カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2017年2月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座  -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-

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◇ 所長だより ◇

二人称としての授業研究(2)
           教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 レディが提唱している二人称的アプローチでは、一人称的ないし三人称的アプローチとは違って、他者は「あの人(特別な他者)」として能動的かつ情動的関わりの中で理解されます。そして、「我と汝(私とあなた)」という二人称の関係においては、能動的かつ情動的な関わりとともに、応答する感覚(その人の行為に「応える」義務感)が喚起されます。つまり、二人称の関係の主な特徴は、「情動性」と「応答性」にあります。

 一方、一人称的アプローチでは他者というのは自己の経験の延長によって理解されると考えられており、三人称的アプローチでは他者というのは観察、推察および理論によって外側から理解されると考えられています。

 ここで、「他者」という用語を「授業」という用語に置き換えてみましょう。そうすると、「当該教師と同僚教師」という二人称の関係において、当該教師は同僚教師が実践する授業に能動的かつ情動的に関わるとともに、同僚教師の行為に「応える」義務感が喚起されることになります。

 筆者は、「二人称としての授業研究」の特徴として、当事者性と客観性のバランスがほどほどにとれていることを1月号で述べました。なお、他人事ではなく自分の事として対象に関わろうとする「当事者性」は、レディがいう「能動性」や「応答性」と深い関係にあると思われます。したがって、「二人称としての授業研究」は、当該教師が同僚教師の授業に当事者性をもって関わることによって、同僚教師の行為(例えば、授業プランの作成や授業改善)に積極的に応えようとするものだといえます。なお、ここでいう「同僚教師の行為に積極的に応えようとすること」は、授業を受けている児童・生徒が同僚教師の行為(手だて)に積極的に反応することを意味しているのではなく、当該教師が同僚教師の授業プランに積極的にコメントしたり、協働で授業プランを作成することを意味しています。さらに、授業後に同僚教師と授業について対話し、協働で授業改善プランを作成することを意味しています。それは、まさにわが国の学校風土の中で形作られた「同僚性」が基盤になっているのだといえます。

文献
ヴァスデヴィ・レディ(著)佐伯胖(訳)『驚くべき乳幼児教師の心の世界―二人称的アプローチから見えてくること―』ミネルヴァ書房、2015年

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◇ 教育時事アラカルト ◇

炎天下のランニング
           教職教育開発センター教授 坂田 仰

 学校で事故が起きた場合,学校設置者,教員は,民事責任,刑事責任,行政責任(私立学校の場合,雇用契約に基づく責任)という三つの法的責任が追及される。ただ,これまで多くの事故では,専ら民事責任が問題となり,刑事責任の追及に至ることは比較的少なかった。しかし,指導の態様が杜撰で,生徒が死亡するなどの被害が生じた場合等,「刑事責任」を追及する動きも顕著になっている。

 その際,通常問題となるのは,「業務上過失致死傷罪」(刑法211条)の成否である。公立中学校の野球部が校外で練習中,熱中症に起因する多臓器不全により生徒が死亡した事案では,顧問教員に罰金40万円の有罪判決が下されている(横浜地方裁判所川崎支部判決平成14年9月30日)。

 夏の炎天下,休憩時間を設けず,河川敷で2時間以上にわたってノック練習等を繰り返していた。その後,数分の給水休憩を取らせ,最後の仕上げとして持久走を行っている。その途中,太り気味で体力のない部員が,熱中症によって意識を失い,転倒することになる。だが,顧問教員は,自ら先頭集団と走っていてこれに気付かず,熱中症への対処が遅れることになった。

 周知のように,過失による犯罪が成立するためには,結果に対する「予見可能性」と「回避可能性」が必要となる。判決は,顧問教員が「保健体育の教員」であり,「大学の体育学部において運動生理学等の専門教育を受け」ていたこと,「生徒に熱中症について教えるとともに,教育委員会などからも再々熱中症についての注意を喚起され」ていたことから,熱中症に至る「予見可能性」が存在したとしている。また,炎天下にもかかわらず,十分な休憩・給水をとらせなかったこと,熱中症に罹患しやすい太り気味で体力がない部員の健康状態に注意を払わなかったこと,集団の後方から監視するなど迅速かつ適切な救護措置を講じる態勢に欠けていたこと等を指摘し,「結果回避義務違反」の存在も認められるとした。

