カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年8月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもから学ぶこと
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

学校研究(その4)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、第3のタイプの学校研究として、学校が民間の教育財団などの指定を受けて、特定のテーマでカリキュラム開発や授業実践を行う場合です。

 広島県世羅町立世羅西中学校では、パナソニック教育財団の「特別研究指定校」となって、「ICTを活用した効果的な通常学級における特別支援教育の開発―優位感覚タイプの分析に基づいたICTの効果的な活用―」を研究テーマにして平成25年から2年間にわたる実践研究を続けています。そして、その研究成果は今年の10月9日(木)に行われる公開研究発表会や財団のホームページなどを通じて全国の教育関係者に公開される予定です。

 ところで、パナソニック教育財団の「実践研究助成」は、「知識基盤社会を生き抜く子どもたちの育成を願い、教育課題の改善にICTを効果的に活用しながら、取り組む実践的研究を応援するために行う助成制度」です。そして、1年間の研究に対して50万円の助成をする「一般」と、2年間で150万円を助成する「特別研究指定校」の2種類があります。なお、本年度の「第40回 実践研究助成」に453件の応募があり、厳正なる審査の結果、83件が助成されました。内訳は、一般(応募425件、助成79件)、 特別研究指定校(応募28件、助成4件) でした。助成金はICT機器の購入から、旅費、謝金など多方面に使えることから応募件数が年々増加しています。

 さらに、世羅西中学校などの「特別研究指定校」には、実践研究をアドバイスする研究者が1名ついています。世羅西中学校には、私(吉崎)がアドバイザーとなっています。

 そして、学校を年3回訪れて、教育実践(ICTを活用した授業)を見学し、授業検討会でアドバイスをします。また、定期的に財団に報告される研究成果と課題について、次のようなコメントをします。

 ●評価できる点
1. 2月の訪問指導の際に私が指摘した「ICT活用の3段階」の意味を十分に理解して実践研究している姿がみられた。ちなみに、3段階とは「とにかくICTを使っていく段階(第1段階)」「どういう授業場面で、どのようにICTを効果的に使うかを考える段階(第2段階)」「どういう子どもにどのようにICTを使うかを考える段階(第3段階)」のようなICT活用を意味する。本校の研究は、第3段階までを実践研究の視野に入れていることに大きな意義がある。
2. 指導案に工夫がみられる。つまり、どのような授業場面で、どの生徒(優位感覚タイプにもとづいたターゲット生徒)を意識して、どのようにICTを活用するのかが明瞭に示された指導案となっている。この指導案は、他校の先生方にとっても大いに参考になる。
3. 本校が独自に作成した「優位感覚タイプを同定するための学習スタイルチェックシート」の項目を教職員全員で何度も検討しながら、改良している。固定したものと考えずに、改良を続けることが大切である。

 ●今後の課題
1. できるだけ早く、再生刺激法を適用して、ICTを活用した授業場面での生徒(特に、ターゲット生徒)の内面過程(認知・ 情意過程)を把握する必要がある。
2. 「生徒の特性に応じたICT活用」の実践事例を積み重ねて、他校の先生方にその成果を発信するとともに、評価を受ける必要がある。

 このような専門家の視点からアドバイスをもらえることが、「特別研究指定校」の実践研究を実り豊かなものにさせているのです。

 世羅西中学校の実践研究の内容については、9月号で詳しく紹介いたします。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

理科実験と学校事故の危険性
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 子どもの理科離れが指摘されだしてから既に久しい。国際教育到達度評価学会の調査によれば,理科を好きと答えた子どもの割合は国際平均よりも24ポイントも低く,国際的に見て最低水準であるという。「もの作り」は日本の経済にとって不可欠の要素であり,その基盤を崩す理科離れは,極めて深刻な問題と言える。事態を憂慮した文部科学省は,理科の観察・実験を支援する補助員(観察実験アシスタント)を小中学校に配置する等,理科実験準備等支援事業に力を入れている。

 しかし,ことはそう簡単ではない。理科の実験には,常に事故の危険がつきまとうからである。 ガラス器具による事故,アルコールランプやガスバーナー等による事故等,数え上げればそれこそきりがない。例えば,今年の6月には,岐阜県下の公立中学校では,実験中にペットボトルが爆発し,生徒が怪我をするという事故が起きている。男性教員がペットボトルを利用して水素を発生させていた途中の事故である。市教育委員会は,男性教員を文書訓告,監督者である校長を厳重注意処分にしたという。

 では,実験を進めるに当たって何が求められるのであろうか。岡山県教育センター「観察,実験における安全の手引」によれば,以下の5点が重要であるとされている。
1.安全に配慮し,生徒の実態に応じた指導計画の作成
2.安全に配慮した事前準備
3.安全に対する約束と事前指導
4.授業中の生徒の状況把握
5.後片付けと点検

