カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年9月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 子どもから学ぶこと
(3) ちょっと振り返り

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◇ 所長だより ◇

学校研究(その5)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

広島県世羅町立世羅西中学校は、パナソニック教育財団の平成25年〜26年度の「特別研究指定校」となって、「ICTを活用した効果的な通常学級における特別支援教育の開発―優位感覚タイプの分析に基づいたICTの効果的な活用―」を研究テーマに実践研究を続けています。そして、その研究成果は今年の10月9日(木)に行われる公開研究発表会で教育関係者に公開されます。

世羅西中学校は、生徒数63名、教職員数14名という小規模校です。町内には、高校駅伝の強豪校である世羅高校があることで知られています。学校は、静かな田園地帯に囲まれています。そして、生徒は礼儀正しく、大きな声で挨拶ができます。

では、なぜこのような小規模校が約7倍という厳しい採択率のなかで選ばれたのでしょうか。やはり、研究テーマのユニークさにあると思います。「通常学級における特別支援教育」「ICT活用」「優位感覚タイプ」の三つのキーワードが見事につながった研究テーマとなっています。

同校がこのテーマで申請した主な理由(課題)は、次のとおりです。
@ 生徒はそれぞれに個性があり、一律的な対応では期待した効果が表れなかった。
A 原因は、個々の生徒の優位感覚タイプ違いが影響しているのではないかと考えられるが、その優位感覚の研修と分析が不十分である。
B 優位感覚を意識し、その違いに応じたICT活用法を開発することが課題である。
C 特別支援教育の充実を図りたい。

なお、ここでいう優位感覚タイプとは、学習や課題をするときに、文字や映像といった視覚情報で提示されることを好む「視覚優位タイプ」、コトバや音といった聴覚情報で提示されることを好む「聴覚優位タイプ」、動作や活動のように手足を動かすことを好む「体感覚優位タイプ」という3つのタイプのことです。そして、同校では、独自に開発した「優位感覚チェックシート」によって特徴ある生徒を同定しています。例えば、「あなたは書写(毛筆)で初めての字を書くとき、どうですか?」という質問項目に対して、生徒は次の3つの選択肢(@見本を示してもらうと、ある程度書くことができる、Aポイントを聞くだけでも、ある程度書くことができる、B何度か練習しなければ、ある程度書けるようにはならない)から、最も自分にあっているものを選びます。このような各教科の学習の様子を示す8項目が生徒に提示されます。

そして、生徒の優位感覚タイプに応じて、ICTを活用した支援の工夫ができるのかどうかを様々な授業で検討しています。例えば、国語の詩の授業において、「話し合った内容を電子黒板で提示し、他者の思考を視覚的に理解させる」手だては、視覚優位の生徒への支援を意識しています。また、英語の動詞の活用の授業において、「タブレットで文字を見て、ネイティブの発音を聞きながら発声することで理解を支援する」手だては、主に聴覚優位の生徒への支援を考えています。

このような授業実践を積み重ねながら、研究テーマに迫ろうとしています。そして、授業研究が学校研究の形成的評価の役割を果たしています。

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◇ 子どもから学ぶこと ◇

マットの基本は(丸)か(棒)
教職教育開発センター客員研究員 木村俊彦

「マット運動は(勢い)が一番大切」と考えていた時代がありました。しかし、実際には「勢いをつけて回ってごらん」と言えば言うほど上半身にだけ(勢い)が伝わり、下半身はそのまま取り残されてしまっている子どもの姿がありました。回転の理想型であるボール(丸)に近づけるために頭を入れて体を丸めた姿(上半身と下半身を離さない)ではなく、開いてしまう姿(上半身と下半身が一直線)になってしまうのです。マットの下に踏み切り板を入れて坂道を作れば、(勢い)が増して更に悪い方向に進んでしまいました。できずに悩んでいる子ども達の姿は、私に「回転技の基本は(勢い)ではなく、(上半身と下半身を離さない)こと」を教えてくれました。それ以後、例えば「後転」を扱う際は「仰向けの姿勢から下半身を上半身の上に乗せた状態を作り、両腕で体を持ち上げることができる両腕の位置を見つけさせる学習展開」に変更をしていったのです。つま先が頭近くのマットに付く程度の柔軟性があれば、簡単に「後転」ができると思います。更に、起き上がれるためには尻を上げた前傾のスタートの姿勢をとることと、尻をマットと並行状態に保ちながらなるべく遠くへ投げ出すことが必要であることを伝えるようにしました。

