カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2011年11月号 

◆ 目次 ◆ -----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から

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◇ 所長だより ◇

授業における計画と実態のズレ
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 授業は、教材を媒介として、教師と子どもがダイナミックに相互作用する社会的な営みです。そこには、実にさまざまな風景(授業場面)があらわれます。そこで、もし最も興味深い授業場面は何ですかと問われたならば、私は「授業計画(教師が予想していた子どもの反応)と授業実態(現実の子どもの反応)との間にズレがみられる場面」であると即答します。

 もちろんズレがあることが悪いわけではありません。どのように優れた教師が授業を行っても大なり小なりズレは生じます。というのも、授業は「筋書きのないドラマ」の側面をもっているからです。そして、教師が予想していた以上の意見や考えが子どもから出てきたならば、「教師冥利」に尽きることは言うまでもありません。

 ポイントは、そのようなズレがある場面で教師がどのような対応をとるのかということがその後の授業展開を決定づけることになることです。別な言い方をすれば、教師にとって、最も難しい授業場面であり、授業力量が問われる場面だということです。

 ところで、このような授業場面において、教師はどのような対応をとるのでしょうか。もちろん、授業場面の特徴や教師の経験によって違いがありますが、一般的には、A教師からD教師のような四つのタイプに分けることができます。

A教師は、このようなズレに気づかない。教育実習生によく見られます。
B教師は、ズレに気づいているのだが、どのような対応をとったらよいのかがわからない。初任教師によく見られます。
C教師は、ズレに気づき、対応できる力量があるにもかかわらず、計画変更して対応すべきかどうかの意思決定ができない。
D教師は、適切な意思決定にもとづいて、臨機応変な対応をとることができる。

 では、このような違いはなぜ生じるのでしょうか。その原因を考えることは、教師に求められる授業力量を考えることにつながります。
第一の原因は、授業における子どもの学習状態を正確に読み取る力量と関係があります。そして、A教師の場合は、この力量が不足していたことになります。
第二の原因は、対応策(手だて)を考える力量と関係があります。そして、B教師の場合は、この力量が不足していたことになります。
第三の原因は、子どもの学習状態を評価しながら、当初の授業計画をそのまま展開すべきか、それとも変更すべきかを的確に意思決定する力量と関係があります。そして、C教師の場合は、この力量が不足していたことになります。

 このように、一つの授業場面においても、教師に求められる授業力量にはさまざまなものがあります。まさに、授業は奥が深いですね。そして、授業は教師が一生涯にわたって問い続けるのに値するものなのですね。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

大阪府教育基本条例案を読む
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 大阪府教育基本条例案の行方に教育関係者の注目が集まっている。橋下徹大阪府知事が代表を務める大阪維新の会が提案したものである。百ます計算で有名な陰山英男立命館大学教授ら大阪府教育委員会の委員から,職員団体に至るまで,ほぼ全ての関係者が“反対”しているといっても過言ではない。そのため,教員と教育に対する責任の所在の曖昧さを批判し,教育行政に対する知事の権限を強化しようとする橋下知事との間で,全面対決の様相を呈している。だが,大阪維新の会が多数を占める府議会において,同条例案が採択される可能性は極めて強い。

 内容面でまず問題となるのは,この条例案が原理的に規制不可能な内容を定めようとしているのではないかという点である。地方自治体の自主法としての条例は,原則として,国の法令の範囲内でのみ定めることが認められている。今回の条例案は,例えば地教行法(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)が定める教育委員会の権限の縮小を図る等,国の法令からの逸脱が見られるとの指摘がある。

 そして,もっとも強い批判は,教育に対する政治介入ではないかとする点に寄せられている。「教育は,不当な支配に服することなく,この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」とする教育基本法16条1項の規定は,政治が直接介入するだけではなく,間接的な形で教育委員会の行動を縛ろうとする場合も含まれるはずという論理である。知事が教育目標を設定するとしたこと等,条例案は“不当な支配”に該当する点が多いといわれている。

 以上の指摘が妥当か否かは一先ず置くとして,もっとも奇異に感じる点は,「教育基本条例」という名称を用いているにも関わらず,懲戒・分限に関わる条項が異様に多いことである。全48条のうち,21条から42条と5割以上を占めている。周知のように,教育基本法には,懲戒・分限に関する事項は存在しない。教職員の懲戒・分限が,果たして教育に関する“基本”事項と言えるのか,仮に言えるとしても5割という数字はいかにも多すぎる。 教職員の懲戒・分限を狙った条例案であるという穿った見方が登場する所以であろう。

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◇ 学校経営の視点から ◇

校長力としての3C
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 9,10月号の本メールマガジンにおいて、SWOT分析後の校内協議の柱として、カリキュラムデザインとクライシス・マネジメントについて取り上げることを提案してきました。本来ならば、7、8月中にこれらを含めた協議までを全教職員で行い、9月に備えたいところです。

 今月号では、校長として求められる資質・能力として「コーチング」「コーディネイト」「コミュニケーション」の3Cの力を取り上げます。

 現在、校長には、所属教職員をよく理解し、疲れ具合などをちょっとしたしぐさから感じ取れるようになることと、一人一人に声をかけ、それぞれが内に持っている意欲と能力を十二分に発揮できるように支えていくことが強く求められます。サーバント・リーダーシップという言葉もありますが、努力している教職員がさらに自分の力を自分で伸ばしていけるようにアドバイスをしたり、環境を整えたりすることが重要になっています。

 また、学校は、保護者・地域、関係諸機関等の力を取り入れることをしなければ学校経営が十分に機能しない状況にあるといえます。よって人と人、学校と地域・関係諸機関を結びつけ、学校内外に協働関係を多く築いていけることが校長力の一つとなっています。結びつきは、対等性、恒常性、互酬性の関係によって形成され、しかも継続性を担保することができるものです。

 こうした「関係づくり」の推進は、校長のコミュニケーション力に左右されます。「共に汗して、共に歓び、共に感じる」こと、すなわち汗(カン)、歓(カン)、感(カン)の3カンがコミュニケーションのポイントだといわれています。  時は11月。ますます充実した学校経営を期待するところです。

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