カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2013年3月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 学校経営の視点から
(4) 今月のおすすめ書籍

▼-------------------------------------------------------------------------------

◇ 所長だより ◇

ICTを有効に活用した授業(その2)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 先月号に続いて、「金沢市立小坂小学校」でのICTを有効に活用した授業実践をもう一つ取り上げてみます。

 今回の事例は、5年1組で実践された国語科「筆者の工夫を探れ!−図、表、写真、グラフの効果とは―」という説明文の読解の授業です。授業者は、小林裕紀先生というICT教育で実績をあげている方です。なお、本時のねらいは、(1)筆者が統計資料を用いた意図や、その効果について考えることができる、(2)友だちと意見を交流したり、説明したりすることで自分の考えを深めたり、確かにする、ということでした。そして、この授業は、「表やグラフを使った説得力のある意見文を書いて、クラスの友だちに発表しよう」という学習につながっていました。まさに、いま話題になっている「図、表、グラフ、写真などを含む非連続型テキスト」の読解とその表現といったPISA型学力の育成を意図した授業なのです。ご存知のように、わが国の生徒にはこのようなタイプの学力に問題があるのです。

 本時は、教科書教材(天気を予想する)の中で使われている表、写真、図、グラフが説明文を理解するのにいかに効果的であるのか、また筆者は説明のしかたを工夫するために表などをいかに効果的に使っているのかを、児童が友だちと考えを交流させながら探っていく展開になっていました。その際、それぞれの児童は1台ずつのタブレット型PC(デジタル教科書がインストールされているもの)をもって、他の友だちと活発に意見交換をしていました。

 まず、各班の4名のメンバーは、「表がある良さを考える人」「写真がある良さを考える人」「図がある良さを考える人」「グラフの良さを考える人」の内のどの課題を調べるのかを決め、同じ課題を追及する人同士のグループに分かれました。そして、それぞれの課題グループでは、司会者、記録係(ホワイトボートに意見を書き込む係)を決めて、積極的に話し合いを行っていました。その際、児童は自分のPCにインストールされた教材の中から写真やグラフなどを取り出し、それらを拡大提示しながら他の友だちに自分の考えを表現していました。それぞれの児童の手もとに同じ資料があり、拡大して見ることができるだけに、グループでの話し合いは実にスムーズなものとなっていました。

 次に、児童は、各自の班に戻って、グループ(表、写真、図、グラフのグループ)での話し合いの様子を他のメンバーに説明していました。その時にもPCにインストールされた教材を有効に活用していました。

 このように、タブレット型PCは、子どもたちの協同学習をサポートする有力なツールとなっていたのです。まさに、「子ども1台ずつのPC」時代が現実味を帯びてきたことを実感させる授業実践であったといえます。

▼-------------------------------------------------------------------------------

◇ 教育時事アラカルト ◇

埼玉「モンスターペアレント」訴訟判決と「連絡帳」の機能
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 2013(平成25)年2月28日,さいたま地方裁判所熊谷支部において,学校現場に衝撃をもたらした訴訟に判決が下された。担任教諭が,保護者の言動で精神的なダメージを受けたとして,損害賠償を求めて提訴した裁判である。訴訟の提起が明らかになった当時,「前代未聞の裁判」としてマスメディア等で盛んに取り上げられた。また,裁判の過程で,同僚教員等が,「モンスターペアレントに負けないよう,代表として戦ってくれている」旨の文書を教育委員会に提出する等,学校側と保護者が全面対決する事態となった。

 衝突の舞台は,埼玉県下の市立小学校である。小学三年生の女児に対する指導の在り方を巡って,保護者が連絡帳を通じて苦情を申し入れた。担任教諭の対応に納得のいかない保護者は,次第に苦情をエスカレートさせていく。連絡帳で40回以上,そして,市教育委員会窓口への直接的な苦情の申立て,更に,別件で警察署に児童が暴行を受けたと相談するまで関係が悪化することになる。

 訴訟では,連絡帳への記載や市教委への苦情申立てが名誉毀損の要件を満たし,不法行為を構成するか否か,また,警察への相談が不法行為に該当するか否かといった点が,主たる争点となった。その中で,学校現場,保護者に特に衝撃を走らせたのは,「連絡帳」への記載が名誉毀損を構成するという担任教諭側の主張である。およそ全ての苦情の申立ては,相手方の行為を非難する内容を含んでいる。この非難が具体的であればあるほど受け取った側はそれを真剣に吟味し,苦情申立ての実効性が高まることになる。まさに学校現場における「連絡帳」は,保護者と学校側の間で,互いの意思を伝達し,問題を解消するためのツールと言ってよい。にもかかわらず,苦情を書くことが名誉毀損として訴訟のリスクに繋がるとするならば,率直な意見交換を行うという連絡帳が有する重要な役割を機能不全に陥らせる可能性が高い。

 この点,判決は,名誉毀損の成立要件の一つである「公然性」等を手がかりに,担任教員の訴えを退けた(さいたま地方裁判所熊谷支部判決平成25年2月28日)。連絡帳の「受け手」である教職員は,地方公務員法等によって「守秘義務」を負っている。この義務は,連絡帳の記載内容にも当然及び,必要に応じて組織内で情報が共有されることがあるとしても,それが組織を越えて対外的に公表される可能性は低い。判決は,この点を根拠に「公然性」を否定したのである。率直な意見を引き出し,より健全な学校運営,教育実践を実現するという連絡帳の目的に照らすと,守秘義務等を根拠に担任教諭の訴えを退けた判決は,一定の評価に値するものと言えよう。

