カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2019年10月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 児童・生徒の理解と指導 ―教師の「視点取得能力」の獲得と育成を中心に―
(3)教育時事アラカルト


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◇ 所長だより ◇

川崎市との学校支援事業と日本女子大学(5)

           教職教育開発センター所長  田部俊充

 日本女子大学総合研究所の研究課題を川崎市との学校支援事業を核として、2期にわたり行い、前号で1期目の活動を紹介しました。

 2期目の「日本女子大学における学生を主体とした地域連携活動の活性化のための調査・研究」(日本女子大学総合研究所研究課題61、2015年4月1日〜2018年3月31日)では、1期目の「大学の総合力を発揮した地域連携活動の試み」(研究課題54)の活動を継続するとともに、「地域連携センター(仮)」の設立に向けて調査・研究を進め、学生を主体とした地域連携活動の活性化のためのeポートフォリオの導入の検討を行いました。

@ 学校研究協力事業は、川崎市多摩区、東京都狛江市、本学附属幼小、私立幼稚園を対象に10年目を迎え、包括的連携協定なども進展を見せました。教育学科田部ゼミでは附属豊明小学校との授業を通した研究協力を進めました。

A 西生田地区地域交流事業は、情報教育研究室を中心に各地域連携団体のインターネット上での公開、学生主体の地域交流組織SAKU LABOおよび単位化した「ICT活用とプロジェクト演習」における取り組みのサポートを進めました。

B 目白地区地域交流事業として、住居学科薬袋ゼミでは、雑司が谷地区の地域活動の研究及び振興を図ると共に、これまでの成果をまとめました。

C 地域コミュニティー活性化事業として、社会福祉学科黒岩ゼミでは、近隣の寺尾台団地においてコミュニティカフェやイベントを継続的に実施するための仕組みづくりを考えました。

  eポートフォリオについては、数物科学科の小川先生を中心に学生を主体とした地域連携活動の活性化を図るためにその可能性の調査・研究を行いました。(続く)

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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

【7】コンピテンシーとコンテンツのバランス

(1) 従来のコンテンツに重点を置いた学習指導の見直し
 先月号までに、新しい学習指導要領は「教科等横断的な視点からの教育課程の編成」や「総合的な学習の時間を軸とした教育課程の編成」を強く打ち出していることを述べました。未知な課題にも対応できる、これからの時代に必要とされる資質・能力を育てるには、各教科がバラバラにではなく、それぞれ連関しながら計画的に学習指導を進めることが必要だという考え方です。
 このような「教科等横断的な視点からの教育課程の編成」の重要性はこれまでも強調されてきました。しかし、現在、必ずしもうまくいっているとは限りません。その理由は、なぜ総合的な学習の時間が学校現場でうまく機能してこなかったか、という理由と重なります。
(2) 総合的な学習の時間がうまくいっていない理由
 総合的な学習の時間の趣旨は、
「各教科の文脈で身に付けた様々な能力を教科等横断的な学びを通して実社会の様々な場面で活用できる汎用的な能力を育成する」(平成28年3月24日 教育課程部会 生活・総合的な学習の時間 ワーキンググループ資料7より)
というものです。
 趣旨は良いのになぜ現実にはうまくいかないのか。

 その大きな要因の一つは、「各教科の文脈で身に付けた様々な能力」とは何かということが明確にされてこなかったことにあります。
 学校現場では、「各教科の文脈で身に付けた様々な能力」を「知識・技能」と捉えたのです。
 この「様々な能力」には「知識・技能」ばかりではなく、各教科等の固有の視点からの「問題解決のために多面的・多角的に考察・検証して論理的に表現する力」等も含まれるのですが、それが明確にされていなかったのです。
 従来の「教科カリキュラム」(各教科)の枠をそのままにして、そこに「経験カリキュラム」(総合的な学習の時間)を取り入れてしまったのです。

 従来の「教科カリキュラム 」では、各教科がそれぞれ独立して教科固有の目標と指導内容・方法等を設定してきました。従って、総合的な学習の時間で活用するものは各教科で身に付けた個別の教科の知識・技能でした。
 しかし、知識・技能という部品を寄せ集めても、変化の激しい社会を生きて行くために必要な汎用的な能力の育成にはならないのです。

(3) コンテンツからコンピテンシーへの発想の転換
 鵜殿篤(2017)※1は、「教科等横断的な視点」について学校現場だけでなく、「雑誌やネットの記事」にも「勘違い」があるとしています。

「『1学期は音楽で海の歌をやるから、社会では海産物を扱って、数学では海の面積を求めて、理科では海水の塩分濃度を計って、体育では水泳をして、国語では『スイミー』でも読むか.....』というのはありがちな勘違いです。
 こうやって足並みを揃えることは、悪いというわけではないのですが、文部科学省が求めている『教科等横断的な視点』とはズレています。どこがズレているかというと、コンテンツによって足並みを揃えようとしているところです。」

 そして、今回の学習指導要領の土台にある考えについては、「コンテンツ(内容)からコンピテンシー(能力)への転換」だと述べ、これまでの「知識重視の教育」を反省し、「資質・能力を育成する教育」へと転換するのが文部科学省の狙いであるとしています。

