カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2015年12月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-

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◇ 所長だより ◇

教師に求められる資質・能力とは何か
         教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 10月と11月のメールマガジンにおいて、三宅貴久子先生の「教師としての資質・能力」は、「挑戦力」「レジリエンス(回復力)」、「発想力」にあることを述べました。

 では、教師には、どのような資質・能力が求められているのでしょうか。

 中央教育審議会は、「これからの教員に求められる資質・能力」として、(1)教職に対する責任感、探究力、教職生活全体を通じて自主的に学び続ける力、(2)専門職としての高度な知識・技能、(3)総合的な人間力を提案しています。ちなみに、総合的な人間力とは、豊かな人間性や社会性、コミュニケーション力、同僚とチームで対応する力、地域や社会の多様な組織等と連携・協働できる力です。

 そして、東京都教育委員会は、「経験や職層に応じて教員が身に付けるべき力」を提案しています。そこにおいて、経験や職層の違いにもかかわらず共通に身に付けるべき力として、「子どもの変化に対応し、指導方法を工夫・改善、変革していくことが必要な力」と「社会状況の変化などに対応し、今後特に身に付けることが必要な力」があげられています。なお、前者の具体例としては学習指導力、生活指導力、進路指導力があり、後者としては外部との連携・折衝力、学校運営・組織貢献力があります。

 さらに、横浜市教育委員会は、すべてのキャリア段階に共通する資質・能力として、「授業力」「マネージメント力」「連携力」「情熱・人間性」をあげています。

 そこで、筆者は、これらの提案をふまえて、「教師に求められる資質・能力」を整理してみました(添付データ表1参照)。そこでは、教師に求められる資質・能力は、教師に特有なものと、社会人として求められるものの両面を併せ持つと考えられています。そして、いつの時代や社会でも求められるものと、時代や社会の変化に対応して求められるものの両面性をもつと考えられています。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

携帯,スマホと学校現場
         教職教育開発センター教授 坂田 仰

 携帯電話やスマートホンの普及に伴い,学校裏サイト,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用した誹謗中傷やいじめ等,いわゆるネット・リスクが拡大している。特に,ここ数年は,スマートフォンの学校現場への浸透が著しい。総務省情報通信政策研究所の調査によれば,スマートフォンを利用してインターネットにアクセスしていると回答した高校生は,実に83.6%にも上るという(「高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査」平成26年6月)。

 文部科学省は,学校に携帯電話は原則不要との立場を取っている(「学校における携帯電話の取扱い等について」平成21年1月30日付け20文科初第1156号)。例えば,高等学校に関して,「携帯電話は,学校における教育活動に直接必要のない物である」とする。その上で,「授業中の生徒による携帯電話の使用を禁止したり,学校内での生徒による携帯電話の使用を一律に禁止したりするなど,学校及び地域の実態を踏まえ,学校での教育活動に支障が生じないよう校内における生徒の携帯電話の使用を制限すべき」としている。

 とはいえ,ことはそう単純ではない。教員と生徒のいたちごっこが続いている。だが,問題の本質は保護者にこそあるのではないか。携帯電話を子どもに買い与えている,あるいは子ども自らが購入することを認めているのは,学校ではなく,保護者である。にもかかわらず,携帯電話を使用するルールづくりとその指導を学校に求め,委ねようとする。ここに携帯電話をめぐる最大の矛盾が存在している。

 「父母その他の保護者は,子の教育について第一義的責任を有する」(教育基本法10条1項)。携帯電話等に関する指導責任にもこの原則は妥当するはずである。携帯,スマホの指導に当たって,学校現場にまず求められることは,保護者にこの点を理解してもらう努力である。保護者が携帯電話やスマホを持たせる責任を自覚することなしに,学校現場における携帯電話等の指導は実効性を有することはない。

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◇ 子どもたちが自律的な学習者になるために  ◇
    -アクティブ・ラーニングの勧め- (No.9)
         家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

