カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2016年12月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座  -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-

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◇ 所長だより ◇

教師の「行為の中の省察(reflection in action)」(2)
           教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 ショーン(Schon,D.A)は、「普通の人びともプロフェッショナルな実践者も、自分がしていることについて、ときには実際におこなっている最中であっても考えることがよくある」と述べています。まさに、「行為の中の省察(reflection in action)」です。そして、ショーンはさらに、「行為の最中に驚き、それが刺激となって行為についてふり返り、行為の中で暗黙のうちに知っていることをふり返る」と述べています。まさに、「行為の中の省察」を通して、プロフェッショナルな実践者は、実践を通して蓄積してきた暗黙知を表に出して検討し、明示化させることができるようになるのです。これらの「行為の中の省察」のプロセスを、授業における教師の行為(教授行動)に当てはめて考えてみましょう。

 授業において教師が驚くのは、どのような場面でしょうか。

 一つ目は、授業前に予想していた子どもの反応(発言、行動、表情など)と授業での実際の子どもの反応との間にズレがあり、しかも子どもの反応が教師の期待水準以下であった場合です。例えば、教師が予想していたような反応(意見や考え方など)が出なかったり、予想もしていなかった誤答やつまずきが見られた場合です。この場合、教師は暗黙知(実践知)を総動員して、授業を組み立て直さなければなりません。

 二つ目は、両者の間にズレはあるが、しかし子どもの反応は教師の期待水準以上であった場合です。例えば、教師が予想もしていなかったような優れたアイデアや意見が出た場合です。この場合も、教師は暗黙知(実践知)を総動員して、これらのアイデアや意見を授業の中にどのように取り入れたらよいのかを構想しなければなりません。

 三つ目は、授業前には教師が考えてもいなかった授業場面で、トラブルが生じた場合です。例えば、話し合い場面で、リーダー格の子どもから思わぬ意見が出たために、クラスの多くの子どもがその意見に引きずられたような場合です。また、授業においてICTを使おうとしたときに、ICTが故障で使えないような場合です。これらの場合にも、教師は暗黙知(実践知)を総動員して、授業を組み立て直さなければなりません。

 このような授業の驚き場面において、教師は実践を通して蓄積してきた暗黙知(実践知)を表出させて省察(吟味)することが求められます。その結果、教師は同じような授業場面に直面したときに、これらの暗黙知(他の人になかなか説明しにくい知識)を明示知(他の人に説明し、解説できる知識)として扱うことができるようになります。

文献
ドナルド.A.ショーン(著)柳沢晶一・三輪健二(監訳)   『省察的実践とは何か』鳳書房(2007年)

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◇ 教育時事アラカルト ◇

飲酒運転−教員としての自覚−
           教職教育開発センター教授 坂田 仰

 忘年会のシーズンである。ついつい飲み過ぎて,飲酒運転。まさに悪夢である。飲酒運転で検挙された場合,酒酔い運転,酒気帯び運転の区別を問うことなく,懲戒免職,長期の停職等,厳しい懲戒処分が下されることも少なくない。特に,教員の場合,厳罰化の傾向が顕著である。

 だが,中には同情したくなる事案も存在する。忘年会の翌日,アルコールが抜けきらず,酒気帯び運転で検挙されるケースである。教員に飲酒運転をしようという意図は全く存在しない。一晩休養をとり,「もう大丈夫だろう」という気持ちで,自動車を運転していたのである。

 この点が問題となった事案として,長野県公立学校教員飲酒運転懲戒免職取消請求訴訟がある(長野地方裁判所判決平成24年11月30日)。判決は,長野県教育委員会の懲戒処分指針,関係通知について,「酒気帯び運転の場合に,酒気を帯びていることについて故意又は故意に等しい重過失がある場合に原則として免職とし,軽過失にすぎない場合(又は酒気帯び運転をせざるを得なかったことについてやむを得ない理由がある場合)には原則として停職とすることとしていると解するのが相当」であるとした。

 そして,教員の「非違行為は極めて軽率な行為であって,原告が教職員であることから社会に与えた影響は少なくなく,現実に授業等に支障が出ていたという事情があるとしても,原告に対して飲酒後相当の時間経過後に運転した場合等に該当するにもかかわらず,なお免職処分とすべきであるという事情が存在するとまではいえない」とした。

