カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年5月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもから学ぶこと
(4) ちょっと振り返り(新連載・隔月)

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◇ 所長だより ◇

学校研究(その1)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月号から何回かにわたって、各学校が研究テーマをもって実践研究を行う学校研究を取り上げます。

 学校研究は、学校にとってはもちろんのことですが、教師個人にとっても大切なことです。なぜならば、学校研究のために教職員が一丸となって協働研究することがそれぞれの教師の職能発達につながるからです。ただし、学校研究にはいくつかのタイプがあります。

 第1のタイプは、学校が文部科学省指定の「研究開発学校」となってカリキュラム開発と授業実践に取り組む場合です。この場合には、現行の学習指導要領の制約を受けずに、学校が独自にカリキュラム開発することが特例で認められています。そして、授業実践は、開発されているカリキュラムの形成的評価の意味をもっています。例えば、6月号で紹介する埼玉県越谷市立越ケ谷小学校や7月号で紹介する埼玉県杉戸町立杉戸中学校が2002年から本格的実施された「総合的な学習」をその数年前からカリキュラム開発した事例は、このタイプの学校研究です。

 第2のタイプは、学校が文部科学省、県や市町村の教育委員会などからの指定を受けて、特定の教科や道徳、特活などのカリキュラム開発や授業研究を行う場合です。ただし、この場合には、現行の学習指導要領の制約を外れてカリキュラム開発を行うことは認められていません。あくまでも学習指導要領の枠内でカリキュラム開発を行うことになります。例えば、神奈川県相模原市立相原小学校では、文部科学省より「国語力向上モデル事業協力校」の指定を受けて、国語力向上のためのカリキュラム開発を行いました。そして、授業実践は、開発しているカリキュラムの具体化と検討の意味をもっています。

 第3のタイプは、学校が民間の教育財団などの指定を受けて、特定のテーマでカリキュラム開発や授業実践を行う場合です。例えば、8月号で紹介する広島県世羅町立世羅西中学校では、パナソニック教育財団の特別研究指定校となって、「ICTを活用した効果的な通常学級における特別支援教育の開発―優位感覚タイプの分析に基づいたICTの効果的な活用―」を研究テーマにして平成25年から2年間にわたる実践研究を続けています。そして、その研究成果は公開研究会や財団のホームページなどを通じて全国の教育関係者に公開される予定です。

 第4のタイプは、学校が外部からの指定を受けずに、子どもの実態や地域の特性を考慮して、自主的にカリキュラム開発や授業研究を行う場合です。この場合は、まさに「普段着の学校研究」となります。したがって、授業実践は、学外の教育関係者に向かって公開されることよりも、学内の教師が互いに学び合うためのものとなります。ところで、世界の教育関係者が注目している日本の授業研究は、レッスン・スタディと呼ばれています。それは、まさにこのタイプの学校研究のことです。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

通学路の安全確保
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 新学年が始まり一ヶ月あまりが経過した。新しいクラスにも馴染み,子どもたちも落ち着きを見せ始める頃であろう。だがその一方で,悲しいニュースが相次いでいる。通学途上の事故に関する悲報である。人為的な事故か自然災害かを問わず,通学路には大小様々な危険が潜んでいる。各地で安全対策の強化が模索されているものの,なかなか決定打が見つからないのが現状である。

 通学路の安全確保は,第一義的には道路等を管理する地方公共団体等の責任である。また,保護者の責任も大きいことは疑いない。しかし,学校保健安全法が,学校安全に関する設置者の責務として,危険等発生時において適切に対処することができるよう,「学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずる」ことを求めていることを見落としてはならない(26条)。通学路における安全指導は,この学校設置者の責務に含まれると考えられている(「学校保健法等の一部を改正する法律の公布について(通知)」平成20年7月9日付20文科ス第522号)。この点は,学校安全計画に「児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導」が含まれていることからも明らかであろう(27条)。

 では,学校に求められる対応はどのようなものであろうか。この点については,京都府亀岡市の通学路暴走事故を受けて,文部科学省,国土交通省,警察庁の3省庁が連携して実施した「通学路における緊急合同点検」が参考になる。この点検は,「学校による危険箇所の抽出」,「合同点検の実施及び対策必要箇所の抽出」,「対策メニュー案の検討」,「対策案の作成」,「対策の実施」,「実施状況の報告」という五つのプロセスで構成されている(通学路における緊急合同点検等実施要領)。

 当然のことながら,最も重要となるのは,何をおいてもまず危険箇所を抽出することである。この観点からは,道路が狭い,見通しが悪い,人通りが少ない,やぶや路地,倉庫,空地など人が身を隠しやすい場所が近い,大型車が頻繁に通る等が問題となろう。一般的な指導に終始するのではなく,教員が実際に子どもと歩き,現地の状況を自分の目で確認することが重要である。

