カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年7月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 子どもから学ぶこと
(3) ちょっと振り返り

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◇ 所長だより ◇

学校研究(その3)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、埼玉県杉戸町立杉戸中学校が2002年から本格的実施された「総合的な学習の時間(総合的な学習とも略称)」をその数年前からカリキュラム開発した事例を紹介します。

 杉戸中学校は、文部科学省の研究開発学校に指定されて、東日本の中学校で初めて「総合的な学習」のカリキュラム開発と授業づくりを1998年4月から本格的に行った学校です。筆者は、先月号で紹介した越ケ谷小学校と同様に、開発の当初から指導・助言者として参加しました。なお、1998年当時、この学校には841名の生徒と51名の教職員がいました。

 この学校の研究成果は、吉崎静夫(監修)・杉戸中学校(編)『中学校における総合的な学習の時間の実践』(ゆまに書房)と、2本のビデオにまとめられました。

 同校の総合的な学習では、共通テーマが設定されておらず、初めから個々の生徒が自らの興味・関心にもとづいて自由に個別テーマを決める方法をとっています。ただし、この方法をとる場合でも同校では、総合的な学習を「ふるさと(郷土)」から出発する学習であると位置づけて、「ふるさと」をさまざまな視点(歴史、産業、環境、国際、福祉、情報など)からとらえて、生徒が自由にテーマを設定するようにオリエンテーションで説明しています。もちろん、生徒の興味・関心を最大限に尊重して、場合によっては「ふるさと(杉戸町)」から離れたテーマを設定してもよいとしています。

 では、なぜ同校では学年ごとの共通テーマを設定しなかったのでしょうか。その最大の理由は、各学年とも7〜8学級を擁する大規模校であるということです。つまり、学年全員の生徒が集合する場所の確保、施設・設備(特に、コンピュータ室、図書室)の活用、教員定数の関係から、学年単位での活動は不可能なのです。

 そこで、同校では、1つの学習集団を、1年生から3年生までの異学年の合同クラス(例えば、1年1組、2年1組、3年1組の3学級合同)で編成しています。さらに、各グループは、1年から3名、2年から3名、3年から3名の異学年9名で構成されています。したがって、1年生に対するオリエンテーションでは、2年生や3年生が前年度の学習経験をふまえて、「気をつけること」や「大切なこと」をわかりやすく説明しています。これは、異学年で学習集団を編成していることのメリットです。中間発表会や本発表会もまずこの異学年の学習集団の中で行われます。下級生は上級生から学ぶことができると同時に、上級生のリーダーシップを高めることになります。まさに、学校全体で相互学習が展開されているのです。

 このような学校の事情を考慮しながらカリキュラム開発や授業づくりを行うのが、まさに学校研究なのです。

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◇ 子どもから学ぶこと ◇

図工でも体育でも
教職教育開発センター客員研究員 木村俊彦

小学校の教員は、通常(専科担当などの立場を除く)学級担任として生活・学習の両面を指導しながら学級経営を進めていくことを専門とする職業であると言えます。ですから、4月より3ヶ月間書かせていただいた図工の授業風景はほとんどの方が頭に浮かべることができる光景であると考え、題材にしました。しかし、一人の教員が文系・理系・芸能系(音楽・図工・体育)全てに関わらなければならない現実を考えると、いささか気の遠くなる・胃の痛くなる話でもあります。そろそろこのあたりで、真剣に中学校以降で実施している教科担任制という専門的な教科指導の観点からではなく全ての教科・領域に携わることができる小学校教員としての基本的な学習指導の在り方について、原点に立ち戻って見つめ直す時期にきているのではないかと思います。

さて、今月より図工から体育に話を移してみます。最初に取り上げるのは、この季節に一番マッチしている水泳学習の授業形態についてです。学年一斉で3つ(@25mが泳げる Aプールの幅が泳げる B泳げない)のグループに分ける方法を多く見かけます。しかし、小学校においては一般的に「できないグループ」と呼ばれる集団を設定することに相当の抵抗感があると思うのですが、体育とりわけ水泳に関してはなぜか違和感を持たずに実施していることに不思議さを感じます。加えて、この「できないグループ」を設定し指導した結果、泳げるようになったという話をあまり聞きません。なぜでしょうか・・・・・

実は、このグループに属する多くの子どもたちは水泳に対して3つ(@息ができない A目が開けられない B水が冷たい)のマイナス意識を持っています。この意識克服のため、夢中になって水中でのじゃんけんや石拾い・輪くぐりなどの遊びを体験させることで自然に目が開けられるようになると泳げる教員集団は考えました。さらに、壁に捕まっての面かぶりバタ足につなげようとしました。しかし、このグループの子どもたちが感じているマイナス意識は遊びの楽しさより何倍も強く、実際には目をつぶって遊びを行っているために効果は上がらないのです。この子どもたちの抱える辛さは、苦手意識を持っている教員の方には充分理解していただけるだろうと思います。

加えて、水泳学習では、「できるグループ」の子どもたちがストップウォッチを渡されて「速く泳ぐ」ことを求められている現実もあります。ところが、指導要領には「できるだけ長く(25m〜50m)泳ぐ」と明示され、速くという言葉はどこにも見つかりません。これらの課題をどう考えたら良いのでしょうか・・・・・

具体的な指導については、8月号で書いてみたいと思っています。

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◇ ちょっと振り返り ◇

電車の中で振り返り
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

 私は、毎日、電車で通勤しています。急行や準急を使わずに、あえて各駅停車の電車に乗ります。乗っている時間が長くなるので、その分、早く家を出なければなりませんが、比較的空いているので、すし詰めのストレスがなく、快適です。座席に座れるほど空いてはいませんが、自分のお気に入りの場所に立つことができます。外の景色を眺めながら、その日一日のスケジュールを確認したり、人前で話をする予定があるときは、目を閉じて、話をしている自分の姿をイメージしながらシミュレーションしたりします。今では、それが日課になっており、私にとっては貴重な時間です。

 ある日のことです。途中に「富士見台」という駅があるのですが、「ああ、富士見台という名前がついているのだから、昔は、ここからも富士山が見えたんだろうな。」と思い、ふと、後ろをふり返ってみました。すると、ドアのガラス越しに、本当に富士山が見えたのです。小さな姿でしたが、朝日に照らされて、白く輝いている富士山がはっきりと見えました。「あれ、私は、何年この電車に乗っているのだろう。なぜ、今まで気づかなかったのだろう。」

 意識して決めていたわけではないのですが、電車に乗ると、進行方向に向かって左側のつり革につかまるのがいつの間にか習慣化していたようです。ですから、今までそちら側の住宅街やビル街の風景しか見ていなかったのです。自分の後ろには、それとは全く別の世界が広がっていたことなど全く気づかないでいたのです。鉄道が複々線化の工事で高架になったために、富士山が見えるようになっていたのでした。

 私は、これと似た話を、10年以上も前に、ある講座で講師の先生から聞いたことを思い出しました。「発想の転換」というテーマでした。「人は、物事を同じ方向からばかり見がちです。ちょっと発想を転換して、見る角度を変えてみましょう。今までとは全く違った世界が見えてきます。」というお話をされたのでした。

 どうでしょう。みなさんも、電車の中で、くるり、と振り返ってみては。

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