カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2011年8月号 

◆ 目次 ◆ -----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

夏休みに「授業づくり」の構想を!
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 夏休みに入り、先生方も少しホッとしている時ではないかと思います。しかし、以前とは違って夏休みに「自宅での研修」が認められなくなって、年休をとらないかぎり、学校に出勤しなければならない日々を送っていることでしょう。窮屈な時代です。「専門家としての教師」を世の中の人々がもっと信頼してほしいと強く思います。

 先生方は、夏休みに「校内での研修会」の他に、教育委員会や民間団体などが主催する「校外での研修会(学習会)」に参加していることでしょう。私も、全国各地で行われている研修会に講師として加しています。そこで、夏休み早々に行われたある研修会の様子を書いてみます。

 それは、千葉県柏市の教育委員会が主催した「活用型学力を育てる授業デザイン」のワークショップでした。市内のすべての小学校から1名(例外的に数校は2名)、計50名の教師が参加しました。私の1時間の講義の後、4・5名のグループに分かれて「活用型学力を育てる授業デザイン」を協働で行いました。いわゆる「参加」「体験」「双方向性」を特徴とするワークショップです。それぞれのグループが授業デザインを行い、いくつかのグループがその成果を発表し、私がコメントをしました。

 特に印象に残ったのは、教務主任のグループが発表した小学校高学年向けの社会科の授業デザインでした。それは、戦国時代を一通り学んだ後に、「もしあなたが家来になるならば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三人の武将のうちの誰につきたいか」について理由(根拠)を挙げて、子どもたちに討論(ディベート)させるというものです。そこには、「根拠にもとづいて論理的に意見を述べる」「他の人に意見とのつながりや違いを考えながら説得的に意見を述べる」といった新学習指導要領がめざす「言語活動の充実」が巧みに歴史学習に取り入れられています。また、三人の異なる人柄をもつ武将を選ぶことを通して、自分の「生き方」や「考え方」を知る機会にもなります。まさに、言語力を活用させる社会科の授業デザインです。私は、これらの意義を指摘した後、「もしあなたが奥さん(正室)になるならば、―――」といった視点についても冗談を交えてコメントしました。

教科書が厚くなればなるほど、教科書を後追いするだけでなく、時には授業を一工夫することが必要になります。そして、夏休みは、2・3学期(あるいは後期)に向けて、リラックスして「授業デザイン(授業づくり)の一工夫」をする絶好の機会です。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

中学校武道必修化と学校事故の危険性
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 7月22日,東京地方裁判所は,高等学校在籍時,柔道の授業中に事故に遭い,後遺障害が残ったとして,学校設置者に対して損害賠償を求めた元生徒の訴えを容れ,1600万円余の損害賠償を命じる判決を下した。近年,学校事故に対する裁判所の姿勢は厳しさを増しているが,今回の判決は新学習指導要領への移行を目前に控えた中学校に,大きな影響を与えるものと考えられる。

 周知のように,2008(平成20)年3月に告示された中学校学習指導要領(平成20年文部科学省告示第28号)では,中学校保健体育において,武道・ダンスが必修となった。現行の指導要領においては,男女ともに武道又はダンスから1領域を選択して履修できるようにすることとされていたが,第1学年及び第2学年において,すべての生徒に履修させることになったのである(第3学年では球技及び武道のまとまりの中から1領域以上を選択履修)。学習指導要領によれば,武道は,武技,武術などから発生した我が国固有の文化であり,武道に積極的に取り組むことを通して,武道の伝統的な考え方を理解し,相手を尊重して練習や試合ができるようにすることを重視する運動であるという。具体的種目としては柔道と剣道,そして相撲が想定されており,第1学年及び第2学年では主として「基本動作や基本となる技ができるようにする」ことを目指し,第3学年では,相手の動きの変化に応じた攻防を展開できるようにするという目標が示されている。

