カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年2月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

これからの教員に求められる資質能力(その二)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月も先月に続いて、「これからの教員に求められる資質能力」について考えてみます。

 教員も一般の社会人と同じように、キャリア・ステージにもとづいて求められる資質能力に変化が生じてきます。しかし同時に、どのキャリア・ステージでも同じように求められる資質能力があります。このように、キャリア・ステージに「普遍の資質能力」と、キャリア・ステージによって「変動する(重みづけが変化する)資質能力」があります。

 このことを整理したのが表1です。


 ところで、横浜市教育委員会では、人材育成のために「教職員のキャリア・ステージ」を次の5段階に区分しています。第1段階は「基礎能力開発期(採用後3年間)」、第2段階は「基礎能力活用期(5年次研修、10年次研修)」、第3段階は「教職経験力活用期(10年次研修以降の主任レベル)」、第4段階は「学校運営力開発・活用期(主幹教諭レベル)」、第5段階は「組織・経営マネジメント開発・活用期(副校長、校長レベル)」です。そして、第1・2・3段階では「授業力」、第4・5段階では「カリキュラム・ マネジメント」を中心に位置づけています。

 また、秋田県教育委員会では、「前期」「中期」「後期」の3段階に教職期を区分しています。「前期」は、各学校等における教職員としての基礎的資質の向上および専門性の確立を教職課題としています。そして、「中期」は、各学校等における中堅教職員としての資質の充実および専門性の拡充を課題としています。さらに、「後期」は、各学校等の指導者、経営者としての資質の充実および専門性の深化を課題としています。

 そして、秋田県の教育委員会では、「前期」の典型である初任研と「中期」の典型である10年研の到達目標を明確に設定しています。そこでは、「教科等指導」「学級経営等」「生徒指導」「ふるさと教育・キャリア教育・情報教育」「学校経営」といった観点にもとづいて到達目標が設けられています。これらは、表1の「キャリア・ ステージに応じて重みづけが変化するもの」に該当します。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

学校敷地内の全面禁煙化
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めることを目的とする,健康増進法が制定されたのは,2002(平成14)年8月のことであった(平成14年法律第103号)。法律の制定から10数年が経過したことになる。この間,病院,劇場,観覧場,集会場,展示場,百貨店,事務所,官公庁施設,飲食店等,多くの施設で,いわゆる受動喫煙を防止するため,分煙ないしは完全禁煙化が推進されてきた。

学校もまた例外ではない。だが,文部科学省の調査によれば,2012(平成24)年4月1日現在,「学校敷地内の全面禁煙措置を求めている」市町村教育委員会は,全体の67.1%に止まっているという(学校における受動喫煙防止対策実施状況調査について)。喫煙が肺がん等の多様な疾病と関係が深いことは,疫学的に証明されている。にもかかわらず,未成年者の喫煙防止教育,薬物乱用防止教育を担っている学校のこの状況を,教育関係者はどう受け止めるべきであろうか。

学校敷地内の全面禁煙措置を巡っては,2003(平成15)年,全面禁煙を実施しないという不作為により,効果的な喫煙防止教育が妨げられ,精神的苦痛を被った等として,同校に勤務する教員が原告となり,学校設置者を相手として慰謝料を求める訴訟を提起している(名古屋地方裁判所平成16年2月26日判決)。

 原告は,校長をはじめ敷地内で喫煙をする教職員が存在し,その人格を傷つけることになるため敷地内全面禁煙を要求していることを生徒に語れず,結果として自らの喫煙防止教育が妨害されている等と主張した。しかし,判決は,現行の教育関係法規が,学校敷地内の全面禁煙措置を課しているとまでは認めることはできない等として,教員の訴えを退けている。

 なお,2009(平成21)年,神奈川県は,過料の罰則付きで神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例を制定した(平成21年条例第27号)。同条例が,官公庁や病院等と並び,学校を原則禁煙とする第1種施設に指定している点を見落としてはならないであろう。

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◇ 学校の風景 ◇

言葉の力‐オノマトペ
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 日本のアニメには、世界中にファンがいる。漫画も大人気である。大人にも子どもにも愛されているドラえもんなどのキャラクターが、世界中の言葉で描かれていると思うと、わくわくしてくる。しかし、海外で翻訳され自国版の漫画となるときには思いがけない苦労があるそうだ。それは、日本独特のオノマトペという擬音の表現がアニメの中にあるからだという。

