カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2011年9月号 

◆ 目次 ◆ -----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

カタに学び、カタから離れる−生涯学習者としての教師―
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、生涯学習者としての教師について書いてみます。ご存知のように、教師は約40年間近くも仕事をする専門職です。この間、教師はどのように成長・発達するのでしょうか。教職の各時期(例えば、1年目、5年目、10年目、20年目など)における教師の成長・発達にはどのような特徴と課題があるのでしょうか。また、教師はどのようにして専門家としての力量を高めていくのでしょうか。
 では、他の職業ではどうなのでしょうか。

 本職の歌舞伎ばかりでなく、新派や現代劇への出演、さらにはシェークスピア劇の演出と多方面で活躍している坂東玉三郎さんが、「カタの効用」について次のように語っています。「歌舞伎出身というのが幸せだったと思います。父から、カタができるまでは、他のことに手を出すなと厳しくいわれていました。25歳までは他の世界に染まらずに育ちました。それが基礎となり、以後、いろんなことをやれるようになった気がします。」では、カタは何かという質問に対して、「スポーツのフォームのようなもの」と表現して、次のように説明しています。「役者個人で異なるものですが、劇に対する共通のメソッドがそこに存在します。歌舞伎の世界では、歌や義太夫のけいこなどで、いやが応でもカタを作らされる。自由なものを知る前に不自由なものを教え込まれる。そうすると応用可能なものと、そこから外れるものとの的確な見分けがつくようになるのです。」

 さすが当代一流の歌舞伎役者の言うことには、深みと味がありますね。ところで、このカタは、授業でいえば「定石(教育技術の効果が確認されているもの)」にあたります。例えば、授業規律を作るための「授業ルーチン」や机間巡視における子どもの学習状態の把握の仕方、さらには板書や発問の仕方などもあります。

 では、教師は誰から、どのような方法で、このカタ(定石)を学ぶのでしょうか。そこには、坂東玉三郎さんの父にあたる「師匠(あるいはモデル教師)」がいるのでしょうか。私は、ぜひとも自分のモデルとなる教師を見つけてほしいと願っています。校内にいれば最もよいのですが、そういうわけにはいかないことも多いでしょう。その場合には、他の学校の教師でもいいですし、過去の教師(書物を通して学ぶことができます)でもいいのです。そのモデル教師からカタを学び、次第にそのカタから離れて、自分流の指導技術を作り上げていくのです。それが一流とよばれるプロ教師の姿です。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

災害共済給付制度
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 災害共済給付金制度が揺れている。青森県弘前市の中学校で,養護教諭が,本来,生徒側に渡されるはずの給付金を着服した疑いが強まっているとされる。メディアによると,ケガの治療費等,50万円以上の不明金が存在するという。

 災害共済給付は,独立行政法人スポーツ振興センターが運営し,学校や保育所の設置者が,保護者等の同意を得た上で加入する制度である。現在,加入に必要な掛け金は,小学校,中学校等,義務教育諸学校では年額920円(沖縄県を除く),そのうち4割〜6割を保護者が負担し,残りを学校設置者が負担している。契約の締結及び共済掛金の支払期限は,毎年度5月31日,期限内に掛金が支払われた場合は,その年度の4月1日以降発生した災害が給付の対象となる。学校の管理下で生じた負傷や疾病に対して,初診から最長10年間,医療費が学校を経由して支給される。養護教諭は,その事務担当者となっている例が多い。今回の青森県の事件も,その立場を利用していた可能性が高い。

 災害共済給付金制度にいう学校管理下は,「独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付の基準に関する規程」で定められている。現在,学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合,部活動や林間学校等,学校の教育計画に基づく課外指導を受けている場合,通常の経路及び方法により通学する場合,学校外で授業等が行われるとき,その場所,集合・解散場所と住居等との間の合理的な経路,方法による往復中,学校の寄宿舎にあるときが,規定されている。但し,学校事故裁判で責任を問われる範囲とは必ずしも一致するとは限らないことに注意を要する点である。

 学校の管理下の事由による死亡の場合に支払われる死亡見舞金の額は2800万円,通学中の場は1400万円となっている。平成21年度の死亡見舞金の給付状況を見ると,合計68件,その内訳は,小学校が14件,中学校が13件,高等学校が34件,保育園が7件であり,高等学校が最も多い。原因別では,心臓系の突然死が21件と最も多く,頭部外傷の18件がこれに続いている。

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◇ 学校経営の視点から ◇

全教職員による十分な協議を (一)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 7,8月号の本メールマガジンにおいて、学校を構成する、あるいは関係する諸要素についてSWOT分析を行い、学校運営や教育活動、地域・保護者との関係等について全教職員で見つめ直すことを提案しました。この時期に全教職員で協議することは、9月以降の学校運営面からも、転入教職員の勤務校理解の面からも重要と考えたからです。各校では分析結果に基づいてどのような協議をされたでしようか。

 その一つとして、カリキュラムデザインについてはどのような協議がなされましたか。どの学校でも、めざす子ども像を教育目標として定め、教育課程(カリキュラム)を編成しているのですが、その編成内容が、教育目標を具現する教育課程としては曖昧な場合があります。教科等の指導において、生活指導において、進路指導において、学年学級経営において、学校・学年行事等において、学校生活全般において、それぞれに教育目標を具現する道筋を時数や時期と共に明確に描くと同時に、これらを学年毎に一体性を持たせることによって、教育目標が絵に描いた餅でなくなります。全校レベル、学年・学級レベルにおいて改めてカリキュラムデザインを吟味されてはどうでしょうか。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜「回復力」向上が防災教育の役割〜
「シリーズ・防災を考える6 防災教育の展開」
今村 文彦編 東信堂  3,360円

 東日本大震災発生後、半年が経ちました。これまでの想定をはるかに超えた巨大地震と津波は多くの人命を奪い、人々の日常生活を激変させました。被災地から離れて暮らしていると次第に関心が薄れていくものですが、本書の「被災地の反対語は“被災しない地域”ではない。まだ“被災していないだけの地域(”未災地“とでも呼ぼう)なのだ」という指摘は、あの衝撃を呼び覚ますものでした。「未災地」に生活する限り、防災は一人ひとりの問題です。そして、学校においても防災教育・防災管理の充実は急務です。

 「東北大学 シリーズ・防災を考える」(全6冊)の第6巻にあたる本書は、研究者や実践家6人が「防災」を学校や地域で展開するために、目的や意義を踏まえ、いかに実行し継続させるかをテーマに執筆しています。もちろん、発達段階に応じた効果的なカリキュラムや行政・地域と連携した実践など具体的な取組も紹介されていますが、併せて「生き残り生き抜く防災教育の展開を忘れてはならない」という主張が底辺に流れています。自己信頼、協調性、協力性、想像力を高めるといった「『回復力』の向上が防災教育の大きな役割」というのです。厳しい避難所生活で人々を支え、そしてあきらめず困難に立ち向かうには「回復力」が不可欠であることは容易に想像できます。ハウツー的な情報だけではなく、防災教育のエッセンスがじんわりと伝わる一冊です。(関)

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