カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年12月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

情報活用能力を育成するためのカリキュラム開発と授業づくり
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 川崎市立平小学校(三上勤校長)は、「川崎市教育委員会 授業力向上支援事業 研究協力校」と「パナソニック教育財団 実践研究助成 特別研究指定校」として、「情報活用能力を育成するためのカリキュラム開発と授業づくり」に取り組んでいる注目校です。そして、平成26年1月24日(金)の午後に、2年間の研究成果を公開する研究発表会が行なわれます。

 同校では、横浜国立大学の野中陽一教授を研究アドバイザーにむかえて、情報化社会の中核テーマである「情報活用能力の育成」のためのカリキュラム開発に取り組んでいます。国語を中心としながら、算数、理科、社会、生活それぞれの教科単元の中から、情報活用の実践力を育成する重点単元を取り出して、「平小スキル」とよばれる「情報活用の実践力」を育成するためのカリキュラムを開発しています。なお、同校が考えている「情報活用の実践力」は、「あつめる(情報の収集、取材、検索)」「なかまわけをする(情報の分類、整理、比較)」「くみたてる(情報の選択、まとめ、関連づけ、構成)」「あらわす(伝え方の工夫、表現方法の選択)」「つたえる(発表、交流)」の5段階で構成されています。平仮名で表現されていて、とてもわかりやすいものとなっています。

 次に、これらのカリキュラムにもとづいて、どのような授業づくりがなされているのかを紹介します。

 筆者は、今年の10月31日(木)に行なわれた第5回校内授業研究会に参加しました。

 6年1組の教室では、国語「この絵、わたしはこう見る」の授業が展開されていました。授業者は、20代後半の石渡菜穂子先生です。本時は、4時間のうちの3時間目で、「絵から感じたことの中から書くことを決め、記述例を参考にして表現の効果や工夫を考えて、文章を書くことができる」ということがねらいです。そして、本時では、「平小スキル」の「あらわす」の育成がめざされています。つまり、「読み手を意識しながら、書くことを整理し、文章にする」ということです。

 前の時間に、グループ(4名の男女)ごとに、教科書に掲載されているピカソの絵(抽象画)からイメージできる言葉をホワイトボードに自由に書いていました。本時では、一人一人の児童が各グループのホワイトボードをコピーした紙を手もとにもっています。次に、その紙に書かれた言葉を、「詳しく書きたいこと(◎)」「簡単でよいこと(○)」「書かないこと(△)」という基準で「なかまわけ」をします。さらに、「どの順番で書く」のかといった「くみたてる」を考えます。それから、ピカソの絵から感じたことをワークシートに書きます。筆者は、このピカソの絵を見たとき、正直いって何を書いたらよいのか、まったく言葉が浮かびませんでした。しかし、児童の表現は実にユニークで、豊かなものでした。

 「ジャカ、ジャーン」さあ、楽しい、楽しい、音楽会の始まりです。フルート担当のゾウさん。ギター担当のキリンさん。ラッパ担当は、かいぶつさん。そして、指揮者は、フクロウさんです。―――――――――――――――――――――――――――――――。

 このような文章が書けるのも、本校が進めている情報教育と授業づくりの成果なのだと感心しました。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

いじめ防止対策推進法の成立C−重大事態への対処
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 滋賀県大津市のいじめ自殺事件を持ち出すまでもなく,いじめは被害を受けた児童・生徒の生命,身体に対して深刻なダメージを与えることが少なくない。この点を考慮し,いじめ防止対策推進法は,いわゆる「重大事態」への対処について,詳細な規定を設けている(第5章 重大事態への対処)。

いじめ防止対策推進法は,「重大事態」を,@いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命,心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき,Aいじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるときと,定義している。ここで注意を要するのは,何れも「疑いがあると認めるとき」という表現が使用されている点である。いじめは,教員の目を盗み,深く,密かに進行する。その性格上,確証を得ることが困難な場合が多く,この点を配慮した規定と考えられる。特に,いじめを受けた児童等やその保護者から申告や相談があったと場合,学校側は,このいじめの性格を考慮し,適切かつ真摯に対応することが必要となる(衆議院文部科学委員会「いじめ防止対策推進法案に対する附帯決議」参照)。

 重大事態が発生した疑いがある場合,まず,学校の設置者,学校は,その事態に対処し,同種の事態の発生の防止に資するため,速やかに,学校の設置者又は学校の下に組織を設け,質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行わなければならない(「徹底調査義務」28条1項)。ここでいう調査組織は,学校が恒常的に置くことになっている「いじめ防止等対策組織」と兼ねることも可能とされている。