▼-------------------------------------------------------------------------------

◇ 学校経営の視点から ◇

通知表作成への指導
教職教育開発センター客員研究員 田部井洋文

 各学校では、平成24年度末を迎え、子どもたちと共に学級・学年目標に対する振り返りを行ったり、通知表の作成に取り組んだり、卒業式や入学式の準備を進めたり、学校評価(内部評価・外部評価)の結果を踏まえての来年度の教育課程の編成をしたりと忙しく過ごされていることと思います。校長からは、教職員がこれらに取り組む前に中期の学校目標・ビジョン(子ども像・教師像・学校像)を睨んでの25年度学校経営方針が具体的に示されたことと思います。そこには、今年度の目標に対する実現状況と残された課題、来年度は何についてどのように進めていくのか、それは中期の目標にどこまで近づくのか等が明確に示されているものと思います。

ところで、既に各担任は3学期(後期)の通知表の作成を終えられていることと思いますが、作成にあたり校長として事前にどのような指導をされましたでしょうか。通知表は学籍簿・指導要録とは異なり、法定表簿外の家庭通信の一種として、学校慣習上の存在ではありますが、保護者にとっては言うまでもなく関心の高いものとなっています。そこで、校長は通知表の役割を繰り返し教職員に徹底する必要があると思います。

まずは、学習面についてですが、多くの学校では、各教科の観点別学習状況の評価の「観点」を取り入れているので、通知表からは具体的な学習内容については読み取れません。そこで例えば、「知識・理解」に関しては、どのような知識の理解・習得を求めたものであるのかについて整理しておくことと、到達度評価(目標準拠評価)であることから、その知識の理解・習得の程度=評価基準を学年・学校として明確にしておくこと、また、何を基に、或いはどんなテスト結果等から判断したのかを整理しておくこと等が必要になりますが、その指導を校長としてされましたでしょうか。これらを整理することは、個々の子どもの学習内容の理解状況について、本人及び保護者との個別の相談にも応じられることになり、また、教師としての自らの指導上の課題を明らかにし、授業改善にもつなげることができます。

生活面の記述については、普段から子どもたちと深く関わることで、生き生きとした子どもの姿を本人と保護者に伝えられることになるので、個々の生活記録を集積していくことが必要となります。この欄への教師の言葉により、子どもに自信を抱かせたり、新たな課題に挑戦する意欲を高めたりすることができます。校長としては、他教師からの見方も取り入れ、一人の子どもを多面的に見て、自己肯定感を高められる記述になるよう指導することが望まれます。

三つ目は、通知表の作成は、教師の学力観・学力像・子ども像等について自らを問い直す絶好の機会となります。又、教育評価とは何かについても考える機会となります。このようなことについて協議会を持ち、全教師で意見を交換し合うことが個々の教師の教育観を整理し高めることになります。保護者から信頼される学校づくりにもつながることですので、このような機会を校長は設定し、協議をリードしていく必要があります。

最後ですが、通知表を作成し、子ども・保護者に示すことは、子どもたちの学力・発達を学校と家庭が連携して保障していく上で重要な役割を担うことになります。学級通信や保護者面談などと有機的に関連させ、教師と保護者が協力して子どもの成長・発達を叶えていく重要な制度の一つとなることから、通知表の中に、子どもの自己評価欄や家庭からの声欄などを設けることが求められます。共に子どもを育てていく関係であることを保護者が実感できるように、通知表の内容・形式を検討する必要があります。記入欄がない場合にも何らかの方法で子どもの自己評価文を貼りつけて家庭に渡すようにしたり、保護者の声が寄せられるようにしたりすることを教師に指示していくことが必要です。

通知表の取り扱いは、校長の描く学校ビジョンに直結していくものとの認識が大切です。十分な検討を期待するところです。

▼-------------------------------------------------------------------------------

◇ 今月のおすすめ書籍 ◇

〜 今どきの若者の気持ちがチョットわかる 〜
「若者のホンネ―平成生まれは何を考えているのか―」
香山リカ著 朝日新書  定価760円(税別)

「まったく、今時の若い者ときたら・・・」。若い頃は年長者からこう言われると、筆者も「頭が古いんだよね」などと反発したものですが、いつの間にか現代の若者の気持ちを理解するのに説明が欲しい年代になってしまいました。いつの時代も世代間ギャップはつきものです。とはいえ平成生まれの若い教師が大量に採用される今後、日常的にストレスフルな学校という職場で先輩教師は今まで以上に若い教師に心砕くことが求められるかもしれません。本書は、精神科医であり大学でも教鞭をとる著者が40のキーワードを基に中高年と若者の心理の違いを綴った若者論です。「内面的なプライド」、「コンプレックス」、「SNS疲れ」、「ヘルシー志向」、「貯金好き」、「孤独への共感」など、大学や診察室で出会ったリアルな若者たちが登場します。素直で従順、かつての若者が持っていた生意気さも薄れてはいますが、モノや肩書などに縛られることなく、一生懸命、現代社会の中で「自分には何かできるか」を考えている若者像が浮かんできます。したり顔で若者を「上から目線」で論評したり、ステレオタイプの見方を提示する内容ではないので、読み進むうちに自分の若い頃の未熟さも思い出しつつこれからの日本社会で人間はどう成長していくことになるのか、様々なことを考えさせられます。中高年者も平成生まれの若者も互いを決めつけず、本書をネタに語り合うのもよいかもしれません。

<<< 2013年2月号 >>> 2013年4月号