カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2020年3月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間


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◇ 所長だより ◇

スウェーデン・ウプサラ大学との国際協力

           教職教育開発センター所長  田部俊充

   本学の海外短期研修の一環として、スウェーデンのウプサラ大学との研究交流を行っています。
 このスウェーデン海外研修は、学部、学科を超えて参加することができ、第1回は2017年3月に36名、第2回は2017年9月に23名、第3回は2019年3月に63名が参加しました。

 第4回も本年3月に予定していましたが、昨今の情勢を鑑み、来年度に延期となりました。
 その第4回の海外交流の準備として、2019年11月17日(日)に「スウェーデン社会から学ぶPart2」という講演会を目白キャンパス百年館低層棟百104教室において開催しました。研修に参加する予定の教育、児童、住居、物質生物科学など学部学科を超えた50名近くの学生を中心に、全学の教員、卒業生などが参加しました。

  まず私から、カモミールnetマガジン1月号、2月号で紹介した、中野区A中学校での多文化共生を意識した社会科地理的分野の出前授業の様子を報告し、日本・東京都の教育の概要を紹介しました。

 次に、スウェーデン・ウプサラ市マルマ・バッケ就学前学校の浅野由子教諭(日本女子大学講師)から、読み聞かせの奨励、多言語による歌、踊り、ITによる言語活用、EUプロジェクトについて報告していただきました。移民の子どもと家族の為の統合の要素としての就学前学校、そして「音楽がつないでいる」という言葉が印象的でした。

  最後に、東京都中野区入野貴美子教育長から、中野区で先進的に行われている保幼小中連携教育,大学との連携・地域団体との連携について、教育ビジョン「0歳から15歳までの一貫した支援と教育」として報告していただきました。

  今後もウプサラ大学との交流につなげたいと考えています。(続く)


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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇

           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

【12】「問題発見・解決能力」の育成のためのカリキュラム・マネジメント

(1)「各教科等の学習」と「横断的・総合的な学習」の両者の充実
 新しい学習指導要領は、これからの社会に必要な力としての「問題発見・解決能力」を育成するには、何のために学ぶかという学びの意義の本質(見方・考え方)が明確な「各教科等の学習」と、そのような教科等の学習を通して得た教科等の汎用的な力を組み合わせて活用する「横断的・総合的な学習」の両者の充実が必要であると提言し、学校現場にはそれが求められています。

(2) 教科等横断的な視点でのカリキュラム・マネジメント
 新学習指導要領を議論するベースとなる論議をまとめた「論点整理」(注1、※1)では、これからの社会に必要な力としての「問題発見・解決能力」を育成するためには、教科等間のつながりを捉えた教科横断的な視点で学習を成り立たせていくことが課題となり、教科等間の内容事項について、相互の関連付けや横断を図る手立てを整える必要があるとされました。

 このため、各教科等の必要な教育内容を組織的に配列することが重要となり、特に、特別活動や総合的な学習の時間において教科等の枠を超えた「横断的・総合的な学習」が行われるようにすることなど、教科等間のつながりを意識して教育課程を編成することが重要とされました。

 新学習指導要領では、総合的な学習の時間や特別活動などの「横断的・総合的な学習」のためのカリキュラム・マネジメントを行う上での参考として「現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容」(注2)を編成する例が「総則」の付録6に示されています。
 例えば、「食に関する教育」では、中学校学習指導要領における「食に関する教育」について育成を目指す資質・能力に関連する各教科等の内容のうち、「総則」「社会科」「理科」「技術・家庭科」「保健体育科」「特別の教科 道徳」「総合的な学習の時間」「特別活動」から主要なものを抜粋し、一覧にしています。
 各学校で、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成をねらいとして「食」をテーマとした「横断的・総合的な学習」を行う際には、有用な資料となります。

 しかし、このような例示があっても、各教科等の枠は残したままでの「各教科等の学習」と「横断的・総合的な学習」の両者を並列的に進めるという考え方は、学校現場の立場から述べると、理論的には理解できるが、実際にはどのように行ったら良いのかわからないという戸惑いは大きいものがあります。本メールマガジン10月号でも紹介したような不適切なカリキュラム・マネジメントが出てくることが予測されます。

(3) 教科等連携的な視点でのカリキュラム・マネジメント
 これからの「各教科等の学習」は、各教科等における「知識・技能」が将来の多様な場面で生きて働くものとなり、「思考力・判断力・表現力等」が未知の状況に対応できるものになるように進めることが求められています。
 そのためには、個々の教科等がそれぞれの枠内での教育の質を高めることと同時に、複数の教科等が連携し、それぞれの学習のねらいをより多面的・多角的に高い質で達成することを目的とする「クロスカリキュラム」の開発が有用となります。

