カモミールnetマガジン バックナンバー(ダイジェスト版)

 2015年7月号 

◆ 目次 ◆ ----------------------------------------------------------------------

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-


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◇ 所長だより ◇

授業分析の方法
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 わが国の授業研究をリードしてきた研究者の一人が、名古屋大学名誉教授の重松鷹泰氏です。重松は、授業分析のパイオニアとして、わが国の授業研究をリードしてきました。そして、重松の影響を受けて、名古屋大学は、八田昭平氏、日比裕氏、的場正美氏、柴田好章氏などの多くの優れた授業研究者を輩出しました。そして、重松の代表的な著書が、『授業分析の方法』明治図書1975年です。

 まず、授業分析のねらいについて、次のように述べています。
 「授業分析が授業そのもの改善すなわち指導法それ自身の向上を狙うのは当然である。授業が教師自身の意図するもの(教育目標)に対し最も効果ある活動(過程)となるようにしようとすることは、授業分析の究極の狙いである。」

 このように、重松は、「授業分析は授業改善のためにある」と明言しています。

 次に、授業分析の原理として、次の4つをあげています。
 1つ目は、「既成の仮説の排除」です。つまり、授業分析においては、従来の仮説に依存することをやめて、授業の流れの中にあらわれてきた諸事実の関連を合理的に説明することだということです。

 2つ目は、「中核的関連の考察」です。つまり、教師や子どもたちの活動の最も活発な個所を突破口として授業分析を行うことが必要だということです。

 3つ目は、「構造的な把握」です。つまり、授業は、教師の指導意図の変化にしたがって、これをいくつかの大きな分節に、その大きな分節はさらにいくつかの小さな分節に、分けることができるということです。そして、これらの分節の根底に作用している要因(教師の意図、教材の特質、子ども意欲など)を考究していくことが、まさに構造的な把握であるという。

 4つ目は、「思考体制の動きの追究」です。つまり、授業分析そのものが、「思考体制の動き」の追究であるという。なお、ここでいう「思考体制」は授業における教師や子どもの個性的な思考の仕方を意味し、「思考体制の動き」は授業の事態のもとで教師や子どもの思考の仕方はさまざまに発展(変化)することを意味しています。

 さらに、授業分析の手順として、次の4つをあげています。
 1つ目は、「分節に分ける」です。つまり、分析の最初の作業は、授業の流れをいくつかの分節と小節とに区分することです。なお、分節は、教師の指導意図と子どもたちの追究の仕方(問題意識)との両面から考えていくべきであるということです。

 2つ目は、「授業の構造を考える」です。つまり、分節間の関係を図示することです。その際、授業の流れを形成している分節とその流れからそれている分節を区別することがポイントとなります。

 3つ目は、「問題点をあげる」です。つまり、授業を観察しているときにも、分析しているときにもさまざまな問題が出てくるということです。そこで、その問題が、分析しようとしている授業の進み方のどこに結び付いているのか、授業のどこを検討すればその問題を解決する手がかりが得られるのか考えることが大切です。

 4つ目は、「分析する分節をえらぶ」です。つまり、厳密な分析は非常な労力と時間を要するので、そこでそのような分析を全分節に加えることよりも、その中核的な分節に集中して、他の分節はそれとの関連で分析していく方法が賢明であるということです。

 これらの記述内容を考慮したとき、重松のいう「授業分析の考え方と方法」が、今日の授業分析や授業研究に大きな影響をおよぼしていることを痛感させられます。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

プール指導と記録用カメラの設置
教職教育開発センター教授 坂田 仰

 京都市が,市立小学校全校(166校)のプールに,記録用カメラを設置したことが話題となっている。プール指導中に事故が発生した際,原因の究明に役立てるためだという。

 京都市立小学校では,2012(平成24)年7月,1年生の女児が死亡するプール事故が起きている(京都地方裁判所判決平成26年3月11日)。事故が起きたのは,夏季プール学習の際であった。当日,3名の教員の指導の下,1年生から3年生まで学年混合で,合計69名の児童がプールに入っていた。ビート板を浮かせて行われた自由遊泳の時間,溺れてぐったりとなっている児童が発見されることになる。京都市は,第三者調員会(事故調)を設置し,事故原因の真相究明を目指した。だが,結局,原因の完全な特定は出来ていない。

 損害賠償を求める訴訟においては,最深部水深が110センチメートルという,当日のプールの深さや3名の教員の監視体制が争点となった。これに対し判決は,教員の過失を認定し,京都市に対して,両親それぞれに1480万円余の支払いを命じている。

