カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年3月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師が教育実践記録を書くことの意味(その一)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月号と来月号において、「教師が教育実践記録を書くことの意味」について考えてみます。

 教師は、自らの教育実践を積み重ねていけば成長できるのでしょうか。もしそうであるならば、ベテラン教師は誰でも優れた教育実践ができることになります。しかし、優れた教育実践をするベテラン教師もいれば、そうでないベテラン教師もいる。それが現実ではないでしょうか。では、両者の違いはどこにあるのでしょうか。

 両者を分けるポイントの一つは、「自らの教育実践を日頃からどのように振り返り、そこから何を学んでいるのか」ということだ、と私は考えています。まさに、中教審が提言している「学び続ける教師」ということです。その意味において、「教師が教育実践記録を書くこと」は、自らの実践を振り返り、そこから実践知(実践を支える知識や知恵)を獲得する優れた営みであるといえます。

 千葉県柏市(人口40万人の中核都市)の教育委員会では、毎年、市内の小・中学校の教師を対象に、「教職員実践記録論文(A4用紙に8ページの分量)」を募集しています。平成25年度は、実に第47回目になります。そして、年を追うごとに応募数が増えています。さらに、嬉しいことには、年々力作が増えているのです。私は、7年前から審査委員長をしています。

 第一段階審査は、一つの論文を3名の指導主事がていねいに審査します。そして、第一段階審査で選ばれた論文(およそ15編)が私のところに送られてきます。それらの論文の中から、私が数点の「特選論文の候補」と「優秀論文の候補」を選びます。今年は特に力作が多く、選ぶのに苦労しました。

 ここで、今年の特選論文の一つを紹介します。

 この論文は、この3月末に退職される校長先生が書かれた「校長による子どもの言語感覚を磨き、鍛え、豊かな言葉の遣い手を育てる指導法の研究―音読、素読、朗読、群読、暗唱の言語活動をとおして表現力を育むー」です。長年にわたって、小学校の国語教育をリードしてきた教師であることを後から知りました。審査の段階では、個人情報は付いていませんので。

 この実践論文は、校長のリーダーシップのもとで、全校の児童が音読や暗唱といった言語活動に取り組み、輝かしい実践成果をあげたことが資料にもとづいて説明されていました。暗唱課題として選ばれている題材は、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」、金子みすゞの「わたしと小鳥とすずと」、古典「竹取物語」「枕草子」「徒然草」、孔子の「論語」など、実に多種多様なものです。これらの題材選択には、この校長先生の国語教育(あるいは言語教育)に対する明確な考え方があらわれているのです。そして、この実践研究は、言語活動の研究にとどまらず、学校経営の研究としても秀逸なものだといえます。

 この論文から、私たちは、「教師はどのようなベテランになっても自らの教育実践を記録(論文)としてまとめて、実践を振り返ることがいかに大切なことか」を学ぶことができます。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

新任教員の岐路・・・正式採用の判定時期
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 3月,新任教員は最初の岐路を迎える。心を弾ませながら教壇に立って一年,毎年,何百人もの新任教員がここで学校を後にする。

 周知のように,公立学校教員を含む地方公務員は,臨時的任用,非常勤職員の場合を除き,採用にあたってはすべて条件附とされ,原則として6ヶ月,職務を良好な成績で遂行したときにはじめて正式採用となる(地方公務員法22条1項)。いわゆる「条件附採用制度」である。競争試験又は選考のみでは職務遂行能力の完全な実証が困難なため,実際に職務に就かせながら能力の実証を行うために設けられた制度であると言われている。公立学校教員の場合,教育公務員特例法によって,条件附採用の期間が一年に延長されていて,ほとんどの場合,3月に判定の時期を迎えることになる。

 文部科学省の調査によれば,2012(平成24)年4月1日〜6月1日の間に条件附採用となった新任教員のうち,正式採用とならなかった者が355名も存在している(平成24年度公立学校教職員の人事行政状況調査について)。その理由は様々であるが,病気を理由とする自主退職者が122名,そのうち106名が精神疾患を理由としている。新任教員の心のケアが重要な課題となっていることが分かる。

 また,任命権者の側から採用「不可」の判定を受けた者が21名にものぼっている(不可判定後,自主退職した者を含む)。判定にあたっての考慮要素として,教科指導に関する能力がまず挙げられる。ただ,教材研究が不十分であるとか,指導方法が不適切であるといった点は,指導・助言を受けて成長することが期待される領域である。したがって,程度の差こそあれ,それだけでは初任者の免職事由にはなり難いとする考え方も存在している点に留意する必要があろう(東京地方裁判所判決平成19年5月25日等)。