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◇ 子どもから学ぶこと ◇

魚から人へ
教職教育開発センター客員研究員 木村俊彦

4月号の「魚の話」で、どの学年でも図工の1時間目に必ず行うと書きました。その理由は、以降の図工の作品作りに加えて他の学習にも多大な影響を与えると思っているからなのです。

想像力が豊かであるはずの小学生の思考は、実は概ね誰もが落ち着く非常に常識的(4月号の「魚の話」の左向きの姿)なのです。しかし、その常識的な考えは普段あまり見かけない内容とも言えます。たとえば、紙版画や粘土で人間を作る学習を行うと上・下学年を問わず起立に近い姿勢(左向きの魚であり、式典など号令の下でする希な姿勢)になり、動きのないつまらない作品が出来上ります。子どもの能力の低さではなく、実は困っているのです。起立以外の姿にすることが怖いのです。そのため、無意識のうちに無難なものを選択してしまうのです。ですから、そこに指導を加えない限り豊かな発想の作品にはならないと思っています。指導者が「自由に、自分の思ったように作品を作ってみよう」と何百回伝えても学習者は自由に作る方法が分からないため、子どもの困り感に寄り添った指導にはなりません。しかし、その困り感は子どもだけでなく、実は教師も指導方法が分からず困っている実態があります。その助け舟にはなりませんが、「魚の話」方式の広げ方を使ってみると結構良い結果が得られると思うのですが・・・・・

○ 紙版画での人間作りバージョン  10のパーツ{頭1、体1,手足8(両手足に肘と膝の上下)}を糊で留めずに動かし遊びをしても、ほとんどが起立の人間になってしまいます。そこで、ここから揺さぶりをかけることにより頭を曲げたり胴体に重ねたり手足を交差したりしながら、その後、手や尻が床に着き始め、最後は倒立まで生まれることになっていくのです。 

○ 芯棒入り粘土での人間作りバージョン  高学年で扱う人間作りでは、最初から「台座に3点で触れる人間を作ろう」と困らせてみてもおもしろいと思います。足・足・○と考えていた多くの子どもたちは悩み始めますが、様々な意見を聞きながら発想が広がり、最終的には必ず肩・肘・尻などといった台座に足が加わらない芸術性の高い人間が生まれてくると思います。

魚で行った斜めまで考えさせてあげる話し合いを加えるだけで、実際の作業をする時は無難な形ではない奇抜な姿へ子どもの思考は切り替わっていくのです。とは言っても、実は正面からの魚や奇抜な人間は本来普通に見かける姿であり、動きのあるすばらしい作品になるだろうと思います。

そんな話し合いの時間の設定を作品作りの前に導入してみませんか。きっと、ワクワクしている子どもと教員の姿に出会うと思いますよ・・・・・

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◇ ちょっと振り返り ◇

漆黒のシルバー
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

だいぶ日差しがきつくなってきたある日のことです。マンションのエレベーターに乗ろうとしたところ、かごを抱えた若い男の人が一緒にエレベーターに入ってきました。かごの中には、小さな真っ黒な犬がいました。少し縮れ毛のかわいい子犬で、瞳も黒く、きらきらと輝いていました。手入れが行き届いており、大切に育てられているのがよく分かりました。

私は、ちょっと嬉しくなって、「真っ黒なかわいいワンちゃんですね。」と男の人に話しかけました。すると、その人は、「ありがとうございます。」とにっこりとほほえんでこう言いました。「本当は、シルバーなんです。」私は、一瞬、何のことか分からず、「はあ。」と言うと、その人は、こう続けました。「小さいときは、黒ですが、大きくなると、シルバーになるんです。まだ、黒いままですが。」私は、驚いて、「はあ。そうなんですか。シルバーになるんですか。」と言って、その真っ黒な犬を見つめました。子犬は、飼い主と私の会話などはお構いなしという素振りで、エレベーターの中の様子をうかがっていました。

私はふと、15年ほど前に飼っていたオカメインコのピースケを思い出しました。灰色の羽根の小さな雛でしたが、大人になると真っ白になる、と言われてペットショップで買いました。しかし、ピースケの羽根は、何年経っても灰色のままでした。飼い主の期待などよそに、ピースケは  天真爛漫に生活していました。そして、灰色の羽根のまま、その一生を終えました。

そんなことを思い出しているうちに、「失礼します。」と言って、その子犬と飼い主は途中の階で降りていきました。「失礼します。」と私もあいさつをしました。去っていく子犬の姿には、凛々しささえ感じられ、私は、ますます嬉しい気持ちになりました。

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