来春教員になる方へ − 卒業生からの応援メッセージ −

『教師という仕事がもつ魅力を忘れないで!』  
                    教職教育開発センター所長  吉崎 静夫
 

  教師になれば、20代前半で、授業を計画し、実践して、評価・改善するようになる。 つまり、この若さで、PDCAという一連の活動のすべての局面に関わることができる。 教師の他に、この若さですべてを任される職業はめずらしい。もちろん、そこに重大な責任や困難が生じることは言うまでもない。 しかし、こんなにやりがいのある職業に就くことができた皆様の人生は幸せである。そのことをいつまでも忘れないでいてほしい。

 教職1年目は、これからの長い教職生活にとって、どのような意味をもつ時期なのだろうか。 また、どのような課題をもってすごす時期なのだろうか。

 筆者がこれまでにお会いした多くの教育関係者は、教師としての最初の3年間が決定的に重要であると、口を揃えて言う。 まさに、「三つ子の魂百まで」である。そして、その中でも、最初の1年間は、教職生活において最も成長し発達する時期であるとともに、 最大の危機に直面する「サバイバル期」である。 したがって、この1年間、とりわけ1学期を無事に乗り切ってほしいと心から願っている。 そのためには、恥ずかしがらず、困ったときには同僚の先生方や友だちに何でも相談しましょう。

 多くの初任教師に共通していることは、子どもの良い面ばかりを見ていればよかった教育実習の時とは違って、 子どもの悪い面や学習速度の遅い子が目につくことである。 このことは、「子どもの良い面を見るという理想的子ども観」と「子どもの悪い面も見ざるをえないという現実的子ども観」とのジレンマを生じさせることになる。 しかし、教育実践に慣れるのにしたがって、気持ちの余裕が出てくると、いろいろな側面から子どもを見ることが少しずつできるようになる。 例えば、ある小学校の初任教師は、「はじめにもっていた、かわいらしく、おとなしいといった子どものイメージはやぶられ、腕白で騒々しい子どもの現実に直面し、 少なからずショックをうけた」という1学期の子ども観を、2学期には「一人一人が違うのだ。このような子もいて当たり前と考えるようになった。 すると、落ち着きがなかった子にも、冗談を言って、クラスを明るい雰囲気にするという良さがあることに気づき、子どもの見方が変わってきた」とその変化を語っている。 このように1学期を乗り越えると、新しい地平が開かれてきます。そのことを心の支えにしてください。


卒業生から

『自分の足でしっかり立てる教員になる』 
   日本女子大学附属中学校 指導部主任  椎野 秀子 (1980年度 文学部国文学科卒業)


 この春から教壇に立たれる皆様は、谷川俊太郎の「春に」の詩のごとく、新しく拓ける世界に希望と期待あればこその不安と戸惑いを抱いていらっしゃることでしょう。「信念徹底」「自発創生」「共同奉仕」の三綱領の下「自念自動」の教育を実践する附属中学校に大学卒業以来勤務している私は、皆様に「自分の足でしっかり立てる教員になる」ことを目指していただきたいと願っています。

 児童生徒を前にすれば新人もベテランもない教室、授業ですから、学校生活では一人一人違う生徒に、一瞬一瞬自分の判断を求められます。だからこそ日頃から先輩諸氏に臆せず相談し、判断を仰ぐ姿勢をもっていただきたいと思います。しかし大切なのは、その経験者からのアドバイス、指導法を鵜呑みにしてそのまま真似をしようとするのではなく、よく自分で吟味し納得してから、生徒にあたることです。どんなに立派な実践例や素晴らしい方法も実際に生徒にあたる貴女自身が心から納得できていないことは、感受性のかたまりである生徒達がそれを見過ごして納得してくれるわけがありません。良いと思う考えや言動も、自分がどんな納得と見通しでそれを行うのかを熟考していく姿勢が、やがて貴女を自分の足でしっかり立てる教師に育ててくれるはずです。

 専任教員の仕事の中で授業はほんの一部であると実感させられる沢山の校務で忙しい毎日ですが、それでも生徒との信頼関係は授業でこそ作られます。授業を第一義と考えて自身の研鑽と授業研究に取り組んでください。学ぶ喜びを実感できる授業で作られた生徒との信頼関係が、もっと大きな人間的結びつきを育んでくれます。児童生徒の可能性は無限大であると実感させられる瞬間、それが教員のエネルギー源であり教職の幸せであると思います。若さという「時分の花」を大切に活かし、エネルギーを燃やしながら自分の足でしっかりと立つ「真の花」になってください。4月からの皆様のご活躍を心より応援しております。

『子どもは一番の先生』
        世田谷区立玉堤小学校 教諭 守屋 典子 (1997年度 家政学部児童学科卒業)

