カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2011年10月号 

◆ 目次 ◆ -----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

学力向上の基盤としての「授業規律(学習規律)」
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 私(吉崎)を研究代表者とする科研プロジェクト・チームは、平成21年度から3カ年計画で、小学校から大学までの教育方法の改善・開発に関する研究を進めています。特に、小学校と中学校のグループは、文科省主催の「全国学力・学習状況調査」で毎回トップレベルの好成績を収めている秋田県、福井県、富山県の学校を調査し、学力向上に関係していると思われる「授業を構成するもの」「授業成立のための基盤づくり」「家庭での学習・生活」「教師の力量形成」といった要因を抽出することができました。なお、授業成立のための基盤づくりとは、「授業規律(学習規律)」のことを意味しています。

 秋田県秋田市立桜小学校では、学習ルール(「桜小学習ルール」)の徹底を図り、全校でそのルールを共有しています。例えば、「学習用具の準備」「学習への参加の仕方(聞き方、話し方、ハンドサインなど)」「ノートの使い方」などです。さらに、生活ルールについても同じように徹底し、学年でオリエンテーションを開いたり、保護者会で保護者に伝えています。また、福井県越前市立武生第三中学校では、チャイム着席、学習準備、挨拶、忘れ物、返事など、授業を受ける際の学習ルールの共通理解を図っています。また、学期に2〜3回の徹底週間を設け、各教科担任が「学習状況チェック表」に記入し、帰りの会などでクラス担任が生徒に意識づけをしています。

 学力向上の基盤に「授業規律(学習規律)」があることは、私たちの科研調査ばかりでなく、PISA2009の国際学力調査でも明らかになっています。例えば、今年の2月に東大で行われたPISA分析官の報告によれば、PISAの上位国に共通する最大の要因はDiscipline(学習のしつけ、学習規律)だそうです。

 では、「授業規律(学習規律)」をつくるために、教師はどのようなことに気をつけるべきでしょうか。それは、桜小学校や武生第三中学校のように、授業を受ける際の学習ルールを大切にすることだといえます。別な言い方をすれば、次に紹介するような「授業ルーチン」を確立することだともいえます。

 私たちは、小学校1年生を担任した中堅教師(1名)と若手教師(2名)が、どの時期に、どのような機能をもった授業ルーチンを、どのような授業場面で導入していくのかを検討しました。なお、この研究では、授業ルーチンは次のように定義されています。「授業ルーチンとは、授業がもっている複雑さをある程度まで軽減し、授業に秩序と安定をもたらすところの、教師と子どもによって共有化され定型化された一連の授業行動(すなわち教授行動と学習行動)である。」

その結果、次のようなことが明らかになりました。

@3名の教師とも4月に多くの授業ルーチンを導入していました。
4・5・6月に導入された総数は、A教諭(中堅教師)が27個、B教諭(若手教師)が26個、C教諭(若手教師)が25個と3名の教師ともほとんど変わりませんでした。しかし、4月の時期と5・6月の時期を比べてみると、どの教師も4月に多くのルーチンを導入していることがわかりました。これは、1年間のスタートの時期である4月に授業を成立させる基本路線をしっかりさせておく必要があるからだといえます。

A4月に導入された授業ルーチンは、「学習の準備・整理・後始末に関するルーチン」や「話し方や聞き方に関するルーチン」が9割以上を占めていました。これらの多くは、学級での集団学習を進めていくのに必要なルーチンです。

B5・6月には3名の教師に共通するルーチンが大幅に減り、逆にそれぞれの教師独自のルーチンが増えていました。この時期になると、授業観や学級観が反映された教師独自のルーチンが導入されることによって、その教師なりの授業や学級をつくろうとしていることがうかがえます。

C夏休み以降になると、よく維持されているルーチン(例えば、学習の準備・整理・後始末に関するルーチン)とあまり維持されていないルーチン(例えば、話し方や聞き方に関するルーチンや人間関係に関するルーチン)がみられました。小学校1年生にとって、基礎的なルーチンはよく維持されやすいが、比較的高度なルーチンは長期の夏休みが過ぎた9月には維持されにくいことがわかります。

 そこで、先生方には、担任する学年や校種を考えながら、このような授業ルーチンの特徴や意義を見直してほしいと思います。それが、「授業規律(学習規律)」の成立にとって大切なことだからです。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

国旗・国歌問題の行方−職務命令と懲戒処分−
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 2011(平成23)年5月から7月にかけて,最高裁判所は,卒業式における国歌斉唱に関わって,立て続けに五件の判決を下した。四件は,国旗掲揚の下,国歌斉唱時に教員に起立を命じた校長の職務命令の憲法適合性が争われた事案である。最高裁判所は,校長の職務命令は,思想・良心の自由等と抵触せず,有効である旨を繰り返し判示している(最高裁判所第二小法廷平成23年5月30日判決,最高裁判所第一小法廷平成23年6月6日判決,最高裁判所第三小法廷平成23年6月14日判決,最高裁判所第三小法廷平成23年6月21日判決)。もう一件は,卒業式の開式直前に,来賓として参加していた元教員が,制止を振り切り,保護者等に国歌斉唱時に着席するよう呼びかけて卒業式を混乱させたとして,威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴された刑事事件である。判決は,着席を呼びかける行為が日本国憲法が保障する表現の自由の保護を受けるという主張を退け,威力業務妨害罪の成立を認める判決を下している(最高裁判所第一小法廷平成23年7月7日判決)。一連の判決を見る限り,こと憲法問題に関しては,国旗・国歌を巡る論争はほぼ決着がついたと考えるべきであろう。

