カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2020年11月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育徒然草

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◇ 所長だより ◇

高校教育改革と地理総合C 国際理解・国際協力
           教職教育開発センター所長  田部 俊充

 2020年11月14日・15日に、日本地理学会ポスターセッション発表として、「現地調査GIS(地理情報システム)アプリを用いた課題解決型地域調査の事例」を共同発表しました。日本女子大学人間社会学部教育学科に学部1年生から入学し、田部研究室で博士(教育学)を取得した郭明氏とともにです。

 9月号のカモミールnetマガジンでご紹介した地理情報システム(GIS)を発展させて、2022年から新必履修科目となる高校地理総合の2番目の柱の「国際理解と国際協力」につなげることを目的としています。
 
 外国人居住者や観光客の多い東京都豊島区の池袋駅北口及び西口周辺(池袋2丁目、西池袋1丁目)において、米国ESRI社のGISソフトのSurvey123 for ArcGIS(現在はArcGIS Survey123)アプリを用いて学生と調査を行いました。

 学生の多くが持っているスマートフォンを使い、調査項目として、多言語表記を示す位置、サインの種類、言語の表記、言語(日本語、英語、中国語、韓国語、その他の言語)、理由について質問を行いました。調査には多言語表記を示す写真(GPS情報付き)を添付させました。

 調査の入力を終えたら、データを送信すると、収集されたデータは、ArcGIS Onlineに保存され、集計結果や地点情報、多言語表記を示す写真はSurvey123 for ArcGIS のサイトで確認することができます。
 学生は地図化を通して、「普段気づかないような点にも気づけて勉強になった。また、この調査がきっかけで他の場所へ行っても多言語表記を気にするようになった」といったように多言語表記の現状や課題に気づくことができました。

 これからのGISは、このような地域の現状把握や課題解決のための必須なツールとなり、地域調査において集めたデータを地図で可視化し、理解をうながすようになると考えています。

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◇ 教育徒然草 ◇

No.6 説得力のある発言ができるために必要な条件
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

 昨年の初夏のことです。ある学生が、教員採用試験での集団面接・個人面接で上手に話をしたい、話し方のコツを教えていただきたい、と言って研究室を尋ねてきました。
 私は、どのような話し方をしたいと思っているのか、どのような話し方のイメージを持っているのかを尋ねました。すると、その学生は、端的でまとまりのある話で、聞いている人がなるほどとうなずくような説得力がある話がしたいのです、と答えました。

 私は、それだけ分かっていれば十分ではないか、そのように話せばよいではないか、大切なのは話し方というテクニックではなく、話の内容ですよ、と少しきつめに言いました。
 実は、私は授業の中で、学校でも企業でも新人にまず求められるのは表現・コミュニケーション能力である、表現・コミュニケーション能力に磨きをかける不断の努力が必要である、という話をしたのでした。

 では、説得力のある発言ができるために必要な条件についてお話しましょう、と私は深々と椅子に座り直して次のような話をしました。

 いくつか重要な条件がありますが、そのうちの5つをお話します。
1番目、初めに結論を述べ、その後にその説明を簡潔に述べる。
2番目、自分の主張の根拠を明確かつ具体的に述べる。
3番目、他者の立場に立って論立てできる「役割取得能力」を発揮する。
4番目、他者の発言を尊重する。
5番目、教育の視点を入れる。

 1番目は、初めに結論を述べ、その後にその説明を簡潔に述べる、ということです。  授業での学生の皆さんのプレゼンテーションによく見られるのですが、課題の背景やその説明から話を始めることが多く、そのために話が長引いてしまうことがあります。発言時間が限られている時には、結論まで達しないで終了ということになりがちです。結論を先に述べておけば、その説明が途中で終わっても発言は成立します。

 2番目は、自分の主張の根拠を明確かつ具体的に述べる、ということです。
 「根拠」や「論拠」が発言の要(かなめ)です。根拠に基づいて主張することは鉄則です。明確な根拠のない、主観的・感情的な発言や思いつきは全く説得力がありません。

 3番目は、他者の立場に立って論立てできる「役割取得能力」を発揮することです。
 「役割取得能力」(role-taking ability)とは、他者の立場に立って考えたり、他者の見方や感情を推測したりする能力のことです。これまでに経験していない立場でもイメージで推論することができることが社会人として求められます。この能力を発揮することが重要です。

 4番目は、他者の発言を尊重する、ということです。
 他者の発言・意見を尊重する上で重要なことは、他者の発言・意見を否定しないことです。「私は、それは違うと思います。」「私は◯◯さんの意見は受け入れられません。」というような発言は、相手の人格そのものを否定しかねません。
 直接的な否定ではなく、「今、○○さんのご意見を伺い、◯◯◯ということも重要であると改めて感じました。」というようなプラスの表現で反論を組み立てましょう。

 5番目は、教育の視点を入れる、ということです。
 「教育の視点」とは、分かりやすく言うと、「それは子どもにとってどうか」という視点です。この見方・考え方ができることが大きな強みとなります。これまでの教職課程の履修で培ってきた大きな強みです。

 その学生は、先生、よく分かりました。特に5番目の「教育の視点」にこれからも力を入れます、ありがとうございました、と礼を言って帰っていきました。教育の視点を持って主体的に社会に参画する人材の育成がこれからも重要な課題であるなとそのとき私は改めて思いました。


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