 そして,いじめを受けた児童等及びその保護者に対し,調査により明らかとなった事実関係等,必要な情報を適切に提供することが義務づけられている(「情報提供義務」28条2項)。この情報の提供は,「適切」に行うことが重要となる。特に質問票等のデータの提供は誤解を招く可能性もある。児童等の保護者と適切に共有されるよう,必要に応じて専門的な知識及び経験を有する者の意見を踏まえながら対応することが求められることになろう(参議院文教科学委員会「いじめ防止対策推進法案に対する附帯決議」)。

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◇ 学校の風景 ◇

記念樹
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

 15年ほど前に、筆者が赴任した中学校には、2本の寒桜の記念樹があった。筋ジストロフィーを発症した生徒とその家族が、無事に中学生活を過ごすことができた感謝の気持ちを表したものである。この生徒は、この3月に若くして逝ったが、告別式では元同級生および職員が、寒桜の写真を贈ったと聞いている。

 校庭の他の桜より早く咲くこの寒桜の話は語り継がれており、その影響から私の担当学年の生徒たちは、2学年になった頃には、自分たちの卒業に当たって卒業記念の木を植えたいと言いだしていた。少し早いように思えたが、自然発生的に学級委員会でも話題になった。成長を自分たちに重ねて見ることができ、卒業後も成長の様子を目で追っていくことができる木、卒業後中学校を訪れたとき懐かしく思える木。何か、ないだろうか。予算はどうするか。

 「小学校のときには、アサガオやトマト、ジャガイモを育てたよねー。」、「うまくいった。」、「いかなかった。」「おいしかった。」そんな話をしていたとき、誰ともなく「給食で出た果物の種を植えたらどうか」という案が出た。

 おっ、これはいい。何よりも、植木鉢に植えるとクラス全体で観察できる。失敗も成功も、味わえそうである。まず、グレープフルーツに挑戦。芽は出るものの、「直植えにしたときに大丈夫か?」という疑問が出て却下された。次に、びわ。植木鉢に2個ずつ植え、各教室で4鉢ずつ育てた。職員室前でも育てた。なんと発芽率70%。このびわは、多くの生徒の手によって愛情深く育てられ、卒業時には、30センチあまりの高さに成長していた。

 現在、所沢市立小手指中学校の南校舎の前に、成長した2本のびわの大木が残されている。豊作の年には、数百個の実をつける。植樹に際し、「額に汗することの喜びを忘れないでいよう」と結んだ生徒代表の言葉と、紅潮した顔で代わるがわる土を掘った生徒たちの一所懸命な様子が思い出される。

 寒風の中、今年もびわの花が咲いている。夏には、きっと豊かな実を結ぶだろう。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
〜転ばぬ先に転んでみる 〜
「失敗談」
外山 滋比古著 東京書籍 定価1,300円(税別)

今年もあと数日となりました。振り返れば良かったこともありますが、数々の“失敗”も浮かんできます。日々、様々なことがありますが、できることなら「失敗はしたくない、させたくない」ものですよね。本書では、著名な英文学研究者であり、思考論や教育論などでも軽妙なエッセイを執筆する著者が「入学試験不合格」、「運動会のかけっこ」、「苦労という名の失敗」などをテーマに“失敗”について語ります。ただし、2度の入試不合格、大学卒業後勤務した中学校ではミスを連発して1年半で辞職、大学院修了後に務めた雑誌編集長時代は返品が4割を超えて・・・など、自らの失敗も告白されるせいか、リアリティがあり、説教くささは感じられません。

例えば、著者も失敗した入学試験。競争ですから、勝者がいれば敗者が出るのは当たり前。さらに、競争率が上がり、不合格者が多ければ多いほど「難関」として評価を得ますから、「不合格者によって学校は権威を高めることになる。客観的にみれば、不合格者は、競争の条件であり、そこにレーゾンデートルがある」というわけです。もちろん、不合格では落ち込みますが、「失敗をおそれてはいけない。むしろいっそう闘志をかき立てる刺激として受けとめるのが、競争社会を生きていく人間としての正道である」と励まします。

一方、赤ちゃんが転びながら歩くようになることから、「人間、転ばぬようにするのは難しいが、怪我の予防には転び方を身につけるのがもっとも有効な対策である。・・・転ばぬ先の杖などあるわけがない。転ばぬ先に転んでみなくてはいけないのである」とも。子どもたちは、学校や家庭では教師や親に守られていますが、いずれは彼らも失敗に遭遇します。「人生は失敗の連続である。しかし、マイナスをプラスにするのが智恵というもの」。子どもたちに“転び方”を伝授するのが大人の役目だとすれば、今年の“失敗”をプラスに転換することが次の課題といえそうです。 (関)

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