カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2017年1月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座  -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

二人称としての授業研究(1)
           教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 今月から数回にわたって、「二人称としての授業研究」について考えてみます。

 これからの教育研究においては、「三人称としての教育研究(教育心理学者や教育社会学者などの教育科学者が得意とする研究アプローチ)」をまとめたものばかりでなく、教育実践者(学校教育ばかりでなく、幼児教育、社会教育、企業内教育など広範囲な教育に携わる人)が他の専門家(例えば、同僚教師)と協働で行う「二人称としての教育研究」、や自らの教育実践を研究する「一人称としての教育研究」をまとめたものがもっと発表される必要があります。

 ちなみに、これらの教育研究の特徴は、授業研究でいえば次のようになります。

 「一人称としての授業研究」は、教師が自らの授業実践を対象に、その授業を改善するために研究することです。その特徴は、当事者性(主体的な関わり)が大きい割には、客観性が低くなりがちなことです。

 「二人称としての授業研究」は、教師が同僚教師(あるいは研究会などの学外教師)と協働で、同僚教師(あるいは学外教師)が実践する授業を改善するために研究することです。具体的には、協働で授業を設計したり、授業後に授業者と授業について対話をし、授業改善のための手立てを探ることです。その特徴は、当事者性と客観性が中程度だということです。このことは、当事者性と客観性のバランスがほどほどにとれていることを意味します。

 「三人称としての授業研究」は、授業者の了解をえて、ひたすら第三者の立場から授業実践を観察・考察して、その授業実践に関わる要因や要因間の関係を記述することです。その特徴は、一人称の授業研究とは逆に、当事者性が小さくて、客観性が高いことです。

 ところで、発達心理学者のヴァスデヴィ・レディは、「乳幼児はどのように他者の心を理解するのか?」というテーマに接近する研究法として「二人称的アプローチ(second-person approach)」を採っています(ヴァスデヴィ・レディ(著)佐伯胖(訳)『驚くべき乳幼児の心の世界―二人称的アプローチから見えてくること―』ミネルヴァ書房、2015年)。

 そして、「乳幼児が生後数か月で、すでに他者の多様な心がわかっており、それらにきわめて『人間的な』応答をしているという、従来の心理学研究では描かれていなかった驚くべき心の世界が浮かびあがってくる」というのです(訳者・佐伯胖によるコメント)。この結果をふまえて、佐伯は、「訳者解説」の中で「二人称的アプローチ」の意義を次のように述べています。

 「二人称的アプローチ」が乳幼児の発達研究にとどまらず、教育一般、さらには介護・看護、医療臨床などにも、広がりをもつべき考え方であるとみることができよう。また、最近は「二人称的かかわり」が実際に私たちの脳にどのような変化をもたらしているかについての研究も出てきており。「二人称科学」という新しい科学が生まれつつある。本書はまさに、そのような「二人称科学」の幕開けの書であると訳者は考える次第である。

 では、レディのいう「二人称的アプローチ」は、どのような研究法であり、どのような特徴があるのでしょうか。また、「二人称としての授業研究」にとっては、どのような意味があるのでしょうか。これらについては、来月のメール・マガジンで述べることにします。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

大規模災害時の子どもの引き渡し
危機管理マニュアルの遵守が必須
           教職教育開発センター教授 坂田 仰

 東日本大震災の発生から7年が経過しようとしている。この間,学校,教職員の責任を巡って,幾つもの訴訟が提起されてきた。宮城県東松島市公立小学校津波訴訟では,保護者以外への児童の引き渡しが争点となっている(仙台地方裁判所判決平成28年3月24日)。

 被災したのは,放課後,通っていたそろばん教室で地震に遭遇し,小学校へ避難してきた女子児童である。児童は,校長の判断の下,災害時児童引取責任者として登録されていた者以外の者に引渡され,帰宅後,津波に襲われ死亡することになった。遺族は,校長が,担任教員に児童の引き渡しを行わせる場合,相手方が災害時児童引取責任者であるかどうかを確認させる注意義務を負うとする。にもかかわらず,校長は,これを怠った等と主張し,学校設置者を相手として損害賠償を求める訴訟を提起している。

 判決は,遺族の訴えを認めた。まず,指定避難場所である小学校を現実に管理している校長は,避難してきた在籍児童を小学校から移動させる際,「安全とされている避難場所から移動させても当該児童に危険がないかを確認し,危険を回避する適切な措置を採るべき注意義務を負」っていたとする。

 問題と考えられるのは,校長が,教員に対し「災害時児童引渡し用の名簿を使用しないままで児童らの引渡しを受ける者の名前と関係が確認できれば児童らを引き渡してよい」旨の指示を出したことである。指示を受けた職員は,児童を災害時児童引取責任者ではない者に引き渡し,結果的に被災することになった。校長の指示は,自ら定めた安全確保のための手順を自ら無視する行為に他ならない。安全管理はもとより,学校経営全般において,大きな矛盾を孕んでいると言えるであろう。

 教職員は,学校及び通学路一帯の災害発生予測について,常に細心の注意を払っている。だとするならば,浸水想定地域を通って帰宅する児童を,敢えて,災害時児童引取責任者ではない者に引き渡す意義は何処にあったのか。誰もが理解に苦しむ判断である。大地震に伴う大きな混乱の中で下された判断を,後から安易に批判するべきではない。しかし,子どもの安全確保に対する今後の教訓として,すべての教職員が記憶に止めておくべきことであろう。

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◇ 小学校教師のための英語指導講座   -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
           家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

9 コンテクストに重点を置いた英語文法

(2)「受動態」の基本的な用法
 同じ事態(出来事)を表すのでも、能動態を用いる時と受動態を用いる時とでは、話し手の意図や気持ち、事態の捉え方が異なっています。言葉が実際に使用される場面において、両者は全く同じように用いられるわけではありません。

