カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2016年3月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-

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◇ 所長だより ◇

ICTを活用した授業デザイン
         教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今年の2月29日(月)に、東京都板橋区立中台中学校で、「生徒の主体的な学びを重視した授業の工夫・改善」をテーマとした研究発表会が、区内外から300名を超える参観者を得て行われました。今回は、「いたばしの教育ビジョン研究奨励校」「板橋区アドバンススクール」「パナソニック教育財団特別研究指定校」などの様々な研究指定を受けての成果発表会でした。なお、本校は、今年の4月から、新校舎で「教科センター方式」が導入されます。

 筆者(吉崎)は、パナソニック教育財団の研究アドバイザーとして、本校の研究(特に、教科学習におけるICT活用のあり方)を指導・助言しています。そして、筆者は、当財団のホームページに次のようなコメントを寄せました。

本校の研究課題は、「生徒の主体的な学びを重視した授業の工夫・改善―教科センター方式の導入と活用を通して―」である。その際、平成28年4月からの新校舎での本格的な「教科センター方式の導入」において、ICTを授業の中でどのように有効に活用するのかということに関係者の期待が集まっている。ただし、現在は、プレハブの仮校舎での教育実践という厳しい状況にある。しかし、9月以降、美術科(講師対応のため)を除くすべての教科で精力的な授業研究が展開されている。本校の活動報告には、21の授業実践例が紹介されている。そして、それらの授業実践において、タブレット端末、電子黒板、実物投影機、デジタル教科書、デジタル教材などのICTが効果的に活用されている。7月までのICT活用の実態は、私(吉崎)がいう第一段階(とにかく授業でICTを活用する段階)にとどまっていたが、8月以降は、第二段階(授業場面に応じてICTを有効に活用する段階)に達している。なお、ここでいう授業場面とは、「導入・展開・まとめ」という学習場面と、「個別・グループ・一斉学習」という学習形態の二つの視点の組み合わせを意味する。そこで、今後、本校に求められることは、これら二つの視点(学習場面、学習形態)をマトリックスにして、9つのセル内に「ICT活用の手だて」を位置づけることである。さらに、研究テーマとの関連で、「教科特有のICT活用」と「教科共通のICT活用」という新たな視点を検討するために、「教科別のマトリックス表」と「教科横断型のマトリックス表」を作成することが求められる。これらの表ができれば、本校ばかりでなく、他校の先生方にとっても、「ICTを活用した授業デザイン」のための有効な手がかりになると考える。大いに期待したい。

 なお、当日の研究発表会では、一斉学習の学習形態が、さらに「教師がICTを活用する一斉学習」と「生徒がICTを活用する一斉学習」の2つに分けられて、授業実践事例が的確に位置づけられていました。つまり、私が指導・助言した以上の提案がなされていました。実にすばらしい研究内容だといえます。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

新任教員へのかかわり方‐精神的負荷に注意
         教職教育開発センター教授 坂田 仰

 教員の大量採用が続いている。東京や大阪等,都市部の自治体では,同一校に新任教員が複数配属され,いきなり幾つもの校務分掌を掛け持ちするというのも当たり前になっている。ベテラン教員,中堅教員が少なく,若手教員ばかり。十分な支援体制を組むことは困難である。畢竟,新任教員に強い負荷がかかることになる。

 先日判決が下された,西東京市公立小学校教員自殺公務外災害認定処分取消訴訟は,仕事の負荷がに耐えかねた新任教員が自ら命を絶った事案である(東京地方裁判所判決平成28年2月29日)。2006(平成18)年,新任の女性教員がうつ病に罹患し,自殺を遂げるという事件が発生した。遺族は,職務に関わる強い負荷が原因であるとして公務災害の認定を申請した。しかし,これが認められなかったため,訴訟が提起されることになった。

 訴えに対し,判決は,うつ病の発症が公務に原因があることを認める判断を示した。その上で,「一旦病気休暇を取得したものの,静養が不十分なまま,うつ病が治癒しない状態で復帰して,再び業務による負荷を受けるに至った」等として,公務と自殺との因果関係を認め,公務外災害認定処分の取消を命じている。

