カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2020年10月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育徒然草
(3) 教育時事アラカルト

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◇ 所長だより ◇ 今回はお休みです。

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◇ 教育徒然草 ◇

No.5 新学習指導要領に見る学習の評価の考え方
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

 現在、各学校現場では、新しい学習指導要領(平成29年改訂)の趣旨に基づく学習指導を確実に実施するための取り組みに余念がありません。
 特に、中学校では、来年度からの新教育課程の全面実施に向けて、たくさんある課題の中でも、学習の評価にフォーカスした校内研修に力を入れている学校が多くあるようです。

 各教科における観点別学習状況の評価の観点については、平成20年改訂の学習指導要領では「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の4つの観点が設定されていましたが、今回の改訂では「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点となりました。

 学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)を踏まえ、学習指導要領の目標及び内容が資質・能力の3つの柱(「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「まなびに向かう力、人間性等」)で再整理されたことにより、各教科における観点別学習状況の評価の観点についても「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理されたのです。

 これらの3観点について、文部科学省国立教育政策研究所教育課程センターの「学習評価の在り方ハンドブック」(小・中学校編)では次のように解説しています。

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「知識・技能」
 各教科等における学習の過程を過した知識及び技能の習得状況について評価を行うとともに、それらを既有の知識及び技能と関連付けたり活用したりする中で、他の学習や生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解したり、技能を習得したりしているかを評価します。

「思考・判断・表現」
 各教科等の知識及び技能を活用して課題を解決する等のために必要な思考力、判断力、表現カ等を身に付けているかどうかを評価します。

「主体的に学習に取り組む態度」
 知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりするために、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという「意思的」な側面を評価します。
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 各学校現場で、特に課題になっているのが、「主体的に学習に取り組む態度」です。
 新学習指導要領が告示された当初から「学びに向かう力、人間性等」は具体的に何を指しているのか分からないと言われていましたが、平成元年6月に「学習の評価在り方ガイドブック」が出たことにより、「学びに向かう力」は「主体的に学習に取り組む態度」として観点別評価(学習状況を分析的・数値的に捉える)を通じて見取ることができる部分と位置付けられ、「人間性」(感性や思いやり等)は観点別評価や評定にはなじまない部分とされて「個人内評価」(観点別学習状況の評価や評定には示しきれない児童生徒の一人一人のよい点や可能性,進歩の状況について記述する)で評価されるものとして分けて位置付けされました。

 これまでも、従来の「関心・意欲・態度」の観点については、「学校や教師の状況によっては、挙手の回数や毎時間ノートを取っているかなど、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭し切れていない」ということが指摘されてきました。これを受け、各教科等の学習内容に関心をもつことのみならず、「よりよく学ぼうとする意欲をもって学習に取り組む態度」を評価するという趣旨が改めて強調されたのです。

 さらに、「主体的に学習に取り組む態度」の評価については、(1)知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた「粘り強い取組を行おうとする側面」と、(2)(1)の粘り強い取組を行う中で、「自らの学習を調整しようとする側面」という2つの側面から評価することが求められる。」とされました。

 「自らの学習を調整しようとする側面」とは、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなどの「意思的」な側面のことと定義されました。

 具体的な評価方法としては、「ノートやレポート等における記述、授業中の発言、教師による行動観察や、児童生徒による自己評価や相互評価等の状況を教師が評価を行う際に考慮する材料の1つとして用いることなどが考えられます。」としています。

 ある中学校の校長先生は、次のような懸念を語っています。
「理論的には理解できる。しかし、『主体的に学習に取り組む態度』は、どう考えても、従来の『関心・意欲・態度』と同様の『非認知スキル』であり、『自らの学習を調整しようとする意思的な側面』として捉えて観点別評価の対象とするのは無理ではないだろうか。」「児童生徒による自己評価や相互評価を観点別評価の材料とするのは、児童生徒自身による自主的な評価を歪めてしまうのではないか。」

 筆者もこの校長先生と同感です。では、どうしたらよいのでしょう。
 各学校や教育委員会レベルで非認知スキルの数値的測定を研究開発するのは現状では困難です。思い切って「主体的に学習に取り組む態度」は数値的に測定できるものではないとして、「個人内評価」の対象としてはどうでしょう。

 「主体的に学習に取り組む態度」は、「知識・技能」「思考・判断・表現」について一人一人の児童生徒の状況をきめ細かく見取っていくことで、自ずと望ましいものになっていくと考えます。文部科学省の早目の舵の切り替えを期待したいと思います。


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◇ 教育時事アラカルト 第83回 ◇

部活動と「好意同乗」
           教職教育開発センター教授  坂田 仰

 2020(令和2)年10月、鳥取県教育委員会は、部活動指導に携わる八十数名の教員に対し、訓告や厳重注意等を行ったと発表した。
 理由は、部活動での移動の際、教員のマイカー等に児童・生徒を同乗させたこと、いわゆる「好意同乗」である。しかし、訓告等は部活動の実態に即しておらず、不可能を強いるものといった批判が一部で生じているという。

 好意同乗とは、バイクや自動車等の移動手段に好意で他者を無償で乗せる行為を指す。自家用車の保有率が低く、地域社会の絆が強かった時代、全国で見られた光景である。学校も例外ではない。教員が児童・生徒を自家用車等に同乗させるシーンは、ドラマや映画にしばしば登場し、覚えている方も多いことだろう。

 そこに規制が掛かり始めたのは、事故発生時の法的責任が問題視されるようになったからである。
 例えば、教員の運転ミスで事故が発生し、同乗していた児童・生徒が負傷したとしよう。仮に好意同乗であったとしても、運転者が法的責任を免れることはできない。教員に十分な賠償能力があればまだしも、もし不十分であった場合、非難の矛先は学校に向けられることになる。

 こういった事態を回避するため、「移動に際しては、公共交通機関やタクシー等を利用することを原則とする」等のルールが導入された。しかし、公共交通機関が未整備の地域でこのルールを遵守することは容易ではない。畢竟、実態を優先し、ルールを軽視する風潮が生まれることになる。今回の鳥取のケースは、このルール軽視が摘発された格好である。

 学校の好意同乗事故は、既に訴訟にまで発展している。部活動引率同乗事故訴訟である(鹿児島地方裁判所判決平成12年5月19日)。
 鹿児島県下の公立高校のバレー部顧問が試合会場に向かう途中、事故を起こし、好意同乗していた部員が脊椎損傷等の傷害を負った事案である。教員は、50キロ制限の道路を80キロを超える速度で走行し、カーブを曲がりきれなかったという。実際、こういった事故が発生している以上、公共交通機関を利用すべしという主張には一定の説得力がある。問題は公共交通機関が未整備の地域でどうやって部活動を充実させていくかだが、経済的な支援なくして解決策を見いだすことは容易ではない。


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