カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年1月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

これからの教員に求められる資質能力(その一)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 明けましておめでとうございます。日頃から、このメールマガジンを愛読していただきまして、誠にありがとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。  今月と来月は、「これからの教員に求められる資質能力」について考えてみます。

 中央教育審議会は、平成24年8月28日に、「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方針について」という答申を発表しました。そこでは、「これからの教員に求められる資質能力」の根幹に「学び続ける教員像」の確立をあげています。そして、そのことをふまえて、表1のような「3つの側面からなる資質能力」を示しています。



 また、東京都教育委員会は、「教員に求められる基本的な4つの力」として、(1)学習指導力、(2)生活指導力・進路指導力、(3)外部との連携・折衝力、(4)学校運営力・組織貢献力をあげています。そして、(1)と(2)は「子どもの変化に対応し、指導方法を工夫・改善、変革していくことが必要な力」とし、(3)と(4)は「社会状況の変化などに対応し、今後特に身に付けることが必要な力」だとしています。

 筆者は、中教審と東京都教育委員会が指摘する資質能力をふまえて、表2のような資質能力を整理するものを考えてみました。



 ここで言いたいことは、第一に、教員に求められる資質能力として、「いつの時代や社会でも求められるもの(不易なもの)」と「時代や社会の変化に対応して求められるもの(流行なもの)」があるということです。第二に、教員に求められる資質能力には、「教員に特有なもの(教職資質)」と「社会人として求められるもの(社会人資質)」があるということです。

 これらの4つのセルの中に、中教審や東京都などの教育委員会があげている「これからの教員に求められる資質能力」を当てはめてみることで、資質能力の特徴がよくわかるのではないでしょうか。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

人事異動について考える
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 春は人事異動の季節である。その発令を前にして,任命権を有する教育委員会では,担当者が調整に追われている。大都市の教育委員会では,徹夜で作業にあたることも珍しくないという。

 他方,教員にとってはどうであろうか。慣れ親しんだ学校,子ども達に別れを告げ,新しい赴任地で新たな関係性の構築に取り組む。「リセット」の機会と言ったところであろうか。

 しかし,誰もが納得する人事異動はあり得ない。喜ぶ教員,悲しむ教員,そして怒りを覚える教員と,悲喜こもごもである。中には人事異動を不服として,訴える教員すら存在している。東京都公立中学校転任処分取消請求訴訟はその一例と言える(東京地方裁判所判決平成22年3月2日)。区外の中学校への転任を命じられた教員が,「意に反する」異動であり,東京都の定める異動実施要綱から外れた恣意的な異動である等として,取消しを求めた事案である。

 判決は,教員の訴えを退け,教育委員会側を支持した。判決によれば,「教員の転任は,昇任又は降任とは異なる任用形式」であり,「それは純粋な意味では職員に不利益を与えることのない,いわゆる「水平異動」で,本来的に,当該職員に不利益を課する処分ではない」とする。そして,人事権の行使は,それを有する任命権者の「合理的な裁量に委ねられている」と解すべきと判示している。そして,任命権者が「個々の事案について諸般の事情を考慮することができる」とした上で,「本人の希望」については,「尊重されるべきであるが,必ず考慮しなければならないものではなく,あくまで考慮事項の一つにすぎない」とし,これを重視しない姿勢を示している。

 では,人事委等に関して,「本人の希望」以外にどのような点が考慮されるべきなのであろうか。先例を総合すると,まず適材適所,言い換えるならば組織全体から見た「異動の必要性」が最大のポイントになる。これに加えて,在職年数や通勤時間等が,一定の範囲で考慮要素になるともの考えられる。したがって,人事異動を発令する側には,その必要性に軸足を置きつつ,通勤時間が極端に長くなる,在職年数が他の異動者と比較して極端に短い等,「恣意的な狙い撃ち」という批判を受けない努力が求められることになろう。

