カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2020年2月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間
(3) 教育時事アラカルト


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◇ 所長だより ◇

中野区教育委員会との連携協力と国際協力(2)―多文化共生社会に向けての試行

           教職教育開発センター所長  田部俊充

 1月号で報告した、2019年7月に実施した中野区の公立中学校における多文化共生を目指す社会科出前授業の2日目の様子の報告です。

  2日目の授業は、次のような言葉でスタートしました。
「前回の授業の最後にお伝えしましたが、政府は外国人労働者の受け入れ拡大へと大きく舵を切ることになりました。
 2018年の臨時国会で、改正入管法(出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)が成立し,2019年4月から施行されています。
 政府は今後5年間で最大約34.5万人の外国の方の受け入れを見込んでいます。
 それに対して皆さんはどのように共生を考えていくのかを発表して下さい」

  生徒たちが発表する際には、その意見を裏付けるような理由や経験も発表してもらいました。

 多くの生徒から、
「移民の人は日本を、私たちは移民の人たちの理解、というように互いを理解することが大事」
というように、お互いに尊重しながら共生していく、という意見が出ました。

具体的なアイデアとしては、
「店で注文するときに店員さんが日本語を話せたほうが安心するし、店員さんが日本語の勉強、私たちも英語を勉強したほうがスムーズにコミュニケーションが取れる」
といった前向きな意見が寄せられました。

 一方で、「共生はいろいろ手立てを考えなければ難しいのではないか」という意見も出ました。
 例えば、「街中で外国の人に道を聞かれたときにスムーズに答えられなかった経験があるので、この意見を書きました」というように身近な経験から心配する意見もありました。

 具体的に共生を進めていくためには、
「外国人を受け入れたくない人も日本にはいる。けれど、そのようなことを乗り越えることを新聞として発行していくことで共生を進めることができるのではないか」
という思いから、新聞やホームページの作成、SNS等で発信することや、ポケトークなどの翻訳機械の活用や技術の発展を進めるためのアイディアなどを発表してくれました。

 共生の課題として、フィールドワークで調査した池袋周辺の多言語表示の問題などの写真を示しながら検討しました。
 授業の最終的な感想には、
「日本人が移民の人々と優しく接して手を取り合っていけば良いと思う」 といった積極的な肯定論が多かったことを高く評価します。
 これからも世界の国々や人々についての理解を深めながら,社会科の授業で多文化共生について考えていきたいと思います。(続く)

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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇

           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

【11】新学習指導要領が目指す「問題発見・解決能力」の育成

(1)「問題発見・解決能力」
 新学習指導要領は、
「変化の激しい社会の中で、主体的に学んで必要な情報を判断し、よりよい人生や社会の在り方を考え、多様な人々と協働しながら問題を発見し解決していくために必要な力を、生徒一人一人に育んでいく」(※1)
ことを目指しています。
 この考え方は、これまでの学習指導要領の理念である「生きる力」を受け継ぐもので、OECDの“Education 2030”の方向性とも軌を一にするものです。

 新学習指導要領の目指す主要なテーマの一つとして、「変化の激しい社会の中で、問題を発見し解決していくために必要な力の育成」、一言で表すと「問題発見・解決能力の育成」があることを明確に把握しておく必要があります。

(2)「学習の基盤となる資質・能力」
 「問題発見・解決能力」の育成のために、新学習指導要領では、
「あらゆる教科等に共通した学習の基盤となる資質・能力や、教科等の学習を通じて身に付けた力を統合的に活用して現代的な諸課題に対応していくための資質・能力を、教育課程全体を見渡して育んでいくことが重要となる。」(※2)
としています。

 ここでの「学習の基盤となる資質・能力」とは、
「言語能力「情報活用能力( 情報モラルを含む)」「問題発見・解決能力」(※3)です。  3つの力が並列的に並べられていますが、「言語能力」と「情報活用能力( 情報モラルを含む)」は「問題発見・解決能力」の中に構成要素として含めて考えることができます。

(3)「思考力・判断力・表現力等」
 また、「教科等の学習を通じて身に付けた力」とは、具体的には「思考力・判断力・表現力等」を指しています。「思考力・判断力・表現力等」については、次のような記述があります。(※4)

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 ・生徒が「理解していることやできることをどう使うか」に関わる 「思考力,判断力,表現力等」は、「知識及び技能」を活用して課題を解決するために必要な力である。
 ・社会や生活の中で直面するような未知の状況の中でも、その状況と自分との関わりを見つめて具体的に何をなすべきかを整理したり,その過程で既得の知識や技能をどのように活用し,必要となる新しい知識や技能をどのように得ればよいのかを考えたりするなどの力であり,変化が激しく予測困難な時代に向けてますますその重要性は高まっている。
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 このように、「思考力・判断力・表現力等」は「未知の状況にも対応できる」力とされており(※5)、未知の状況の中でも「知識及び技能」を活用して課題を解決するために必要な力であるのです。
 つまり、「思考力・判断力・表現力等」は、「教科等の汎用的な力」(注:筆者の造語)と捉えることができると考えます。