7 「学習の自律性」と特別活動

(1)「学習の自律性」の土台となる部分
 先月号では、「学習の自律性」の「土台となる部分」は、自分たちで学校の課題を見つけ、自分たちで解決していこうとする自発性や自治的な意識であることを述べました。実際、日常的に@学級や学校生活の中から問題を見つける A問題解決の方法や活動過程を話し合い、決定する B実践活動において、互いに協力して役割を果たす C自ら活動を振り返り、評価する等の自発的、自治的な活動を実践している子どもたちは、教科の授業においても、まさにその手順・プロセスで学習にも取り組んでいることが分かります。
 子どもたちが、学校を離れても「学習の内容や方法を自分で選択して計画を立て、その計画を実行して、学習の進み具合をモニターしたり、成果を評価したりすることができる」「自分に適した学習環境を整備でき、教師も含めた他との関わりや協働を通して学習を進めることのできる」ようになることが「学習の自律性」の育成の最終的な目標であり、そのためには、その土台として、学校や学級で自発的で自治的な活動を行う習慣を身に付けることが極めて重要なのです。

(2) 「学習の自律性」と特別活動との関連
 自発的で自治的な活動を行う習慣を身に付けるには、子どもたちが常に学校や学級の諸課題に目を向け、自分たちで解決できないかという課題意識を持つことが大切です。例えば、「教室内にいつもゴミが落ちている。」「机が乱雑である。」「掲示物がいたずらされる。」等の生活上の課題が現実にあることを認識し、その解決のために協力し合っていこうという生活向上の意欲を持つことが大切です。
 このことは、「特別活動」の目標の一つです。学校では、「学級・ホームルーム活動」「児童・生徒会活動」「学校行事」等において、日常的に、生活の向上のために自分たちで活動の方向性やルールを決め、協力し合って目標を達成していこうという意欲を育てようとしています。この特別活動における意欲の育成が、学習活動の意欲の育成の基礎になっていることにもっと光を当てることが大切です。

(3) 集団活動としての学習活動
 「子どもたちは行事にはよく取り組むのに、その成果が学習(授業)に生かされない。」という声をよく耳にします。その要因は多様で、それぞれに丁寧な考察が必要ですが、ここで強調しておきたいことは、教師は、活動の結果だけでなく、そのプロセスを重視した指導と評価を行い、子どもたちが達成感や自己有用感を味わうことが大切であるということです。これが意欲の原動力になります。中学校の「特別活動」の評価の観点と趣旨を例にあげて考えてみたいと思います。

1 集団活動や生活への関心・意欲・態度
  学級や学校の集団や自己の生活に関心をもち、望ましい人間関係を築きながら、
    積極的に集団活動や自己の生活の充実と向上に取り組もうとする。

2 集団や社会の一員としての思考・判断・実践
  集団や社会の一員としての役割を自覚し、望ましい人間関係を築きながら、
    集団生活や自己の生活の充実と向上について考え、判断し、自己を生かして実践している。

3 集団活動や生活についての知識・理解
  集団活動の意義、よりよい生活を築くために集団として意見をまとめる話し合い活動の仕方、
    自己の健全な生活の在り方などについて理解している。 

 文中の「集団活動」を「学習活動」に置き換えて考えてみましょう。望ましい学習活動を考えるに当たって大切な視点が見えてきます。学習を「個」のレベルだけでなく、「集団」のレベルでの活動として捉える視点です。「集団」の中で、いかに一人一人の子どもが、課題を自分のものとして捉え、課題解決の意欲を持って、主体的、探究的、協働的に関わり合いながら学習に取り組むか。そして、教師と子ども、子どもと子ども同士の共感関係の構築等の学習環境をいかに教師が整えるか、等が重要なことが改めて浮かび上がってきます。

 余談ですが、上記の文の内容を「家庭」「家庭生活」の文脈に置き換えてみると、「学習の自律性」の土台を育てる家庭の在り方が見えてきそうです。

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