@「受動文」(受動態の文)は、旧情報を担うものを主語(主題)にし、それについての新情報を後半で伝える文であり、意図的に作られた文である。

 情報の伝達とは、原則的には、話し手が分かっていて聞き手には分かっていないことを伝える行為です。この「聞き手に分かっていないこと」を「新情報」(new information)と呼び、「話し手にも聞き手にも分かっていること」を「旧情報」(old information)と呼びます。この場合、「聞き手に分かっていないこと」というのは、聞き手が全く知らないことではありません。話し手が伝えようとする時に聞き手には念頭にないこと、あるいは意識していないことです。

 一般的に私たちは、文を述べる時に、まず自分が「何について」述べるのかをはっきり示します。この「何について」に当たる部分を文の主題(theme)と言い、後半にそれについて述べる部分を題述(説述、叙述:rheme)と言います。私たちが発する文は、基本的に次のような構造になっています。

  文 = 主題 + 題述

主題というのは、話し手がある事態について文を述べる時、どこに視点を置いて話をするのか、何について述べるのかを示す部分です。次の二つの文をみてください。

a. John broke that window this morning.
     (ジョンがね、今朝あの窓を壊したのですよ。)
b. That window was broken by John this morning.
     (あの窓はね、今朝ジョンに壊されたのですよ。)

 a.の文では、話し手はJohnに視点を置き、「ジョンについて言えば、」「ジョンはね、」とJohnを主題にし、主語にしています。一方、b.の文では、話し手はthat windowを主題にし、主語にしています。安藤貞雄氏は「英語教師の文法研究」(大修館書店 1983)の中で、次のように述べています。
 「能動態のa.と受動態のb.とでは、両文の伝達する現実世界の情況は同一であっても、話し手の視点が全く異なる。a.では動作主であるJohnが話題にされているのに対して、b.では受動者である「窓」が話題にされている。つまり、a.では、聞き手はJohnのことは知っている(=旧情報)が、窓が壊されたことは知らない(=新情報)のである。一方、b.では、聞き手は窓が壊されたことは知っている(=旧情報)が、誰が壊したかは知らない(=新情報)のである。このように、「談話」(discourse)は、普通、聞き手にとって旧情報である主題(theme)について、新情報を担った説述(rheme)を行うという形で進められていくものである。」
 このように、受動文は、「談話」の原則に則り、旧情報を担う受動者を主語にして文頭に持ってきて、その後半でそれについての新情報を述べるという形を意図的に取らされた文なのです。

A受動態は、次のように「動作主」や動作主である「私」を出す必要がない時や、理由があって 出せない時、意図的に出したくない時などに用いられる。
 ○動作主が不明、不確定で表せない時
       John was hurt in the traffic accident.
        (ジョンは交通事故でけがをした。)
 ○動作主が文脈から明白で表す必要がない時
       English is spoken in many countries.
        (英語は多くの国で話されている。)
 ○出来事や事態を客観的に述べたい時
       This is considered natural.
        (これは当然のことと考えられる。)
 ○科学論文等の中で「私」を出したくない時
       The book is divided into two chapters.
        (その本は2つの章に分かれている。)
 ○言い逃れや責任回避したい時
       The vase was broken when we were playing baseball.
        (その花瓶は僕たちが野球をしていた時に割れたんです。)

 会話や文書の中では、受動文の8割以上がこのような「by+動作主」のない、つまり動作主を明示していない文であるという事実にも注目すべきです。
                   (次号に続く)

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
〜「健全な懐疑心」がニュースを読み解く 〜
 「情報を活かす力」
 池上 彰著  定価850円(税別) PHPビジネス新書

自分に都合の悪いことは「偽ニュースだ!」と断じる大国のリーダーの姿に不安を感じ、本書を手に取りました。今やTVのニュース解説番組では欠くことができない存在となった著者。筆者が著者を知ったのは『NHK週刊こどもニュース』のキャスターとして活躍し始めた頃です。難しい事柄を平易な言葉と工夫された模型で解き明かしていく手腕は、まさに感嘆ものでした。その著者が自らの情報収集・整理・活用術を公開したのが本書です。

情報収集術(新聞やネットニュースの読み方、本の探し方、取材・インタビューの方法)、情報整理術(スクラップ法、アイデアメモのつくり方)、読書術(読み方、探し方)、ニュースの読み解き方、(メディア・リテラシー)、情報発信術(わかりやすい文章や説明のコツ)など、情報を自分の味方にするヒントがあふれています。

ニュース解説の「キモ」となる「メディア・リテラシー」の力をつけるには「『健全な懐疑心』が必要」とのこと。メディアが伝える内容を頭から信じたり、疑ってかかるのではなく、「個々の事実を積み重ねて得られる印象は、全体像を正しくとらえているのだろうかと、懐疑心を働かせてほしい」といいます。

情報収集するのは自分がよりよく生きていくための判断材料を得るためであり、情報解釈力をつけてこそ、的確な判断ができるのです。そして、わかりやすい説明とは「相手への想像力の問題」。自分は誰に、何を伝えようとしているのか、どの程度の理解力をもつ人に説明しようとするのかを常に問うことが、誰もが理解できるニュース解説を生むのだなと、合点がいきました。

「『自分の考え方に合わない意見』にこそ目を通す」、「たった一段の『ベタ記事』が、実は面白い」、「『みんなが聞きたいことは何か』を意識すると、いい質問ができる」、「書いた文章を“ひとり突っ込み”すると考えがまとまる」―読んでみたくなる各節の小見出しから著者の発信力が伝わってきます。世界の枠組みが大きく変化しそうな今、「大きな声」に翻弄されて行き先を見失わぬための一冊です。 (猫)

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