 判決の当否は別として,飲酒運転に対して厳格な懲戒処分を下すことは,飲酒運転を絶対に許さないという強いメッセージを懲戒権者が発することになる。この効果を考慮するとき,「飲酒運転=懲戒免職」という処分基準を維持することそれ自体が,飲酒運転撲滅に向けた強い抑止効果を持つことを見落としてはならない。いずれにしても,忘年会シーズンを迎えるに当たって,教員としての自覚が求められている。

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◇ 小学校教師のための英語指導講座   -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
           家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

9 コンテクストに重点を置いた英語文法

 コミュニケーションに重点を置いたこれからの英語指導を考える時、小学校教師も、英語のことば(語や表現、文法事項等)の表す基本的な概念や、それらが使われるコンテクストを理解していることが重要であることをこれまで述べて来ました。  
 この根底にあるのは、「『文法』とは、ことば(語や表現、文法事項等)を、話し手がどのような意図(intension)で、どのような機能(function)を活用して使うのか、という『コンテクスト』を体系的に記述したものである。」という考えです。
 この考えのもとに、中学校の代表的な文法項目である「現在進行形」「受動態」「現在完了形」の3項目を取り上げ、「文法」を再構築してみたいと思います。

(1)「現在進行形」の基本的な用法
 英語を母国語とする人々が「現在進行形」を使う時には、「現在形」等の他の表現形式を使わずに、あえて「現在進行形」を使う理由があります。
    〈例〉“I miss you.” (あなたがいなくて寂しい。[恒常的にいつも])
          “I'm missing you.” (あなたがいなくて今本当に寂しい。[まさに今])
 話し手は「現在進行形」を使うことによって、今目の前にある事態をどのようなものとして捉えているのか、また、「現在進行形」を使うことでどのような気持ちを(暗に)伝えたいのかを聞き手に示すことができます。(ただし、聞き手が、話し手の意図を汲み取ることができるかどうかはまた別の問題です。)
@ どのような意図で使うのか
    「話し手が、現在時において、『ある活動』が進行中であると述べたい時」

A どのような機能を活用して使うのか
  ア「現在進行中の活動を表す。」という機能
   a) 過程: john is drinking a cup of tea.    [非状態的・継続的・完結的]動詞
   b) 続行: John is working in the garden.  [非状態的・継続的・非完結的]動詞
   c) 推移: john is dying.                    die: [非状態的・非継続的・推移的]動詞
   d) 反復: John is jumping.                     [非状態的・非継続的・非推移的]動詞

  イ 「近い未来を表す。」という機能
    a) 予定: John is leaving Japan next week.  (日本を離れることになっている。)
    b) 意志: I'm staying here this afternoon.  (午後はここにいるからね。)
    c) 予測: I think it’s going to rain.  (雨が降ると思います。) ※雨雲等がある。

(2) 指導上の留意点
@ 動詞の arriveや stopは、[非状態的・非継続的・推移的]という意味特性を持っている動詞で、進行形になると、「〜しつつある」という意味を表します。
 つまり、「着く」「止まる」に向かって進んでいる状況である、という「推移」(次の状況への移り変わり)を含意します。このような動詞は他にもdieがあり、次のように進行形になると、「死にかけている」「死にそうだ」という意味を表します。
  〈例〉They are dying.(Harry PotterのDVDより)
     There are people dying. (“We Are the World”の歌詞の一節)
 これらの文は「彼らは死んでいる。」や「死人がいる。」という意味ではないので、指導の際にも注意が必要です。

A 英語の「現在進行形」に親しむ実例として、次の歌が適しています。

“Santa Clause Is Coming to Town”  

 You better watch out
 You better not cry
 You better not pout
 I'm telling you why                          なぜか教えてあげよう(意志)
 Santa Claus is coming to town         サンタクロースが街にやってくるんだ(予定)
 He's making a list                           リストを作っている(過程)
 And checking it twice                     そして2回チェックしている(過程)
 Gonna find out who’s naughty and nice
 Santa Claus is coming to town         サンタクロースが街にやってくるんだ(予定)
 He sees you when you’re sleeping    君が眠っている時に(続行)
 He knows when you’re awake
 He knows if you’ve been bad or good
 So be good for goodness sake!
                   (次号に続く)

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