カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 創刊号 

◆ 目次 ◆ -----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

メールマガジンを情報交換の場に!
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 昨年の4月に新設された教職教育開発センターの大きな目的の一つが、「全国で現職教員として活躍されている卒業生の皆様(教職に関心のある方を含めて)のネットワークづくり」にあります。このネットワークを通して、本センターから教職や学校教育の動向に関する有用な情報をいち早く提供するだけでなく、教員同士の自発的な情報交換あるいは交流などに積極的に活用していただきたいと願っています。そして、このメールマガジンは、本センターのホームページとともに、このネットワークの有力なツールになると考えています。ついては、卒業生の皆様からの情報提供をお願いいたします。

 ところで、第3回国際数学・理科教育調査(TIMSS)に参加した米国、ドイツ、日本の中学校数学の授業をビデオで分析し、日本の数学授業のやり方が最も優れたものであることを実証したスティグラーらは、その研究成果をThe Teaching Gap(1999年刊行)という本にまとめました。そして、その本の中で、日本の同僚性にもとづく校内研修、特に研究授業が教師の指導力向上にいかに貢献しているのかを強調しています。この本が、米国の教育界に与えた衝撃はすさまじいものでした。教育は、急激な改革よりも、持続的で漸進的な改善によって成果があがるものだというわけです。

 この日本流の研究授業(授業研究)は、今や「レッスン・スタディー( Lesson Study )」と呼ばれて、欧米やアジアを中心に世界的に普及しています。本センターでは、今年の11月28日・29日にレッスン・スタディー研究の第一人者であるキャサリン・ルイス教授や秋田喜代美教授などをお迎えして、国際シンポジウム「今後の教員養成と現職教育のあり方を考える」を開催いたします。その内容については、メールマガジンで紹介させていただきます。次回以降のメールマガジンをご期待ください。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

全国学力・学習状況調査の行方
教職教育開発センター 教授  坂田 仰

 東日本大震災の影響を受けて,平成23年度の全国学力・学習状況調査が事実上中止となった。全国学力・学習状況調査は,平成19年度から悉皆調査として始まり,昨年度からは,一定程度データが蓄積されたとして約30%の抽出調査(+希望利用方式)となっていた。今回,抽出調査が見送られ,利用を希望する教育委員会及び学校等に対して国が作成した問題冊子等を配布することになったのである。

 全国学力・学習状況調査は,全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより,教育及び教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図ること,各教育委員会,学校等が,全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し,その改善を図るとともに,そのような取組を通じて,教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立すること等を目的としている。

 新学習指導要領への切り替えが進む中,来年度以降,全国学力・学習状況調査は,どこに向かうのであろうか。この点について,文部科学省の全国的な学力調査の在り方等の検討に関する専門家会議は,「平成23年度以降の全国的な学力調査の在り方に関する検討のまとめ」を公にしている。まとめでは,これまでの「国語」,「算数・数学」に加えて,平成24年度から「理科」を追加することを検討する等の提言が行われてめる。その中で,専門家会議が,抽出調査の継続を基本としながらも,「国として教育格差等の状況を把握・分析し,関連する施策の検証を行うとともに,教育委員会等や学校が行う教育改善に資するために,数年に一度は,市町村,学校等の状況も把握することが可能なきめ細かい調査を実施することについても検討する必要がある」としている点については,特に注意を向けるべきであろう。

 7月8日,高木文部科学大臣は,専門家会議の提言に沿って,平成24年度から「理科」を追加することを発表するとともに,平成25年度に「きめ細かい調査」を実施することを明らかにしている。「きめ細かい調査」が何を意味するかは現時点では不明な点も多い。しかし,事実上,悉皆調査の復活を打ち出したものと見ることもでき,学校現場に新たな波紋を投げかけることになるのかもしれない。

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◇ 学校経営の視点から ◇

振り返りを (1)
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

◇SWOT分析で「自校」を改めて診る
 各学校では、校長の学校経営方針に基づき、教育計画に沿った教育活動が順調に推移していることと思いますが、この時期に改めてSWOT分析をしてはいかがでしょうか。これはハーバードビジネススクールのビジネスポリシーコースの一部として開発されたもので、目標が明確である場合に戦略計画ツールとして有用であるとされています。それを学校経営の分野に当てはめたものとして以下の図がよく紹介されています。 すでに学校によっては前年度末にこのような分析を全教職員で行い、新年度に向けての教育方針を確認しているところもあると思いますが、4月以降の学校内外の状況を診て再度行うことによって、異動された教職員にも「自校」がはっきり見えるようになり、学校としての9月以降の教育活動の焦点化も図れるものと思われます。

 これについての具体的な分析方法は様々な書物等にも紹介されていますのでご案内のところだと思いますが、概略を示しますと以下のようになります。



[外部環境に関して]
   ・「自校における支援的に働く外部環境は何か」の分析
    ⇒「強みを更に伸ばし、学校教育目標の具現化のために直ちに取り組むことは何か」の検討・策定
   ・「自校における阻害的に働く外部環境は何か」の分析
     ⇒「弱みを内部の強みで打ち消すことはできないか」
「外部の支援的な要因により克服できる方法はないか」の検討・策定

[内部環境に関して]
   ・「自校における内部環境としての強みは何か」の分析
    ⇒「強みを更に伸ばし、学校教育目標の具現化のために直ちに取り組むことは何か」の検討・策定
   ・「自校における内部環境としての弱みは何か」の分析
     ⇒「弱みを内部の強みで打ち消すことはできないか」
「外部の支援的な要因により克服できる方法はないか」の検討・策定

次回は、この分析結果を教育活動にどう生かすのか、具体的に述べていきます。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜悩んだ時は「ちょっと先輩」からのアドバイス〜
「ちょっと先輩が教える“うまくいく”仕事のコツ―若い教師への元気が出るアドバイス」
 諸富 祥彦 編  教育開発研究所 1890円

 学生時代に授業やゼミで鍛えられ教育実習を経験しても、実際に担任をもってみると、「こんなはずではなかった・・・」と悩む方は少なくないのではないでしょうか。それだけ、教員の仕事は現場に出てから学ぶことが多いともいえます。本書の前半は、経験年数7〜10年、新採教員からみれば「ちょっと先輩」の教員たちが新採時代の経験を語る座談会、後半は自らの経験に基づく仕事の「コツ」が集められています。

 七転八倒の末に危機を脱した経験が語られる座談会を読めば、若手教員は「私だけじゃないんだ」と元気をもらい、若手育成にあたる中堅教員は「○○先生はこんなところで躓いているのかもしれない」と悩みに寄り添うヒントが得られるかもしれません。

 一方の伝授される仕事の「コツ」は「学級づくり」、「授業」、「職員室での関係づくり」、「保護者との関係づくり」のほか「息抜き」にも及びます。ベテラン層からみれば「当然」のコツかもしれませんが、見方を変えれば、それらが若い世代に継承されにくくなっていること、さらに特別支援教育など新たな課題への対応が切実に求められていることがうかがえる書でもあります。(関)

>>> 2011年8月号