 だが,多くの生徒にとって,武道は初めて経験するスポーツであり,その性格上,攻撃性が高く,事故の発生の危険性が指摘されている。今回の判決は,事故防止に向けて,十分な体調管理の実施はもとより,習熟度別に技の練習体制を構築すること等を学校側に要求しているかに見える。だが,中学校の体育科教員の全てが武道の専門家でないことを考慮すると,十分な見極めができるか否かについては疑問の余地も存在する。また,2007(平成19)年5月現在,公立中学校の武道場整備率は約47%に過ぎないというデータがあり,必修化並びに事故発生の防止に向けた環境整備という点でも多くの課題が残されていると言えよう。

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◇ 学校経営の視点から ◇

振り返りを (2)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 前回、「自校」を診断する方法としてSWOT分析をご紹介しました。今回はその分析結果を2学期以降の学校経営にどう生かしていくか提案します。

◇特色ある教育活動を全教職員で創り出す

 前回述べた外部環境、内部環境についての分析とそれに基づく方策等の策定作業の次に行うことは、「外部の支援的要因」と「内部の強み」をつなぐ作業です。この支援的要因と強みは、それぞれの学校でみな異なっています。プラス面とプラス面をどのように連結させるか、この連結構想を新年度が始まったこの時期に再度練ることで、自校の特色ある教育活動の確認となり、異動された教職員を含めて現有勢力全員の意思統一にもなります。

二学期からでも取り入れられる策は具体化することもできます。

 時として、4月以降の取り組みの中で「外部の阻害的要因」と「内部の弱み」が結合しつつある状況を見出すこともあります。結合してしまいますと、その問題解決に大きなエネルギーを要することになります。直ちに一つ一つ丁寧に対処し、早急に克服していくよう全員の力を傾注しなければなりません。このマイナス面を取り除く、解決していく学校の姿と、先ほどのプラス面同士を多様に、多面的につなぎあわせていく取り組みの姿において、保護者・地域から 信頼が寄せられる学校が創られていくものと思っています。

 子どもたちが長期休業期間に入っている間にこのような作業を行ってはいかがでしょうか。校内に然るべき組織をつくり、調査・分析・協議を行うことにより、2学期以降の教育活動の方向を全員で展望することができると同時に、一人一人が学校づくりの当事者としての自覚を更に高める契機にもなると思っています。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

 〜人間関係は「話力」で変わる〜
「クレーム対応のプロが教える なぜか怒られる人の話し方 許される人の話し方」
 関根 眞一 著   青春出版社  1470円

 いわゆる「モンスターペアレント」とまではいかなくとも保護者や地域住民等、教員は様々な人と話さなくてはなりません。それだけに、話し方には気を使いますね。著者は元デパートのお客様相談室長で、現在は「苦情・クレーム対応アドバイサー」として活躍しています。
 苦情の“最前線”に立ってきた著者が指摘するのは、もとからのクレーマーがいるわけではなく、「なにげなく言ってしまったひと言が、相手をクレーマーにする」ということです。相手をクレーマーに変える「なぜか怒られる人」の共通点の一つは、無意識に「否定語」を使うこと。著者のデータによると、教員には「そうは言いますが」や「そんなことはないでしょう」という否定的な言い方をする人が多いそうです。教員はまじめで保護者の訴えを言葉通り受けとめ、相手の真意をくみとらないまま答えてしまう傾向があるとか。逆に、「許される人」の共通点は、「相手のペースに関わらずゆっくりと話す」、「相手の思いを受け止めて聞く」など。
 著者は「対話を通した人間関係」がないことが現代の「苦情」の増長につながるといいます。そして、人間関係を結ぶきっかけは「対話」であり、関係がこじれた時でも対話する能力、つまり「話力」こそが大切と結論づけます。ビジネスシーンが中心ですが、社会人としても役立つ情報が盛り込まれた書です。気持ちにも余裕のある夏休み。ご自身の「話力」を見直してみるのはいかがでしょうか。 (関)

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