 判決によれば,自殺の背後には「職場等の支援が不足していた」ことがあるという。特に問題があったとされているのは,校長と校外における初任者研修の指導者の言動である。

 校長は,学級経営上のトラブルを抱える新任教員に対し,指導,叱責を繰り返していた。教員は,それを気に病み,校長への報告,相談を精神的負担に感じていたとされている。一方,初任者研修においては,「病休・欠勤は給料泥棒」,「いつでもクビにできる」といった趣旨の発言がなされていたという。これらが,精神疾患を理由とした休職が不採用に繋がるという精神的負荷となり,新任教員を追い込んでいく。この発言が本当であったとするならば,発言者の資質を疑わざるを得ない。研修の目的をはき違えた暴挙といえる。

 教員の資質には,当然,個人差が存在している。精神的に弱い教員が存在することは,誰もが知るところであろう。指導にあたる者は,資質,性格を勘案し,「個に応じた指導」を心掛けていく必要があろう。

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◇ 子どもたちが自律的な学習者になるために  ◇
    -アクティブ・ラーニングの勧め- (No.12)
         家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

まとめ

 教職課程を履修している学生の中には、企業に進む学生も多くいます。4年生最後の授業である教職実践演習で、私は「学ぶことと社会のつながりを意識した教育」をどのように考えるかを学生に投げかけました。その中で学生が特に興味を引いたテーマは、「自律的な学習者の育成」「アクティブ・ラーニング」「批判的思考力」「共感」「自尊感情」「柔らかい組織」というものでした。

 「自律的な学習者の育成」の授業で学生が特に関心を持ったのは、「『自律的』の意味に注意すべきである。自分で学習環境を整えていく上で、必要に応じて他から助けを求めることができる力も『自律的』の重要な要素である。」という話でした。他から助けを求めることができることも「力」であるという発想が学生たちには新鮮だったようです。

 「アクティブ・ラーニング」の授業では、「教師と子ども、子どもと子ども同士という三角形の関わりの中で、主体的・協働的・探究的に学ぶ学び方そのものが社会とのつながりを意識したものである。」ということに関心を持ったようです。

 「批判的思考力」の授業では、「批判的思考力とは、多様な観点から物事を考察する力。前提を鵜呑みにせず、多角的、多面的に物事を捉え、本質を見抜こうとダブル・ループで考える力もその一つである。」という話の中で「ダブル・ループ」という言葉が気に入ったようです。

 「共感」「自尊感情」の授業では、授業において子どもたちが意欲を持って学習に取り組むためには、「共感」や、自己有用感・自己存在感等の「自尊感情」といった情意的な要素を大切にすることが極めて重要なことを教育実習で身を以て実感したと述べていました。

 「柔らかい組織」の授業では、学校と企業の組織構造について話題にしました。「私は校長の時に、教員ばかりでなく、栄養士さんも事務主事さんも用務主事さんも一緒に授業研究ができる学校づくりを目指した。職種を超えすべての人が、高いレベルで目標を共有していることが、学校教育の充実・活性化につながると考えたからだ。」という話をしました。学生たちは小グループに分かれ、学校や企業においてどのような組織が望ましいかについて協議しました。そして「学校でも企業でも柔らかい組織が望ましい。大切なのは組織の形や枠組みを変えることではない。枠組みを超えた強い連帯感と活発な意見交換である。組織の内外を問わず、意見交換を活発に行い、常に呼吸を続ける生命体としての組織である。」という結論に達しました。

 私は、学生たちがこれらのことを学んで卒業していくことを嬉しく思います。「先行き不透明な社会をたくましく、柔軟に生きていくために子どもたちに『生きる力』を育てることが大切である。」と学生たちに話してきました。実は、私の頭の中では、「子どもたち」の中にこの学生たちも含まれているのです。大学を巣立っていく学生たちには、ぜひこの動乱の世の中をたくましく、かつ、柔軟に生きていき、次の新しい世代の若者を育てていってほしいと心から願っています。

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