                           
 4月から教壇に立つみなさんは、期待と不安で胸がいっぱいのことと思います。ベテラン教諭であろうと、新人教諭であろうと、子どもたちにとって、担任の先生であることには変わりがありません。それは、親御さんにとっても同じです。そのプレッシャーに押しつぶされそうになるかもしれません。

 初めは、職場の先輩に教えていただいたり、先輩の姿を見て学んだりしてください。また、同期の仲間と共に、研修を通して、多くのことを学んでください。中には、納得できないことや、賛同できないこともあるかもしれません。でも、まずは全ての考えを受けとめることが大事です。そこから、選んで試していけばいいと思います。やってみたいとか、やりたくないとか、決めつけないで、さまざまな仕事に挑戦し、経験値を上げることも大切です。

 時々、おいしいものを食べにいったり、温泉に行ったり、悩みを聞いてもらったりして、気分転換することもお勧めです。一人で抱え込まないでください。子どもたちは、元気な先生が大好きです。リフレッシュする方法を、いくつか見つけておきましょう。

 「先生が、毎日学校にいてくれるから、うれしい。」「夏休みも勉強をみてくれたから、がんばろうと思えるようになったよ。」「先生は、ただ怒るということはしないで、どこがいけないのか、どうしたらよくなるのか、教えてくれたから、深く反省できたよ。」これは、教え子からもらった手紙の一部です。子どもたちの手紙は、どれも「なるほど」と納得させられるものばかりです。先輩や同期から学ぶことや、研修に行くことも、教師としての資質を高める上で重要ですが、私は、教え子たちが一番の先生と思って日々接しています。教え子たちのおかげで、教師として成長できるのですから。みなさんも、目の前にいる子どもたちの成長を願って、日々努めてください。そして、目の前の子どもたちから、たくさんの学びを得て、成長してください。責任の重い、大変な仕事ではありますが、その分やりがいのある仕事です。みなさんのご活躍をお祈り申し上げます。

『自分の引き出しを豊かに』
     横浜市立大岡小学校 教諭 荏本 加奈子 (2008年度 人間社会学部教育学科卒業)

                           
 横浜市の桜の名所大岡川のほとり、賑やかな商店街と弘明寺観音に囲まれた大岡小学校に昨年の春から勤務しています。大震災の影響もまだ色濃く残る中のスタートでしたが、初めての『私の学校』『私のクラス』『私のクラスの子ども達』との出会い、あの緊張と興奮は一生忘れないと思います。

 今、クラスの総合学習でそばづくりに取り組んでいます。最初は難しく、イモ虫みたいだったそばですが、練習を重ねたり、職人さんに教えていただいたりする中でずいぶん上達してきました。できなかったことができるようになった時の子どもの満面の笑顔や夢中になる姿に日々感動しています。最初は自分達が楽しむことだけを考えていた子ども達ですが、「地域の人に喜んでもらいたい」「もっと笑顔になってほしい」と熱く語るようになり、地域の方へのごちそう会も回を重ねました。子どもって毎日毎日どんどん成長していて、その成長に一番近くで携われることが、教員という仕事の何よりの喜びだと実感しています。「荏本先生、子どもにメロメロだね!」なんて、他の先生方に笑われています。

 でも、4月当初はやらなくてはいけないことがたくさんあるのに、一体何からやればいいのかわからず、毎日いっぱいいっぱいで大岡川沿いを夜道泣きながら帰ったこともありました。学校が始まって一番困ったのは「給食当番」や「掃除当番」「学級目標決め」など、当たり前にクラスにあるものです。それまでも教育実習や学校ボランティアなどで学校には足を運んでいましたが、よく考えると、その時はもう出来上がったものしか目にしておらず、「当番ってどうやって決めるの?」「学級目標っていつ決めてるの?」と、そのプロセスに困りました。でも回りの先輩先生方に学級経営から授業の組み立てまで丁寧に教えていただけたので、わからないことはわからないと謙虚な気持ちで聞けば絶対に助けてもらえると思います。ぜひ4月までの時間に、そういった今まで「当たり前」と思っていたことを考えながら、自分の引き出しを豊かにして下さい。

 こんなに全力で笑ったり、全力で泣いたり、全力で喜んだりできる仕事はきっと他にはないと思います。そして自分が全力で向き合えば、絶対に子どもから返ってくるものがあります。「この話をしたら子どもは喜ぶだろうな」とか「明日子どもと一緒にやってみよう」とか、考えるだけで今からわくわくしてきませんか。先生として一緒に働けることを心待ちにしています。一緒に頑張りましょう。

>>> 2011年度の応援メッセージ