カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年5月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校の風景
(4) 今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

ときどき一工夫
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 4月のメールマガジンでも述べたように、これからの授業では、知識・技能の「習得」と「活用」との関係を明確にして、これらを相乗的に育成する必要があります。つまり、国語や算数・数学などの教科学習で習得した知識・技能を「実生活場面に関連する課題」に活用させたり、他教科や総合的な学習で活用させることによって、活用型学力(思考力、判断力、表現力等)を育成する必要があります。そして、そのための授業デザインがいま教師に求められています。

 しかし、新学習指導要領では各教科の学習内容がかなり増加したこともあって、普段の授業では教科書の内容を扱うことで精一杯だと思います。つまり、各教科の基礎的・基本的な知識・技能を習得させるために、普段は教科書を使って授業を展開させることになります。

 私がここでお願いしたいことは、「ときどき一工夫していただけませんか」ということです。半月に1回あるいは、月に1回でも教科書を離れて、実生活につなげたり、他教科などで活用する授業を一工夫していただきたいのです。例えば、たし算や引き算の計算力を活用して「買い物ゲーム」を行い、どのような支払い方法をすればサイフの中の硬貨(コイン)の数を少なくすることができるのかを考えさせてみるわけです。700円の買い物をする場合に、千円札と100円硬貨を2枚だすことによって、500円硬貨1枚をおつりにもらうことを考えさせるのです。

 また、家からスーパーなどの広告チラシをもってこさせて、集客のためにどのような見出しなどを工夫しているのか、どのような商品を割引きしているのかを調べさせるわけです。そうすることによって、国語や算数で習得した知識・技能を日常生活に活用させる学習活動を構想することができます。

 山形県村山市立楯岡中学校の芳賀司先生(当時、教職2年目)は、数学に苦手意識をもつ生徒を導入実験で魅了する授業を実践しました。この授業は、習熟度別学習の基礎コースを選んだ生徒に「2乗に比例する関数」を教えるものでした。芳賀先生は、実際に具体物で導入実験をして、「2乗に比例する関数」の実例を具体的な現象として生徒に見せたいという「思い」をもっていました。そこで、他社の教科書をいくつも調べたり、先輩教師からのアドバイスを得て、「坂道を先行するおもちゃの自動車をボールが追いつき、追い越す現象」を見事に創りあげたのです。生徒の驚きは大変なものでした。

 この事例のように、教師が自らの「発想力」を豊かにするためには、他社の教科書や過去の実践を調べたり、学校内外の教師に相談したり、自分の趣味や興味・関心を広げることが大切になります。また、自分が旅先で見つけた題材(資料)を授業に活かすこともおもしろいと思います。そうすれば、子どもばかりでなく、教師自身もワクワクするような授業をデザインできると思います。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

学校給食衛生管理基準と食中毒
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 もうすぐ梅雨入り,食中毒の発生しやすい季節が到来する。学校関係者,特に学校給食の担当者にとって,緊張を強いられる時期である。大阪府堺市の学校給食において,O-157大腸菌を原因とする食中毒が発生し,死者が出たのは平成8年のことであった。O-157が話題に上る度に,この事件を思い出す学校関係者は今も少なくない。

 現在,小学校,中学校の区別を問わず,学校給食を実施する義務教育諸学校の設置者は,文部科学省が提示する学校給食衛生管理基準(平成21年文部科学省告示第64号)に照らし,適切な衛生管理に努める義務を負っている(学校給食法9条2項)。「調理室には,調理作業に不必要な物品等を置かない」といった一般的なことから,「給水栓は,直接手指を触れないよう,肘等で操作できるレバー式,足踏み式又は自動式等対応した方式であること」,あるいはO-157事件の際,問題となった下処理用のシンクは,加熱調理用食品,非加熱調理用食品及び器具の洗浄に用いるシンクを別々に設置し三槽式構造とすること,また,「調理室」においては,食品及び器具等の洗浄用シンクを設置し,共用しないといった点まで,その内容は多岐に及んでいる。

 いささか細かすぎるという批判も存在するが,そもそも学校給食は,アレルギーを有している児童・生徒を除き,在学する全員が給食を食べることを前提としている。児童・生徒は,昼食として学校給食を喫食する以外に選択の余地は事実上存在せず,その安全性の確保は学校側に依存するほか方法がない。しかも,直接体内に摂取するものであり,何らかの問題があれば,児童・生徒の生命・身体へ多大な影響を与える可能性がある。これら特徴を考えるとき,学校給食には,極めて高度な安全性が求められており,基準が詳細になるのも当然という見方も可能である。