(4) コンピテンシーとコンテンツのバランスの取れた教育課程の編成の鍵
 本研究では、前述した鵜殿篤(2017)の論を踏まえながら、コンピテンシーとコンテンツのバランスの取れた教科等横断的な教育課程の編成を提唱したいと考えます。
 その詳細については後段で述べることとし、本章では、そのような教育課程を編成する上で鍵となるものとして文部科学省は「見方・考え方」という理念を打ち出したということを先月号に続いて再度述べたいと思います。

 新しい学習指導要領では、各教科等は「実社会の様々な場面で活用できる汎用的な能力の育成」という共通の目標に向かって、それぞれ固有の立場からアプローチしているとして、現在確立している教科カリキュラムの枠組みは保ちながらも、個別の目標、指導内容・方法等を設定しています。
 しかし、それだけでは従来の「知識重視の教育」の域から脱することはできません。
 そこで、各教科等を束ねる理念として、各教科等の「見方・考え方」という考え方が導入されたのです。先月号でも述べたように、「見方・考え方」を「各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすもの」として「教科等横断的な視点からの教育課程の編成」を各学校が推進できるための布石としたのです。
 そのようにすることで各教科等は、個別に(バラバラに)それぞれの目標に向かうのではなく、それぞれの教科等固有の特質を生かしながら、「見方・考え方」という視点(切り口)から「確かな学力」の育成という共通の目標に向かってアプローチしているという考え方を強調し、確立しておきたいと考えたのです。

 各教科等における固有の力(計算力や語彙力等)と、それらを活用して主体的・協働的に問題解決するために必要な批判的(多面的・多角的・分析的)な思考力や論理的に構成できる判断力、表現力等の育成を体系的に進めるためにも、各教科等を束ねる「見方・考え方」という考え方が必要だとしたのです。

 このように、今回の学習指導要領の改訂において、各教科等の「見方・考え方」という考え方が打ち出された背景には、各教科等はそれぞれが単独に(バラバラに)教科等の個別の目標の達成を目指しているのではなく、「変化の激しい社会の中で生きていくために必要な(汎用的な問題解決能力の育成」という共通の目標に向かって、それぞれ教科等特有の切り口からアプローチしているという図式を描いていることを強調したかったという文科省の思惑があるように思われます。(次号に続く)

【参考文献】
※1 鵜殿篤: 「【教育課程編成の基礎】教科等横断的な視点とは何か?」: 眼鏡文化史研究室(http://meganeculture.boo.jp/2017/10/28/), 2007年

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◇ 教育時事アラカルト ◇

アレルギーと給食指導

           教職教育開発センター教授  坂田 仰

 アレルギー疾患を有した児童・生徒の数が増加している。
 独立行政法人日本スポーツ振興センターの報告書によれば、平成17年度から平成20年度にかけて、学校給食における食物アレルギー事例が804件発生しているという。特に注目したいのは、複数回発生した事例である。
 調査の対象となった804件から、「同一学校・氏名が複数あるものを抽出した」結果、「6ヶ月間内に複数回災害が起きている児童生徒」が28名、「3回災害が発生している児童生徒」が8名、「4回災害が発生している児童生徒」が2名いる。学校の危機管理意識の欠如が表れていると見るべきである。

 学校給食に起因するアレルギー事故については、小学校学校給食蕎麦アレルギー事故損害賠償請求訴訟が先例としての役割を果たしている(札幌地方裁判所判決平成4年3月30日)。
 公立小学校に在籍していた6年生が、教員の許可を得ずに学校給食で出された蕎麦を食べた。アレルギーの初期症状が出たことを知った担任教員は、保護者に連絡の上、帰宅させたが、途中、アレルギーぜんそくの発作が激しくなり、異物誤飲により死亡することになった事案である。

 判決は、学校設置者(教育委員会)と担任教員の過失が競合し、事故が発生したと判断している。
 判決は、担任教員は、アレルギー症状が出た旨の訴えを受けていたのだから、養護教諭の意見を聞くとか、下校させる際、自らか他の職員を同伴させる等の措置を取るべきであったとする。
 まだアレルギー疾患に対する理解が学校現場に浸透する以前の事案とはいえ、既に蕎麦アレルギーの重篤さを警告する書籍等が出版されていたことからすると、軽率との評価を免れないだろう。

 ただ、保護者の側にも問題がないわけではない。保護者は、当日、学校から依頼されていた代替食を持たせていなかった。しかも、電話越しに発作の説明を受けただけで、一人で帰宅させることを承諾している。子どもの病状を最もよく理解しているはずの保護者の行動として、首をかしげたくなる部分がある。

 最終的に、控訴審において和解が成立している。和解金額は約800万円である。この金額を高いとみるか低いとみるかは、観点によって意見が分かれるものと考えられる。
 だが、一人で児童を帰宅させた担任教員、それを受け容れた保護者、双方にある種の「甘さ」が存在したことだけは確かと言えよう。

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