 中でも特に重要と考えられるのは,「安全に対する約束と事前指導」である。
・ 先生の注意事項をよく聞く。
・ 手順を考えた器具などの配列をする。
・ 机の上の整理・整とんをする。
・ 適切な服装と姿勢で実験に臨むようにする。
・ 原則として,いすを中に入れ,立って実験を行う。
・ 使用後のマッチは燃えかす入れに入れる。
・ 実験後の片付けは責任を持って行う。
・ 実験後の廃液の処理は先生の指示に従う。

 岡山県教育センターが例示する“約束”は,一見する限り,どれも当たり前のことである。だが,これら約束を確実に実行することは難しい。一瞬の気の緩みが子どもの安全に直結することを忘れてはならない。

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◇ 子どもから学ぶこと ◇

水泳学習の具体的な指導例
教職教育開発センター客員研究員 木村俊彦

7月号とセットでお読みください。

[1] 水泳における学習のねらいと場作り(A・B共に場の選択は児童が決定し、時間内の場の移動も可能とする)



用意する用具
1.浮きを助ける用具類・・・ビート板、1・2号ボール、ヘルパー、ペットボトル 等
2.潜りを助ける用具類・・・おもり付きくぐり用輪、石拾い用ゴムボール 等
3.フロアー(プールフロアー)・・・以下の3つの役目を果たす(用具を使っての場・用具を使わない場の両方に共通)
〇泳ぐ距離の目安(用具を使わない場にある中央のフロアーは、周りのフロアーから3〜5m程度の距離に設置) 
〇浮島的な休息場所(健康面を配慮した定期的な休息時間を自然にとることが可能) 
〇けのびの練習(プールフロアーと水中間の移動が自然にけのび体勢をとる)

[2] ねらいの達成に向けた教師の指導ポイント
A:泳ぎの形ではなく、多様な運動経験(水に慣れる・浮く・潜る・泳ぐ)を意識する。
そのため、子ども自身により多くの動きを創造させながら、できる動きを増やす。
新しい動きに名前をつけたりプールサイドに掲示したりすることが効果的である。
B:学習のねらいを理解させるために、以下の2点の内容が納得できる具体的な動きを提示する必要がある。
1.進む力は、クロールでは手のかきと足のキックの両方・平泳ぎでは足のキックのみで行っている。平泳ぎの手のかきは息つぎをするための役目。
また、キック力は   平泳ぎ > クロール
2.平泳ぎでは手と足を動かす時に進む動きが止まり、けのび状態で前進する。そのことから、かき数を減らすことが楽に・長く泳ぐという目標に結びつく。
よって、ゆっくり泳ぐことに挑戦する場の設定が必要(4年生でも25mを10かき以下で泳ぐことが可能)になる。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
〜 話術は「習って慣れる」 〜
「ツカむ!話術」
パトリック・ハーラン著  定価800円(税別) 角川書店

ハーバード大卒、芸人・コメンテーターとして活躍する「パックン」が「ハーバード仕込み」のコミュニケーション技法をわかりやすくレクチャーするのが本書です。話すことに苦手意識が強い日本人は、誰とでもオープンに話せるアメリカ人をうらやましいと思うかもしれません。しかし、生れついた性格ではなくアメリカ教育の基本にはコミュニケーション能力の育成がしっかり位置づけられています。幼稚園の頃から“show and tell”(見せて話す)という活動で、プレゼンの練習を開始、同時に対話のマナーやエチケットも学びます。ですから、話術は「習って慣れろ!」が鉄則なのです。
話術の基本中の基本は、「エトス」(人格的なものに働きかける説得要素。信用する気にさせる表現)、「パトス」(感情に働きかける説得要素。怒りや喜び、愛国心など、特定の感情を抱かせる表現)、「ロゴス」(頭脳に働きかける説得要素。いうことを頭で考えて理解し、納得させる)の3大要素。誰もが知っている政治家や芸能人のスピーチ、お笑いも例に挙げながら、具体的なテクニックを解説してくれます。「なるほどね」と感心する一方で、話術の「深さ」や「怖さ」にも驚かされます。
ところで、コミュニケーションスタイルには文化的背景があるそうです。単一に近い民族で社会常識を共有している「ハイコンテクスト文化」の国と社会常識や民族がバラバラな「ローコンテクスト文化」の国に分かれ、日本は「言わなくてもわかる」という典型的なハイコンテクスト文化の国。今後、グローバル化が進めば進むほど、「ハイ/ローコンテクストを柔軟に対応できる人がとても貴重」と著者はいいます。日本人の「空気を読む」力を否定的に捉える向きもありますが、「ハイコンテクスト文化」の国では怖いものなし!もっと自信をもってよいのではないでしょうか。
(関)

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