 ただ,職務命令違反に対する懲戒処分の在り方に関しては,まだ決着がついていない。最高裁判所第一小法廷は,9月以降,懲戒処分の妥当性を巡る二件の事案について,口頭弁論を開くことを相次いで決定している。一件目の事案は,校長の起立命令に違反した二人の教員が,1月から3月の停職処分となったが,高等裁判所段階では処分に違法性はないとの判決が下されている。これに対して,もう一件の事案では,裁量権の逸脱があったとして,減給等の処分を受けた約160人余の原告ほぼ全てについて,懲戒処分の取消しを命じる判決が下されている。

 本来,ある非違行為に対して,懲戒処分を行うか否か,あるいは行うとしてどのような処分内容とするかは,懲戒処分権者の裁量に委ねられている。しかし,裁量権の行使に逸脱,濫用が存在する場合,当該懲戒処分は違法な処分として,取消訴訟の対象となるとするのが最高裁判所の立場である。最高裁判所で口頭弁論が開かれる場合,原判決が見直される可能性が高い。処分の違法性を肯定した判決と否定した判決の双方について,同じ最高裁判所第一小法廷で口頭弁論が開かれる今回,職務命令の憲法適合性を前提として,どの程度の懲戒処分を妥当とするかの基準が示されるのではないかと予測される。その行方が注目されるところである。

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◇ 学校経営の視点から ◇

全教職員による十分な協議を (二)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 前回は、カリキュラムデザインについて取り上げました。今回は、SWOT分析に基づく校内協議の柱として、クライシス・マネジメントを提案します。この点についての協議はなされたでしょうか。

 危機管理は、言うまでもなく学校経営上、最重要課題です。危機管理の基本については、よく「さしすせそ」の言葉をもって表します。各学校においても確認されている言葉だと思います。「(さ)最悪の事態を想定し、(し)慎重かつ(す)素早く行動し、(せ)誠意をもって、(そ)組織で対応する」。

 各学校では、児童生徒の登下校や学校生活上の安全面、健康管理面、地震や火災等の災害及び不審者侵入、教育課程の履修や諸帳簿の管理面への対応など様々な分野に対して、万が一の事態を想定し、それぞれの場合について、役割分担と具体的対応策を確認しあっていると思いますが、新規採用教員等が配属されている学校においては改めて話題として取り上げることが必要です。

 例えば、保護者から苦情が寄せられたとします。十分に相手の話に耳を傾け、険悪な関係にならないように配慮し、学校をよりよくしていくためのパートナーとして受け止めるように努力します。苦情の中身が正論であることが多々ありますので。直接話し合う場合には、担任一人に任せることは絶対にせず、学年主任等を同席させ組織として対応することを徹底します。時には理不尽な要求をされる方もおります。そのような場合は管理職が対応し、教育委員会等とも連絡を取り合い、法的な助言も受けられるようにします。最近では教育委員会にこのような問題に専門にかかわる組織を設置し、学校に代わって対応している自治体もあります。皆さんの学校の危機管理態勢はいかがでしょうか。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜教育問題を疑い、確かめ、考える〜
「教育問題はなぜまちがって語られるのか?−『わかったつもり』からの脱却」
 広田照幸、伊藤茂樹著  日本図書センター 1,575円

 時には心が折れそうになるのを必死にこらえて子どもたちと向き合っているにもかかわらず、世の中にあふれる「教育問題」を見聞きするのは教師としては辛いですね。しかも、その議論が大きな誤りや歪みをはらんでいることも少なくありません。誤った議論を元に解決策を講じれば、解決どころか別の問題を引き起こし、結局学校現場に持ち込まれます。教育問題をめぐる議論が迷走してコースアウトしないよう、考える重要ポイントを論じたのが本書です。ただし、教育社会学者である著者は「わかりやすく面白く」、そして「読者にいろいろ考えてもらえるような」本にしたいと、かなりくだいた調子で書いています。
 著者は、教育問題とは「社会的に『問題だ』とされている問題」であり、それは「メディアや専門家の著作等で伝えられる言説」や「『現実』に利害関係のある人々が社会に対して訴える活動によって」作られると指摘します。つまり、出来事自体が教育問題ではなく、それを「問題だ」とみなす言説が広がることで社会的に作られる、というわけです。であれば、その言説自体に歪みや偏りがあると、「教育問題」も歪みや偏りが生じます。そこで、@事実認識(問題となっている事実は何か)、A診断(問題点の本質や原因、影響をどう考えるか)、B対策(どういう方法で問題が解決・緩和できるのか)というレベルに分け、既成の教育問題をチェックしていきます。
 私たちは、普段いかに言説に捕らわれているかを再認識させられるでしょう。教師や保護者、もちろん教師を目指す学生にも読んでほしい1冊です。 (関)

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