 オノマトペにより、簡潔に状況や情景を表すことができる。ワクワクもそうだが、スベスベ、ドンドンなどである。雨を例にあげると、よくわかる。シトシト、ザーザー、ポツポツ。これだけで、雨の質や強さが手に取るようにわかる。雨音のリズムまで感じ取れそうだ。諸外国では、このオノマトペが日本ほど多くないそうだ。そのため、日本の漫画に文字でオノマトペが書かれているとき、それをどう表現するのかが難しく、現場を悩ませるらしい。

 もともと、オノマトペは幼児に語る言葉の中に多くあった。ワンワンは犬を表し、ブ−ブーは車である。しかし、今、学校では、このオノマトペがあふれている。教員は「児童生徒をよく観察せよ」と言われるが、昼休みなどに教室でじっと耳を傾けていると、面白いようにこのオノマトペが飛び込んでくる。今日は気分がすぐれないというときには、「ドヨーン」であるし、恋心を抱いたときは「胸キュン」である。楽しくてたまらないときは「ルンルン」。若者はオノマトペを使って、心の状態をポロリと見せ、時にはSOSも発する。

 学校の教育相談室には、「ふわふわ言葉をつかいましょう、ちくちく言葉はやめましょう」と掲示されていることがある。ふわふわ言葉というのは、それを使うことで言っている人も聞いている人も、温かさ、やさしさを感じるような言葉とでも言い表せられるのだろう。ちくちく言葉はその逆であるが、実にうまく分かりやすく表現されている。文章であらわすにはむずかしい、微妙なニュアンスがスムーズに伝わってくる。

 オノマトペの躍動感のある表現が、力を湧き上がらせることもある。それを意図して、教員でもある若い脚本家、秋山耕太郎氏は「ドッキンコパンパン」というオノマトペを高校生に贈った。劇の終盤で、数十人の高校生が「ドッキンコパンパン」と声を合わせて言い、歌うシーンは圧巻で、観客はだれもが自分の中にこのような自分の応援歌を持つとどんなにはげまされるかと思うに違いない。

 そう考えると、教室の自分の席で「オー」とか、「ギャー」とか「ヨッシャ―」などと言っている生徒の声は、実は頑張る力を振り絞っているのかもしれないと思え、愛おしくなるのである。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
〜教科化を道徳教育再生の起点に〜
「道徳教育の取扱説明書−教科化の必要性を考える」
 貝塚茂樹著 定価 1,800円(税別)

今、道徳教育の行方が気になります。教育再生実行会議がいじめ対策として提言した道徳の「教科化」ですが、中央教育審議会はこのほど、審議を開始しました。現行「道徳の時間」から教育課程上いわば格上げされる「教科化」は、初めて俎上に乗せられるわけではありませんが、賛否は分かれます。しかも、その議論も教育論というより政治的なイデオローギ対立の様相を呈してきたことも否定できません。
その一方で、学校における道徳教育の「形骸化」は長年の課題となってきました。著者は「教科化」賛成派です。しかし、「道徳の『教科化』を起点として、道徳教育の本質的なあり方を考える論議を構築していくことが切実な課題」と教科化と通して道徳教育の再生を主張するのが著者の立場です。また、教科でないことが「道徳教育の理論研究の『貧困』を生んだ」とも指摘します。教育課程に「教科」として位置付けられることで目的、内容、評価、指導方法等の研究が進み、大学での教員養成にも反映される側面もあるからです。
本書は、このような立場から「『修身科=悪玉論』だけでは何も解決しない」、「急がれる『教育勅語後遺症』の克服」、「『愛国心』を論じない道徳教育はありえない」、「錯綜する『宗教的情操』と『生命に対する畏敬』の関係」−などを論じます。筆者も最初は抵抗があったものの、改めて道徳教育を考え直す必要性を強く感じました。もう一冊、哲学の諸手法から道徳教育を問い直す「『道徳』を疑え!−自分の頭で考えるための哲学講義」(小川仁志著、NHK出版新書)など、異なる立場の著書を併せて読むのも視点がよりクリアになると思います。 (関)

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