 「教科等の汎用的な力」とは、例えば数学科でいうと、「正確で速い計算力」などの「知識・技能」や「数学を活用して事象を論理的に考察する力、数量や図形などの性質を見いだし統合的・発展的に考察する力、数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力」(※6)であり、多様な状況や場面において広く活用・応用できる数学科の力です。

(4)「問題発見・解決能力」育成のプロセス
 新学習指導要領では、「問題発見・解決能力の育成」のプロセスを次のように考えています。

変化の激しい社会での未知な状況にも対応できるためには、まずは各教科等において汎用的な力としての「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」を育成することが不可欠であり、さらに、それらの各教科等の汎用的な力が統合的に活用される探究的な学習活動を通して、問題を発見し解決できる「資質・能力」を育てることが重要であるという考え方です。

 (5)「問題発見・解決能力」育成のカリキュラム
 新学習指導要領では、
「あらゆる教科等に共通した学習の基盤となる資質・能力や、教科等の学習を通じて身に付けた力を統合的に活用して現代的な諸課題に対応していくための資質・能力を、教育課程全体を見渡して育んでいくことが重要となる。」
とされており、「教科等横断的カリキュラム 」(総合的な学習の時間、特別活動等)の重要性が主張されています。

 しかし、ここで注意しなければならないのは、「教科等カリキュラムから教科等横断的なカリキュラムへの転換」というような教育方針の舵の切り替えが提唱されているのではないということです。
 新学習指導要領で考えられているカリキュラムは、「教科等カリキュラム」(個別の教科等)と「教科等横断的カリキュラム 」(総合的な学習の時間、特別活動等)の二本立てなのです。
 そして、その両者の一層の充実のために、各学校でのカリキュラム・マネジメントの工夫が求められているのです。(次号に続く)

  【参考文献】
※1、※2、※3、※4 「中学校学習指導要領解説 総則編」, 平成29年7月
※5 「新しい学習指導要領の考え方」−中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ−, 文部科学省, 平成29年9月
※6 「数学的な見方・考え方」; 「中学校学習指導要領解説数学科編」, 平成29年7月

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◇ 教育時事アラカルト 第80回 ◇

体罰と刑事責任
−厳罰化の傾向に注意−

           教職教育開発センター教授  坂田 仰

  体罰に対する刑事責任の追及が広がりを見せている。
 かつてであればせいぜい民事責任(損害賠償責任)の追及に止まっていた程度の体罰に対してまで、被害届が提出され、警察が乗り出す例が増加しているという。

 その契機となったのは、言うまでもなく大阪市立桜宮高等学校体罰自殺事件である。
 指導と称して体罰を繰り返した教員は、暴行罪、傷害罪で起訴され、最終的に、懲役1年、執行猶予3年の判決を受けることになった(大阪地方裁判所判決平成25年9月26日)。
 判決は、量刑の理由において、
「被害者は、罰を受けるようなことは何らしておらず、要するに被告人が満足するプレーをしなかったという理由で暴行を加えられたのであって、このような暴行は、被害者が書き残したように理不尽というほかない」
と、教員の行為を指弾している。

 他にも厳しい判決が存在する。
 例えば、愛知県小学校教員常習体罰事件である(名古屋地方裁判所豊橋支部判決平成30年6月28日)。
 愛知県下の公立小学校で勤務していた教員が、常習として、担任を受け持っていたクラスの児童2名に対し暴行を加えたとして起訴された事案である。

 判決は、
「被告人は、自身の指導を理解しない児童らに立腹し、怒りの感情に任せて、額を黒板に打ち付けたり、頭部を定規で叩いたりする暴行を加えたというのであり、本件は身勝手で理不尽な犯行である」
とし、懲役1年、執行猶予3年の判決を下している。

 ここで注目すべきは、教員に対し、暴力行為等処罰法1条の3、いわゆる常習暴行・傷害罪が適用された点である。
 暴力行為等処罰法1条の3には、
「常習トシテ刑法第204条、第208条、第222条又ハ第261条ノ罪ヲ犯シタル者人ヲ傷害シタルモノナルトキハ1年以上15年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス」
とあり、罰金刑は存在しない。
 それ故、有罪となれば必ず懲役刑となり、教員免許は失効する。
 体罰教員を一発で退場させる効果を有する厳しい罪ということが出来る。
 学校現場としては、この体罰に対する厳罰化の傾向をしっかりと受け止める必要があるだろう。

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