 中安・他(2017)(※2)は、クロスカリキュラムを「各教科間の内容を連携させることで、各教科で扱われる教育内容を効率的に理解させ、広い視野で応用・活用する力を身につけることをねらいとする。」と定義しています。
 また、「ここでいう効率的とは各教科の指導内容を確認し、今まで各教科で別々に扱われていた単元、教材を複数教科間で再構築することがクロスカリキュラムの考え方であり、限りある授業時間内により深く内容を理解することが効率的な学習につながると考える。」としています。
 例として、下記のような指導を提案しています。

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教科:体育科 × 理科(物理)
◎授業のねらい
・体育科「ハンドボール投げ」
・理科(物理)「物体の運動」
 体育科の体力測定で9項目あるうちの1つとしてハンドボール投げを実施している。このハンドボール投げを力任せで投げてしまうのではなく理科(物理)による物体の運動を学んだところで最も遠くまで飛距離を伸ばすためにはどうしたら良いかを考えさせ、実践させてみる。理論値と実際に投げたときによる考察を行うことで、より物体の運動についての理解も深まり、ハンドボール投げをする際に意識して投げるようになると考えた。
(添付の図〔202003inaba.gif〕参照)
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 各教科等における「知識・技能」が将来の多様な場面で生きて働くものとなり、「思考力・判断力・表現力等」が未知の状況に対応できるものになるためには、各教科等がそれぞれの枠の中だけで指導を進めるだけでなく、各教科等の枠を超えて活用できる「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」を組み合わせて連携するという「教科等連携的な視点でのカリキュラム・マネジメント」がますます重要になります。

(4) 総合的な学習の時間を軸とした教育課程の編成
 変化の激しいこれからの社会で未知の状況にも対応できる汎用的な資質・能力を育成するために、新学習指導要領は、「総則」(第2の2の(1))で、
「各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。」
としています。

 また、「解説」の「総合的な学習の時間編」(第3章第3節)では、 「各学校の教育目標を教育課程で具現化していくに当たっては、総合的な学習の時間の目標が各学校の教育目標を具体化し、そして総合的な学習の時間と各教科等の学習を関連付けることにより、総合的な学習の時間を軸としながら、教育課程全体において、各学校の教育目標のよりよい実現を目指していくことになる。」
としています。

 このことから、これからの学校の教育課程の一つのイメージとして、総合的な学習の時間が中核となり、その周りを各教科等が取り巻く「コア・カリキュラム」の編成が浮かんできます。各学校では、こうした構造的な教育課程の編成が今後課題になってくると思われます。

 この課題への対応のためにも、新学習指導要領が主張している「教科等の学習」と「横断的・総合的な学習」に、(3)で提唱した「教科連携的な学習」を新たに加えて、それぞれに対応した下記のような「教科等カリキュラム」「教科等連携カリキュラム」「教科等横断的カリキュラム」を各学校で編成し、ねらいに応じて連関させながら、柔軟な実施体制の中で進められることが重要になると考えます。

〈1〉「教科等カリキュラム」
 各教科等の学習は、それぞれの枠の中で行われるが、「知識・技能」は将来生きて働くように「文脈」(context)や「見方・考え方」を踏まえた形で習得され、「知識・技能」を活用して問題解決ができるために必要な「思考力・判断力・表現力等」は未知の状況に対応できる汎用的な力として育成されるように留意すること。

〈2〉「教科等連携カリキュラム」
 各教科等のそれぞれの学習のねらいをより多面的・多角的に高い質で達成するために複数の教科等が連携するクロスカリキュラムを工夫すること。

〈3〉「教科等横断的カリキュラム」
 現代的な諸課題に対応し、解決できる汎用的な力を育てるために、〈1〉、〈2〉を通して身に付けた汎用的な「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力等」を活用する「横断的・総合的な学習」を工夫すること。
(終わり)

(注1)「論点整理」とは、新学習指導要領を議論するベースとなる論点をまとめたもの。中央教育審議会「教育課程企画特別部会」が2015年8月に発表した。
(注2)「現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容」には、求められる資質・能力について、具体的に教科等横断的に教育内容を構成する例として以下のものが挙げられている。
「伝統や文化に関する教育」「主権者に関する教育」「消費者に関する教育」「法に関する教育」「知的財産に関する教育」「郷土や地域に関する教育」「海洋に関する教育」「環境に関する教育」「放射線に関する教育」「生命の尊重に関する教育」「心身の健康の保持増進に関する教育」「食に関する教育」「防災を含む安全に関する教育」

【参考文献】
※1 「教育課程企画特別部会 論点整理」文部科学省, 2015年8月
※2 中安・他, 「クロスカリキュラムによる授業開発の提案」; 日本科学教育学会研究会研究報告, Vol32, No.5, 2017


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