 児童・生徒の大半が,抵抗力の弱い若年者であることを考えると,学校給食について,児童・生徒が何らかの危険の発生を甘受すべきとする余地は存在しない。そのため,万一,食中毒を始めとする事故が起きれば,結果的に,給食提供者(=学校側)の過失が強く推定されると裁判所は判断するであろう(例えば,大阪地方裁判所判決平成11年9月10日など)。だとするならば,学校給食衛生管理基準が極めて厳しい「規制の網」を被せようとするのは,ある意味では止むを得ないことと言えるであろう。

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◇ 学校の風景 ◇

モスキート音
教職教育開発センター客員研究員 金本 佐紀子

「先生、私、今日はお弁当なの」という声の主は、アレルゲンが給食の食材に入っている日に弁当を持参する生徒である。食物アレルギーのために、毎日弁当持参の生徒もいる。年度当初にはアレルギー調査があり、希望により食材が詳しく記載されている献立表を受けとることができる。そばや甲殻類等がひきおこす重篤な食物アレルギー事故が報告されるたびに、「気をつけねば」と教員は誰もが襟を正す。特に宿泊を伴う校外学習では複数の業者が食品に関わっている場合が多く、教員はいつも以上に目を光らせることが求められる。

一方で、思いがけない健康被害に遭遇することもあり得るということを、教員は知らなくてはならない。例えば私の身近では次のようなことがあった。ある年、転入生が学校内での体調不調を訴え始めた。しばらく様子を見ていると、特別教室を利用するある教科に限って不調を訴えていることがわかった。担任や養護教諭は、メンタル面の心配をして個人面接をしようとしていた。その矢先、「モスキート音」について、一般ニュースが流れた。大人には聞こえない高周波のこの音は、子どもには不快音として聞こえるという。イギリスでこの音を利用し、商店にたむろする若者を追い出す試みがなされているというニュースだった。そんな音があるのかと驚いたが、「特別室でTVの視聴を始めると、彼女が保健室に行きたがる」と教科担任が報告していることを思い出した。特別教室のTVは、旧式の大型だった。よもやと思いテレビを交換しプロジェクターを利用したところ、彼女の不調は解消された。まさかと思ったが、モスキート音が原因だったのだ。

ほっとした反面、これまでの生徒たちは大丈夫だったのかという心配がわきあがった。我慢していた生徒がいたかもしれない。広く知識を得ることの大切さと、教員に遠慮なく話せる状況や人間関係ができていることが、日々の健康教育の基本であると改めて感じさせられた事例であった。

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜見えない「 バリア」を突き崩す想像力をもつ〜
「教師と子どもの『困った』を『笑顔』に変える本
            ―発達障害のある子と上手につき合う」
樋口一宗著 東洋館出版社  定価1,980円(税別)

文科省の調査によると全国の公立小中学校において発達障害をもつ児童生徒数はこの5年間で2・8倍に増えたそうです。「じっとしていられない」、「読むのが苦手」、「忘れ物がなくならない」など、「特別な支援」が必要な子どもたちはクラスに1人や2人は在籍していることになります。発達障害をもつ子どもへの対応は、今や教師にとって共通課題となりました。本書は、現在文科省特別支援教育調査官(発達障害教育担当)である著者が学校現場での経験を基に発達障害をもつ子どものケースと対応策をまとめたものです。

教師が「困った子」だと思っている時は、実はその子も困っている。それを受け入れた上で子どもに働きかけて「いったいどうすればいいだろう」と一緒に悩む。「2人の『困った』が共に『笑顔』になれるような指導・支援ができる教師を目指して試行錯誤してきたような気がする」そうです。そして、「障害のある子(障害があると思われる子)と私たちの間には目に見えない『バリア』がある」と指摘します。バリアの向こう側で「こうしたい」と思うのに「どうしてもこうなってしまう」やりきれない思いを抱える子どもたちにメッセージを送るためには「集中するのは苦手なのか、書き言葉が苦手なのか」、バリアの性質を突き止め、それに応じた伝え方の工夫が必要です。「この子は何に苦しんでいるのか」を想像し、「障害のある子どもとの間に横たわるバリアを突き崩す」、教師にはこのような「想像力を駆使したかかわり方が求められる」といいます。

もちろん、教育的ニーズは一人ひとり異なりますから、本書の対応策がそのままベストアンサーになることはないでしょう。しかし、アンサーに辿りつく基本的プロセスがよくわかる一冊です。

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