カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2016年10月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座  -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-

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◇ 所長だより ◇

アクティブ・ラーニング(3)
           教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月も、アクティブ・ラーニング(問題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習)を取り上げます。

 ところで、先月号において、アクティブ・ラーニングのポイントは、次の3つの「学び」を統合することにあることを指摘しました。

@深い学び(問題の発見と解決に向けて問い続ける学び、つまりある問題が解決した後も、新たな疑問や問いが生まれるような学び)

A主体的な学び(問題解決をめざして、自らの考えをもつ学び)

B協働的・対話的な学び(他者との対話・協働を通じて、自分や他者の考えを広げ、深める学び)

 そして、このアクティブ・ラーニングの本質をふまえた授業づくりを提案し、実践しているのが、著名な認知・学習科学者である三宅なほみ教授(残念なことに昨年急逝されました)をリーダーとする東京大学発教育支援コンソーシアム推進機構(東京大学CoREF)です。そこでは、「協調学習(一人ひとりの児童生徒が自分の頭で考え、仲間と考えを比較吟味しながらよりよい答えをつくっていく学習)」の1つの授業の型として「知識構成型ジグソー法」が提唱されています。

 「知識構成型ジグソー法」がどのような学習法なのか、そしてどのような学習活動によって行われるのかを、次の文献から紹介してみます。

●三宅なほみ他(編著)『協調学習とは―対話を通して理解を深めるアクティブラーニング型授業―』
   北大路書房、2016年

 知識構成型ジグソー法は、児童生徒に課題を提示し、課題解決の手がかりとなる知識を与えて、その部品を組み合わせることによって答えを作り上げるという活動を中心にした授業デザインの手法です。そして、一連の活動は次の5つのステップからなっています。

(1) 本時の問いを提示します。例えば、「雲はどのようにしてできるか」という問いを出します。そして、その問いについてまず各自が自分なりの答えを考えてみます。

(2) その問いによりよい答えを出すための3つ程度の異なる部品(エキスパート資料)を3つのグループに分かれて検討し、自分の言葉で説明できるように準備します。この活動は、「エキスパート活動」と呼ばれています。先ほどの「雲のでき方(中学2年生の学習内容)」でいえば、「空気というのは体積が増えると温度が下がります(断熱膨張)」「空気の温度が下がると、空気の中に含める水蒸気の量が減ります(飽和水蒸気量)」「空気の中の水蒸気は、核になるものがあると、その周りにくっついて、液体になって目に見えるようになります(状態変化)」といった3つの部品を教師が準備します。

(3) 部品についてなんとなく理解したという状態ができあがったら、別のエキスパート資料(部品)を担当した人を一人ずつ呼んで新しいグループをつくり、3つの部品を統合的に活用して、最初の問いに対する答えを作り上げます。この活動は、「ジグソー活動」と呼ばれています。

(4) ジグソー活動で出てきた答え教室全体で交流し、異なる考えや表現から学びます。この活動は、「クロストーク」と呼ばれています。

(5) 今日わかってきたことを踏まえて、もう一度自分で答えを考え、書き留めます。

 まさに、生徒の主体的・協働的な学びを引き出すアクティブ・ラーニングそのものです。そこには、次のような開発者たちの教育観や学習観が授業デザインの背後にあります(このことが、前述した文献の「はじめに」に書かれています)。

 今の教育課題の本質は、単純にグループ学習等の児童生徒が主体的に参加する授業形態を増加させたり、他者とコミュニケーションをとる機会を増加させたりすることではなく、児童生徒が主体的に学び、他者との関わりを通じて、自分なりの答えを作り、試し、磨き、その先にわかったからこそ問いたい自分なりの「次の問い」を見つけていくような学習のチャンスをどれだけ設けてあげられるか、にあると言ってよい。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

学校配布文書を考える
           教職教育開発センター教授 坂田 仰

 千葉県下の小学校で,校長の許可の下,政治団体が作成した文書を教員が配布したことが問題となっている。遠足の案内,PTAの広報紙等々,保護者の元には毎日のように文書が届く。漠然と「また,学校から文書が来たな」と思うだけで,誰の文書かなどあまり意識されることがない。しかし,今回配布された文書のように,発行責任者が「学校」ではないものも少なくない。

 では,子どもを通じて配布される文書について,学校はどこまで責任を負うべきなのだろうか。

 この点に関して,PTAが発行した広報紙に寄稿した教員の文書が訴訟に発展したケースが存在している(東京地方裁判所八王子支部平成17年4月13日)。記事の内容によって名誉が傷つけられたとして,特殊学級(当時)に在籍する生徒と保護者が損害賠償の支払いを求めて提訴した事案である。学校側は,そもそもPTA広報誌は学校が発行しているものではなく,責任はない等と反論を試みている。

 広報誌を読んでみると,担任教員は,生徒の名字を明記し,特殊学級に在籍していることが特定できる書き方をしている。判決は,「中学1年生であるにもかかわらず、担任教諭が日常生活動作を指導しなければならない」とする記述に着目し,「日常の基本的な生活動作ができないほど能力の劣った生徒であるとの印象を抱く」可能性が高く,多くの人々が公開して欲しくない事柄に該当すると指摘している。