 炎天下のランニングを含む運動部活動の指導については,文部科学省の「運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議」がガイドラインを策定している。そこには,「許されない指導」の例として,「熱中症の発症が予見され得る状況下で水を飲ませずに長時間ランニングをさせる」ことが明記されている。今後,炎天下ランニングに対しては,熱中症の危険性に加えて,行き過ぎた指導という観点からも厳しい視線を向けていく必要があると言えよう。

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◇ 小学校教師のための英語指導講座   -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
           家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

9 コンテクストに重点を置いた英語文法

(3)「現在完了形」の基本的な用法
@ 「過去形」と「現在完了形」との違い
 次の文を見てみましょう。

  (1) a. I lost my key.
       b. I have lost my key.

 (1) a.の過去形の文も、 (1) b.の現在完了形の文も、どちらも話し手は、「私は鍵をなくした。」という事態(出来事:event)を述べています。 しかし、この2つの文の形の違いから、話し手の事態の捉え方(認識の仕方)が異なっていることが分かります。
 (1) a.の文では、話し手は、過去形を使うことで、「鍵をなくした」という過去の出来事だけを述べており、今はもう見つかっているのかどうか、現在についてまでは、述べていません。
 一方、(1) b.の文では、話し手は、現在完了を使うことで、「鍵をなくした」という過去の出来事が現在にまで及んでいる(つまり、まだ見つかっていない)ことを述べているのです。
 この違いをそれぞれの表現が使われるコンテクストの違いとして捉えておくことが実際のコミュニケーション場面において大切になってきます。

 <現在完了の基本的な用法>
  話し手は、「過去に起こった出来事」を「現在にまで及んでいる事」と捉えるとき、現在完了形を使う。

A「完了」「継続」「経験」の用法
 日本の伝統的な学校文法では、「現在完了」には、「完了」「継続」「経験」の用法があるとされ、それぞれ個別に教えられてきました。次の文を見ましょう。

  (2) a. I have already read the book.
       b. I have read the book twice.
       c. I have lived in Tokyo since last year.

現在完了形の文は、(2) a.の文のように、already(すでに)が付けば「完了」を表します。また、(2) b.の文のように、twice(2回)が付けば「経験」を表します。また、(2) c.の文のように、
since last year(去年から)が付けば「継続」を明確に表します。

 このように、現在完了形の文は、副詞などの言葉をつけ加えることで、過去の出来事がどのような形で現在にまで及んでいるのかを明確に表すことができます。
それを学校文法では、便宜的に「完了」「経験」「継続」の用法と呼んできたのです。

B「現在完了」の指導上の留意点 
ア 「現在完了」が使われる適切なコンテクストの設定
 「話し手は、「過去に起こった出来事」を「現在にまで及んでいる事」として捉えるとき、現在完了形を使う。」という現在完了の基本的な用法を生徒が理解できるように、現在完了形が使われるコンテクストを次のように段階的に適切に設定します。

  (3) I dropped my key ten minutes ago.
       I am still looking for my key.
       I have lost my key.  (私は鍵を失くした。まだ見つかっていない。)

  (4) Mike wanted to go to the moon when he was a child.
       Now he still wants to go to the moon.
       So he has wanted to go to the moon since he was a child.

イ 「継続」を表す現在完了形の指導上の注意
 現在完了形によって表される「継続」は、「状態の継続」と「動作の継続」の二つがあることを明確に指導します。「状態の継続」は、[状態的]動詞を用いた単純現在完了形で表します。「動作の継続」は、通例、[非状態的]動詞を用いた現在完了進行形で表します。

  (5) [状態的]動詞の場合
       a. I have known Mr. Tanaka since 2010.
       b.*I have been knowing Mr. Tanaka since 2010.

  (6) [非状態的]動詞の場合
       a. Mike has been reading the book for two hours.
       b.*Mike has read the book for two hours.

         *は非文(非文法的な文)であることを表す。
                   (次号に続く)

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