カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2014年12月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもから学ぶこと

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◇ 所長だより ◇

授業研究の方法(1)
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月から何回かにわたって「授業研究の方法」を紹介します。まずは、ワークショップ型授業研究です、

 村川雅弘らは、ワークショップ型授業研究を全国各地の学校や教育センターで展開しています。もちろん、そのねらいは、授業改善のためです。そして、その手法は次のとおりです。

@授業参観者は、授業について気づいたことを付箋に書きます。その場合に、参観中に書く方法と参観後に書く方法があります。前者の場合は、事前に配布し、書く約束(例えば、付箋の色と記述内容=「よかった点は黄色」「問題や改善すべき点はブルー」「アドバイスはピンク」など)を伝えておく必要があります。後者では、配布された授業案や自分のノートにメモしておき、ワークショップの前に付箋に転記します。もちろん、それぞれの方法には長所と短所があります。

A授業参観者が小グループ(3〜5名)に分かれて、書かれた付箋を整理します。なお、整理の仕方にはいくつかの方法があります。ここでは、「KJ法」「短冊方式」「マトリックス法」を紹介します。
 「KJ法」は、文化人類学者の川喜田二郎によって開発されたもので、野外で観察して得た情報を整理して、新たな発見を引き出そうとする手法です。なお、授業研究では、同じような記述内容の付箋を一まとめにして線で囲み、小見出しをつけます。次に、このようにグループ化された付箋の関係を分析して、その関係を矢印等でしめします。
 「短冊方式」は、KJ法を簡略化したものです。各自が書いた付箋の簡単なグループ分けが終わった時点で、KJ法による構造化まで行わずに、代表的な記述やポイントを短冊に書きます。そうすることによって、時間が短縮されるだけでなく、各グループの結果を学校全体で集約するのに有効です。
 「マトリックス法」は、模造紙の行(タテ)の部分を「成果やよかった点」「問題点や改善すべき点」「助言・手だて」とし、列(ヨコ)の部分を「授業分析の視点(例えば、子ども同士のかかわり、学習意欲の喚起、その他)」とします。そして、参観者は各自が書いた付箋を該当するセル内に置き、付箋の整理、構造化を図ります。

B各グループがつくり上げた成果物(付箋を構造化したもの)をたとえ短時間でもよいからすべてのグループが発表し、学校全体のメンバーで共通理解します。その際、発表者だけが前にでるのではなく、グループ・メンバー全員で発表に臨みます。

 そして、ワークショップ後には、授業改善プランができ上がっていることが大切です。

(参考文献)
村川雅弘(2010)『「ワークショップ型校内研修」で学校が変わる 学校を変える』教育開発研究所

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◇ 教育時事アラカルト ◇

学校の騒音問題
教職教育開発センター教授  坂田 仰

 「子どもの声がうるさい」。「部活の声出しをやめて欲しい」。最近,こんな苦情が増えているという。学校の騒音問題である。そのうち,学校が迷惑施設として,廃校要求を突きつけられる時代が来るかもしれない。実際,東京都下の公園について,子どもの遊ぶ声がうるさいとして,公園の使用停止が裁判所に持ち込まれている。

 訴えたのは,60代の女性である。公園の噴水で遊ぶ子どもの声や,スケートボードの音などにより,騒音被害を受けているとして差し止めを求めた事案である(「西東京公園訴訟」東京地方裁判所八王子支部決定平成19年10月1日)。これに対し裁判所は,仮処分として噴水を止めるよう命じた。公園の設置者が,近隣住民に対して騒音について説明をし,理解を得たという明白な証拠がないという点が特に問題視された。そして,子どもの発する歓声等が,東京都の環境確保条例の基準値である50デシベルを超える状態で,噴水を使用してはならないとしたのである。

 同様の事例は,埼玉県下でも起きている。在日ブラジル人の子どもを多数受け入れている施設が運営しているフットサル場の騒音が問題となった事案である。判決は,騒音のレベルが環境基準をわずかに上回っているものの,これによって直ちに騒音が受忍限度を超えるとはいえないとして,地域住民の訴えを退けた。だが,この施設は,在日ブラジル人の子どもたちの教育機関としての役割を果たし,地域社会にも貢献してきた。にもかかわらず,こういった訴訟が提起される。施設の公共性が全ての地域住民に受け容れられる訳ではないこと,言い換えるならば,施設の価値は個々の住民によって評価が分かれることを見落としてはならないであろう。

 学校もまた例外ではない。教職員は,学校が地域社会にとって不可欠な存在と考えている。しかし,子どものいない地域住民にとって,この考えは自明とは言えない。教職員は,子どものはしゃぐ様子や歓声が,誰の目にも「好ましいもの」と映る時代が過去のものとなったということを強く意識しなければならない。

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◇ 子どもから学ぶこと ◇

修学旅行の夜
教職教育開発センター客員研究員 木村俊彦

今月から3回程、「教科外」に関する内容を書いてみます。

第一回は、平成2年度に実施した「修学旅行」を取り上げました。当時の6年担任4名の目指す学年方針の達成に向けて、実行委員会(年間10種類を用意)制を活用することにしました。各児童は自分の好みやスケジュールに合わせて、設定された10個の中の一つを選択して取り組みます。「修学旅行実行委員会」もその中の一つでした。川崎市立小学校(113校)は梯団を組んで修学旅行を行っているため学校独自で決定できる内容は限られるのですが、裁量可能な場面について実行委員会が中心になり計画を立て運営していくというものです。

@専用列車で隣り合わせた学校は俳句作りの学習をしながら車中を過ごしているのと対照的に、本校は乗車するやいなや(おやつ・ゲーム・おしゃべり)に時間を費やした旅を満喫していました。それは実行委員会で決定された車中での過ごし方「仲良く・他者に迷惑をかけずに自由な時間を過ごす」という内容に従ったものだからなのです。一時間を過ぎた頃、通路やボックス席の床にはお菓子をこぼした後が見られ始めました。すぐに実行委員を集め、「この状態をどう考えれば良いのかな?」と投げかけてみました。早速実行委員による話し合いが行われ、その結果が全児童に伝えられました。すぐにゴミは跡形も見られない状態になりましたが、目的地に着くまでおやつタイムは続きました。帰路の車中も往路同様(おやつ・ゲーム・おしゃべり)の3時間でしたが、到着までゴミのかけらを見かけることはありませんでした。

A「就寝」ではなく、「消灯」と書かれた日程表が作られました。(電気を消すこと)と(寝る人の邪魔をしないこと)の厳守です。夜中の見回りの際、ある部屋で何人かが起きている気配を感じたのですが、やっと聞き取れるくらいのひそひそ話なのです。だいぶ遅い時刻でもありどうしようか迷った挙げ句、「お休み」とだけつぶやいてその場を去りました。10個の一つである「卒業文集実行委員会」では「小学校生活で一番印象に残った内容を中心に書く」と決定していましたが、私のクラスでは二人が「修学旅行の夜」を取り上げ、内容もほとんど同じものでした。「先生は、私達が起きていたことに気付いていたはずなのに、『おやすみ』とだけ言って帰って行った。信用されていることが嬉しかった。本当にありがとう」というものです。

B三つめは小遣いです。実行委員会は各クラスの学級会に「昨年通りの金額」で提案しました。しかし、各クラスから持ち寄られた額は、昨年までの1500円から5000円になっていました。この結果を受け、様々な考えを持った友達や各家庭の思い・小遣いの意味などたくさんの課題を話し合い、最終的には2000円以内という結論に至りました。

子どもを主役として学習させるというのは、時間がかかり我慢の連続でもあります。本当に難しいものです。

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