以上のことから、マット運動ではボールの形を崩していくほど難しい技であると言えそうです。その代表が「伸膝前転」であり、丸にならない分(勢い)が必要になるのです。また、鉄棒の「逆上がり」を取り上げる際に(勢い)をつけさせると、「後転」と同じく体が開いてしまう結果になることを付け加えておきます。

次に、回転技ではない「倒立」について触れてみたいと思います。練習に(壁倒立)を取り入れることが多いと思いますが、大半の子ども達にとっては効果が望めないと思います。なぜなら、子どもにとっては「倒立ができるようになりたい」という気持ちが優先するあまり意識がつま先にいってしまい、腰が安定しないくの字の状態のままで足を伸ばすために前方に倒れてしまい、背中をマットに打つことになるのです。是非、3点倒立をお薦めします。足を下げたまま腰が止まる状態を見つけることさえできれば、そこから足を伸ばすことは容易にできるのです。腰の位置を体で覚えること(棒になる)ができてはじめて、(壁倒立)の存在もあると思っています。

(勢い)や(坂道)・(壁倒立)等、活用方法を間違えるとよりできない方向に向かわせることになり、子どもの達成感を奪ってしまう結果になることを教員は意識しておくことが必要です。

マット運動における(勢い)の影響について再考してほしいと思っています。それは、(勢い)をつけず音を立てないことで手や足・姿勢に意識が集中できるとともに、理由も分からず(勢い)だけで回れてしまい満足してしまう状態も避けられるからなのです。

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◇ ちょっと振り返り ◇

「魚座の4人」
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

校長室でH教諭と打ち合わせをしていた時のことです。H教諭が突然「校長先生、見てください。」と笑い出したのでした。私は何事かと思い、テーブルに広げていた書類から顔を上げると、H教諭は、上の方を指差しながら「天井から紙が。」と言いました。「ん?」と言って見上げると、なるほど、白い紙が天井と壁のすき間から垂れ下がっていました。それも2枚。珍しいことがあるな、と思いましたが、当時、学校は改築中で、校長室もプレハブでしたので、けっこうすき間があったのです。「この上は、ちょうど私のクラスです。引っ張ってみます。」とH教諭は脚立を持って来て、その紙を引き抜きました。「あ、これ、生徒のプロフィールです。生徒が自分で書いた自己紹介です。」H教諭は2枚の画用紙を私に手渡しました。私は、「へえ。」と言いながら眺めていると面白いことに気付きました。「H先生、2人とも魚座ですよ。不思議なこともあるものですね。実は、私も魚座なんです。」すると、H教諭が言いました。「え? 校長先生、私も魚座です!」

こんなこともあるのだな、と思いました。単なる偶然ではあるのでしょうが、ここまでくると、不気味な感じすらしました。私とH教諭は、しばらく考え込んでしまいました。何かの前触れか。それとも何かが魚座の4人を引き寄せたのか。もし、そうだとしたら、何のために。

「シンクロニシティ」(共時性)という言葉をその時に思い起こしました。H教諭は、「それとはちょっと違う気もしますが、でも、この偶然の一致には何らかの意味があると考えることはできるかもしれません。」と言いました。ユングの言葉を待たずとも、森羅万象全てのことはどこかで繋がっていると私たちが実感することは日常的によくあります。そんな時、私たちは、現在の自分を振り返り、何か抜け落ちていることはないだろうか、などと神妙になったりします。H教諭は「この子達は、何か訴えているのでしょうか。」と画用紙を覗き込みながらつぶやきました。「うーん。」と私は言いました。

たまたま校長と担任教諭が打ち合わせをしていたところに、たまたまその教諭のクラスの2人の生徒のプロフィールが天井から垂れ下がって来て、その4人はたまたま魚座であったという、ある初冬の肌寒い日の出来事でした。

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