきも散乱している鍬ヶ崎小学校に、4年生の養殖体験を世話してくれている漁師さんが来校し、玄関先で「2、3年待ってろ!また養殖体験させてやっから!」といって足早に立ち去ったそうです。もちろん、漁師さんも被災し養殖施設は全滅、避難所生活を強いられていました。笹川正校長は「保護者や地域住民に見守られ、支えられている、まさに『地域の中の学校』なのだということを再確認した」と述べています。しかし、一方の津波被害で崩壊した地域にとっても学校や子どもたちは、希望であり、再生の基盤ともいえる存在だったのではないでしょうか。大震災を契機に、私たちは、これまでの学校教育に対する問い直しや再認識を迫られることとなりました。本書は、学校が「地域の中の学校」として機能することが、学校自身、そして保護者、地域各々の支えとなるのだということを再認識させてくれます。 (関)

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