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◇ 学校の風景 ◇

震災の支援
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

2011年3月11日に起こった東日本大地震は大津波を引き起こし、東北地方に甚大な被害をもたらした。いまだなお、その爪痕に苦しむ人々がいる。また、福島第一原子力発電所の事故の影響から、避難を余儀なくされた人々も多い。ニュースを介し、それらの事実を知った者は、何とか手助けをしたいと思ったはずである。実際、多くの自治体、多くのNPO等が援助・支援の輪を広げた。その活動は国内にとどまらず海外に広がったことはご存じのとおりである。また若者たちの支援活動も引き起こし、それは今も続いている。多くの学校が支援の輪を広げたが、私の周囲では、次のようなことがあったので、報告したい。

当時、放射能の影響のため屋外活動ができなかったいわき市の小学校で学級文庫の本が不足していた。そのことを聞いた埼玉県のある公立中学校の図書委員会の生徒は全校生徒に呼びかけ小学生用の本を集めいわき市の小学校に送った。この活動に呼応する形で、近隣の中学校でも同じ取り組みが始まった。また、保護者や地域住民からは、本の収集・運搬の協力の申し出があった。これらの活動を通して、2000冊の本が送られた。しばらくして、いわき市の小学校から「本が、十分満ちた」と連絡があり、この活動は終了した。何か支援をしたいと思っていた中学生たちが、実際に活動することで得たものは大きく、世代を超えたこの取り組みで「絆」を感じたことであろう。

震災から、もうすぐ3年。がれきのほとんどは撤去されたが、まだまだ支援が必要であると地元の人は言っている。だからこそ、支援の方法が問われる時期でもあろう。本の寄贈に関しては、広く学校図書館へ本の寄贈を継続している関西のボランティア団体「あくせす・ぽいんと」がある。この団体は、提供可能な本の一覧表を公表し、先方が希望した本を送るという方法をとっている。相手が、今、本当に欲しいと思っている本を届けるというインターネットの発達があってこそ可能なシステムである。支援活動の選択肢が広がるだけでなく、発想の幅を広げるためにも、中学生・高校生にも知ってもらいたい活動である。

今だからこそ、支援者の心が問われる。生きた支援をリレーする若者の今後の活動に期待し、エールを送るものである。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
〜不思議に隠された「賢さ」とは 〜
「大人が知らない『さとり世代』の消費とホンネ」
牛窪 恵著 PHP研究所 定価1,600円(税別)

「美白男子」「インコ風味のアイス」「ニコファーレ」「キュン死」・・・・。いわゆる「バブル世代」にギリギリ該当する筆者にとっては「なにコレ?」の不思議な「さとり世代」ワールドが広がる一冊。さとり世代とは1987〜96年生まれの現18歳から27歳で、ゆとり教育を受けた若者たちでもあります。
マーケティングライターで、「草食系男子」の名付け親でもある著者がみるさとり世代は、「“守り”を重視し、消費にも仕事にも消極的だった」草食系世代に対し、さらに「賢い」そうです。「能力はあるし、やる気がないわけでもない。賢く、効率主義で、なにより周囲との同調性やバランスを重んじる」、「つねに周りの空気を読んで『このぐらいで』と省エネに留めたり、『コスパ(コストパフォーマンス)』を計算して『いまはやめておこう』と自制したりする」さとり世代。
「ファッション・美容」、「レジャー・旅行」、「通信・ゲーム・アプリ」、「飲食・菓子」、「恋愛・結婚」、「ライフスタイル・仕事」の6つカテゴリー別にヒット商品やキーワードを基に、解き明かされる彼らのホンネと心理には「なるほどね」と思うと同時に、彼らは、私たち大人世代のツケを払わされているのだなあ、と申し訳ない気持ちにもなりました。一見クールな彼らですが、「『最低限、ここまでやれれば(失敗しても)大丈夫』というベースラインを伝える」、あらかじめ段階ごとに数値目標を決め、1つクリアするごとに『プチ達成感』を感じさせる」など、つきあい方のツボを押さえれば、新たな発想力に驚かされることになるかもしれません。 (関)

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