カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2019年7月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 児童・生徒の理解と指導 ―教師の「視点取得能力」の獲得と育成を中心に―


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◇ 所長だより ◇

川崎市との学校支援事業と日本女子大学(2)

           教職教育開発センター所長  田部俊充

 川崎市との学校支援事業が大きく飛躍するきっかけとなったのは、2005年に始まった同市多摩区と専修大学、明治大学、日本女子大学との「多摩区3大学連携事業」でした。
 川崎市の仲介で、多摩区にある3つの大学と独自の活動を始めました。
 学内の熱心な先生方や西生田学務課をはじめとする方々との交流により、多様な可能性を知ることができました。

 2006年に前号で紹介した「学校教育ボランティア学校サポート事業」が始まり、2009年には、心理学科の久東光代先生が読売ランド前駅近くの空き店舗を利用した交流スペース「サクラボ(SAKU LABO)」を立ち上げ、多数の学生が活き活きと活動に参加しました。
 2011年9月の新宿・タカシマヤで開催された「大学は美味しい!!」フェアでも、学生たちの活躍が際立ちました。

 2010年1月23日には、多摩区3大学共同シンポジウム『地域の共有財産としての「地図」〜未来へのロードマップ〜』として、片桐芳雄人間社会学部長(当時)、熊木洋太専修大学教授、山本俊哉明治大学教授、田中雅文教育学科教授にご登壇いただいたのも後の活動につながりました。

 私のゼミでも、区内の生田緑地にある日本民家園の協力を得て、地域の児童・保護者とのマップづくりを楽しみました。
 緑地内の噴水や科学館を回ってインスタントカメラで写真を撮り、模造紙大の地図に貼り付けて、保護者も児童も学生も一緒に発表会を行ったり、その成果を川崎市の発表会で発表したのを昨日のように思い出します。ゼミ生が一丸となって取り組むことが出来て一体感が出ました。(続く)

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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

【4】キュレーション

(1) Web業界におけるキュレーション
 キュレーション(curation)は、ICT用語として
「人手で情報やコンテンツを収集・整理し、それによって新たな価値や意味を付与して共有すること」(IT用語辞典バイナリ)
の意味でよく使われます。
 一般に、美術館などで企画展を組む「キュレーター」(curator)は、「学芸員」のことで、企画展において、特定のテーマに沿って作品を収集し、それぞれの作品を特定の文脈の中に位置付け、観客に紹介する、といった役割を担っています。

 ICTディレクターの横田一輝氏※1は、
「キュレーターが館内の展示物を整理して見やすくするのと同様に、インターネット上のあらゆる情報を、キュレーター独自の価値判断で整理するのがキュレーションであり、キュレーションされたものは、プログラムなどで自動的に収集する従来の検索サービスの検索結果と比べて、『不要なものが少ない』『センスが良い』などといった理由から人気が高まっている。
 関連サイトのURLをまとめたリンク集もキュレーションの一つではあるが、代表的なキュレーションサイトには、Twitterのつぶやきをまとめる『Togetter』や、検索サービス『NAVER』が開始した『NAVERまとめ』などがある」
「現在は、GoogleやYahooのような自動的に情報を収集する検索サービスが主流だが、自動化による画一的な情報収集より、手動によってまとめられた情報は、同じ価値観を持つ人々にとってありがたいものである。キュレーションサービスが普及し、更に充実すれば、検索サービスの手法の主流が変わるかもしれない」
と述べています。

(2) 教育におけるキュレーション
 神奈川県立生命の星・地球博物館の主任学芸員である田口公則氏※2は、
「(現在の子どもたちは)身近なモノ・コトについて知識や情報は持ち得ても、それらの関係性まで深く考える機会は少ないかもしれません。手軽に情報検索ができる現在、知識・情報を多く持つこともさることながら、事物・現象から関係性を把握する力が重要と考えます」
と述べ、博物館の展示を活用して資料(事物・現象(モノ・コト))の編集力を養うことを提唱しています。

 続けて、田口氏は以下のようにも述べています。
「博物館では、それぞれのテーマに沿って資料(モノ)を蓄積しています。また、資料をベースとした活動、『資料の収集』『資料の整理・保管』『調査・研究』『教育・普及』が博物館の機能です。別の言い方をすれば、“資料の編集”と言ってもいいでしょう」
「博物館の展示が資料の関係性を示しているのであれば、その関係性を学ぶ場として展示を利用できるはずです」
「しかし、学芸員の視点を持ってその関係性を見つけることは専門家でなければ難しいこともあるでしょう。何も博物館が示す展示ストーリーに準じて学ぶばかりではありません」
「展示ストーリーを離れて自分のオリジナルの関係性を見つける遊びも一つの方法です。展示の構成を一度バラバラにしてから、各要素について自分なりの関係性を見いだしていくパズルの楽しみがあってもよいでしょう」
「展示室で気になるものにカメラを向けることで、(略)撮った画像は後から自分が見たものをふりかえる材料になります。ずらりと写真を並べ、気になった展示にメモを付けたり、写真をグルーピングといった作業は、自分の視点によるモノ・コトの関係性を見つける手立てになりそうです」

(3) キュレーションと総合的な学習の時間
 田口氏は、あるテーマを持って「資料の収集」「資料の整理・保管」「調査・研究」「教育・普及」が行なわれている博物館の展示を活用して、児童・生徒が自分なりに資料を編集してオリジナルの関係性を見つける学習活動の推進を提言しています。

 この考え方は、「探究的な見方・考え方」を働かせて横断的・総合的に学習を行う総合的な学習の時間が目指す「資質・能力」の一つの「実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする」と同じものです。

 田口氏の提言は、教科等の枠を超えた教育活動の代表例としてかなり有効なものになると思われます。
 扱う「資料」(モノ・コト、情報等)は、課題解決のために必要な初めて見る新しい資料(新情報)でも、既知の資料(旧情報)、例えば、児童生徒がそれまでに作ってきた自分自身の作品や作文、調査結果等の成果物でもよいでしょう。

 児童・生徒は、ある課題の解決のために、あるテーマを設定し、それに沿って資料を「収集」「整理」「調査」し、それらの資料に新たな意味付けや価値付けを行い、「発信」し、「共有」するというプロセスを進みます。
 これは「キュレーション」と同様のプロセスです。

「キュレーション」は前述のようにICT用語の一つですが、これからの社会を柔軟にたくましく生きる児童・生徒に必要な資質・能力を育成する上での重要な教育キーワードになると考えます。(次号に続く)

【参考文献】
※1 コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-189130)
※2 田口公則:「モノ・コトの関係性を見抜く視点−博物館の展示で編集力を養う−」:Educo No.36,教育出版,2015


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