 より重要と考えられるのは,人間関係の構築や指導を素直に受け容れる態度,教職に対する使命感,高い規範意識といった部分である。学校が一つの組織である以上,教員相互が緊密に連携し,一貫性のある指導が必要となることは言うまでもない。管理職や同僚教員とトラブルを頻繁に起こす,何度注意されても自らの行動を顧みず反省の態度を示さない,といった場合には,不採用とすることが許されると考えられている(東京地方裁判所判決平成23年 2月16日等)。

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◇ 学校の風景 ◇

食文化
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

「和食」が、昨年2013年にユネスコ無形文化遺産になった。登録翌日、12月5日に農林水産大臣は、「登録決定がゴールではなく、日本食文化への関心が継続的なものとなり、次世代に向けた保護・伝承へと繁がるよう、努めてまいります。」と語っており、関係者の喜びと決意の程がうかがえる。

登録申請の際に提出された「和食:自然を尊重する心に基づいた食習慣」の中で、@多様で多彩な食材とその持ち味の尊重A栄養バランスに優れた健康的な食生活B自然の美しさや季節の移ろいの表現C年中行事との密接な関わり、の以上4点が特徴的なこととして挙げられている。実は、この心意気は、学校給食にも生かされているのである。

学校給食イコール日本食ではないが、学校給食の目標の一つに、我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること(学校給食法 第二条六)がある。春の訪れが近い3月の初めのひな祭りの日には、給食のデザートに桜餅がついた学校が多い。また、卒業式や入学式のシーズンには、赤飯を目にすることもある。その他、季節や行事を意識した特別メニューはこの法律を具現化したものであり、児童・生徒の間ではなかなかの人気である。献立をたてる栄養士や調理にあたる人々のより一層の努力により、今後、さらに給食の献立に「和」の魅力をちりばめてほしいと願うものである。

一方で、給食の食材は地産地消が基本であり、毎日の「メニュー紹介」や「給食便り」でも、地場産業の紹介や郷土料理を用いたレシピ等が紹介されている。これが毎年、1月24日から30日に大々的に集約される。この1週間は、文部科学省が設定している学校給食週間であり、各教育委員会の取り組みや学校の取り組みの紹介等を通じ学校給食の教育効果の促進が図られる。児童・生徒による標語の作成を行う学校もある。さらに、PTA主催の家庭教育学級が開かれている学校では、その講座の一つで地域の伝統食を継承しようという動きもある。地域の年配者を講師に、給食の伝統食レシピを再現し、若いお母さん方に伝えようという試みである。核家族が多い地域ならではの取り組みであろうが、家庭での話題作りにも貢献しているようだ。

このような取り組みを通して、食材の物流や調理に関する仕事に興味を持つ児童・生徒もいる。これは、一つのキャリア教育ともいえよう。食を巡って、学ぶことは多い。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
〜 本質を見抜くセンスを磨け〜
「統計の9割はウソ―世界にはびこる『数学トリック』を見破る技術」
 竹内 薫著 徳間書店 定価1,200円(税別)

「96.5%がヤセた超人気『○○ダイエット』」「10年連続で売り上げ全国トップ!」などなど、私たちの身の回りには数字を織り込んだキャッチコピーがあふれています。さすがに誇大広告には警戒しますが、新聞の世論調査や官公庁発表の統計数字であれば、物事の判断基準にすることもよくあります。ところが、もし、間違った読み方をしているとしたら・・・・。そんな統計のウソに騙されないセンスを磨いてくれるのが本書です。

「作図」、「誤差」、「比較」、「平均」、「質問」、「サンプル」、「抽出」の7つのトリックを示しながら、陥りやすい間違った読み方や統計的目線で正しい読み方をわかりやすく解説します。例えば、最近、大ヒットしたドラマ「半沢直樹」が視聴率40%を超えたことを取り上げて「本当に日本人の4割以上が見たのか?」と視聴率に潜む「誤差」のトリックを説明してくれます。視聴率調査は標本(モニター)を調査対象とする「標本調査」ですので母集団すべてを調査対象とする「全数調査」と違い、実は「標本誤差」が生じます。ビデオリサーチ社はちゃんと誤差を計算していて自社サイトに4%と公表していたそうです。ですから、実際の視聴率はプラスマイナス4%、つまり「『半沢直樹』を見たのは見本人の36%だったかもしれない」が著者の結論。1%で一喜一憂するのは意味がないということですね。

また、説得力を増すためのツールとして多用されるグラフも「作り手の意図が潜んでいることが多い」といいます。目盛のとり方やデータの並べ方、グラフの見た目など、簡単なトリックですが、実例をみると見事に騙されます。「ビッグデータの時代」といわれる現在、集まったデータを分析し、使いこなし、物事を判断する力が重要になっています。しかし、データの分析方法を学ぶことは意外に少ないかもしれません。本書で、ご自分の統計センスを試してはいかがでしょうか。 (関)

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