 問題は,広報紙の「発行元」である。教育関係者なら誰もが知っているように,PTAは,保護者と教職員によって組織される任意団体である。その広報紙は,本来,PTAが主体となって発行されるべきものであり,学校や校長に従属するものではない。問題となった広報紙も,PTA会長が発行責任者となっていた。

 しかし,建前はともかく,実質的には学校側がPTAの運営を取り仕切っている例も多い。広報紙の編集権についても同様であり,この事案では,校長と副校長が,担任教員の文書を校正の際にチェックしていた。判決は,この点を重く見て,PTA会長に「教職員の原稿についての修正権限はなく、同中学の校長及び副校長に修正権限があった」とし,「広報を実質的に発行しているのは同中学である」としている。文書配布の際には,保護者がどう受け取るかという点までよく考える必要があろう。

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◇ 小学校教師のための英語指導講座   -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
           家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

7 電車内の英語アナウンスで気になる表現

 私(筆者)は通勤で西武池袋線を利用していますが、副都心線、東急東横線、みなとみらい線直通の元町・中華街行きの電車に乗っています。車内で、日本語に続いて英語の放送が流れると、いつも興味深く聞いています。教材として使える表現があると同時に、奇異に思える表現もあります。

「西武池袋線」では、例えば、次のようなアナウンスがあります。
  「次は石神井公園です。」
    “The next station is Shakujii-koen.”‐@
  「石神井公園を出ますと、練馬に止まります。」
    “The stop after Shakujii-koen will be Nerima.”‐A
  「まもなく石神井公園に到着いたします。」
    “We will soon arrive at Shakujii-koen.”‐B

「副都心線」では、次のようなアナウンスです。
  「次は池袋です。」
    “The next stop is Ikebukuro.”
  「池袋の次は新宿三丁目に止まります。」
    “The stop after Ikebukuro is Shinjuku-sanchome.”‐C
  「まもなく池袋です。」(電車が池袋駅のホームに入ろうとするところで)
    “Arriving at Ikebukuro.”‐D

「みなとみらい線」は買い物でよく利用しますが、次のようなアナウンスです。
  「次はみなとみらいに止まります。」 
    “The next station is Minatomirai.”
  「まもなく、みなとみらいです。」
    “We will soon make a brief stop at Minatomirai.”
  「みなとみらいの次は、元町・中華街、終点です。」
    “The stop after Minatomirai will be Motomachi-Chukagai….”
  「まもなく、元町・中華街、終点です。」
    “We will soon be arriving at Motomachi-Chukagai….”‐E

 ここで注目したい点を3つあげます。

 1つ目は、AとCの文です。どちらも「A駅の後に止まるのは駅です。」ということを言いたいのですが、Aでは will be が使われ、Cでは is が使われています。次の停車駅までは遠く、時間がかかるとしても、路線のダイヤで次の停車駅は固定されており、変わる余地のない客観的事実ですから、will は使わずに、is でよいのです。@の文で「未来形」の will be が使われずに、「現在形」の is が使われているのと同じ理由です。Aの文での will be は、「石神井公園の後に止まる駅は、練馬でしょう。」と「推測」を表すように聞こえてしまい、違和感を感じます。

 2つ目は、BとEの文です、どちらも「まもなく、C駅に到着します。」ということを言いたいのですが、Bでは、will arrive at が使われ、Eでは、will be arriving at が使われています。通例、Eのような「未来進行形」は、「まだ、その態勢には入っていないが、そういう予定になっているので、まもなくその態勢に入るでしょう。」という意味を表し、交通機関のアナウンスとしては心もとないものになります。

 3つ目は、Dの文です。この文は、We are arriving at Ikebukuro.という現在進行形の省略形です。この文例は、小・中学校の教材として有効なものとなります。意味は、「今、池袋に到着しているところです。」ではなく、「今、まさに池袋に到着しようとしているところです。」です。実際に副都心線では、電車が池袋駅のホームにまさに入ろうとしている時、このアナウンスが流されます。これと似た例で、山手線では、車内表示装置に、例えば大崎駅に着く前に、次のような表示が出ます。
 “Now Stopping at Osaki.”
これも、「今、大崎駅に止まっているところです。」という意味ではありません。「今、大崎駅に止まろうとしているところです。」という意味で、Cの“Arriving at Ikebukuro.”と同じ現在進行形の使い方です。残念なことに、現在、この使い方については、中学校で系統的に教えられていないため、日本人の英語の弱点になっています。だからこそ、コミュニケーションの視点からの「英語文法」の新たな枠組みづくりと小・中学校を通しての系統的な指導法の開発が、今、求められているのです。

 前回、小学校教師に必要な「プラス1」の英語学的な知識として、「英語の動詞の意味特性」を取り上げました。そして、今回は、日本の電車内の英語アナウンスに見られる「気になる表現」を取り上げました。

 次回は、その中から「現在進行形」に焦点を当て、それぞれの意味特性を持っている動詞の「現在進行形」が、実際のコミュニケーションの中でどのように使われるかを、系統的に、分かりやすく述べたいと思います。
                   (次号に続く)

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