 判決が問題としたのは,教員らが,遊泳の区分措置もとらないまま,1年生の児童にとっては深いプールで,69名もの子どもを自由に遊泳させていた点である。仮に,自由遊泳を行うのであれば,3名の教員全員がそれぞれ異なる角度からプール全体を見渡せる位置を取り,すべての児童の動静に満遍なく気を配り,動きに異変のある児童を見落とすことがないよう監視する必要があったと判示している。

 プール指導には,事故の危険が常に付きまとう。そのため,小中高の区別を問わず,教員の常時監視を義務づけている学校がほとんどである。しかし,個々の教員の監視位置まで詳細にルールを決めている学校は多くはないのが実情である。記録用カメラの設置は,事故原因の究明という消極的な意味合いだけではなく,日常の教員の動きを分析するデータの提供という役割が期待される。そのデータ解析が,適正な監視体制の構築を可能とするはずである。

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◇ 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-(No.4)  ◇

(3)キュレーション学習
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

(3)「学びのプラットホーム」作り
@ 「表現・共有」の場としての役割

 個人、あるいはグループ等で調べまとめた学習成果を文化祭や学習発表会等で展示・プレゼンテーションすることは、これまでも各学校で実践してきており、一定の教育効果をあげてきました。

 しかし、これからの学校教育では、文化祭等の特定の期間だけでなく、日常的に、日々の教科学習の一環として、校内の空き教室や空いている空間(廊下等)を有効活用し、児童生徒の「表現」※1 について話し合ったり評価し合ったりして「共有」※2 することが自由にできる場を設定することが重要であると考えます。

 私は、このような場を「学びのプラットホーム」と呼び、日常的に実践することを提案します。「学びのプラットホーム」は、校内の児童生徒だけでなく、保護者・地域の方々が「ぷらっと」立ち寄り、そこに展示される児童生徒の表現を観覧することができる場とします。行き交う人たちがふと足を止め、そこに発着する情報の共有・交換が容易にできる場とします。
 ※1「表現」
児童生徒の学習成果を何らかの形で表すこと、また、表した全てのものを「表現」と捉えます。例えば、「アサガオの観察日記」も「表現」と捉えます。
 ※2「共有」
児童生徒の「表現」を見て、その意図を理解(しようと)すること、また、見ている人たちが話し合ったり、評価し合ったり、情報交換すること。例えば、中学校2年生の英語の授業のまとめを見て、1年生も理解できる。3年生はこれまでの英語の学習を振り返ることができる。ということも含みます。

A 展示の内容
 「学びのプラットホーム」で展示されるものは、児童生徒が「キュレーション」※3 の手法を活用して主体的・探究的・協働的に学習した成果物とします。児童生徒がこれまでの学習活動で集積してきた学習の成果を、児童生徒が自ら、新たなテーマや価値観、異なった見方から整理して、展示・公開したものです。例えば、中学校3年生が「命の大切さ」というテーマで展示を行おうとするとき、未知の知識や新しい情報を探し出すだけでなく、これまで自分たちが積み重ねてきた多くの作品や作文、調べ学習の成果物等の中から、「命の大切さ」に沿うもの(例えば、小学校2年生の時のカブトムシの観察日記等)をピックアップし、新たな視点からそれぞれを関連付け、価値付け、意味付け、再構成して発信する、という活動を行うことが大切です。ここで重要なのは、次のような「探究的な学習」のプロセスです。

「課題の設定」→「収集・選別 ※4」(さがす)→「まとめ・表現」(まとめる)→「共有・評価」(ひろげる)…

<参考> 米国富士通研究所の「キュレーション・ラーニング」のプロセス:「さがす」→「まとめる」→「ひろげる」※5

 この「さがす・まとめる・ひろげる」というプロセスの学習活動は、児童生徒の主体的・探究的・協働的な学習を促す新たな学習法として有効であると考えます。

 ※3「キュレーション」
 IT用語としては、人手で情報やコンテンツを収集・整理し、それによって新たな価値や意味を付与して共有することである。(IT用語辞典 BINARY)
 ※4「選別」
 「新聞社にはもともとデスクや編成といった役割の人たちがいて、その人たちが一定の選択基準を基に、何をどこに掲載するかを決めています。いわゆる「ゲートキーパー」という役割ですが、実は、どういう基準でニュースが選ばれるかについては研究があります。たとえば交通事故のニュースは余程の大事故でない限り、当然国内で起こった交通事故が優先される。あるいは、 政治問題でも生活に身近な問題が優先される。物理的、心理的距離の近さなど、いくつかの基準によってニュースの重さが決められている。こうしたプロセスを専門家が行う、あるいは集団で行うわけです。問題は選別の基準をどのように設けるかですが、新聞社のデスクや編成部の長年の勘が大切であるように、人間の直感が重要だと思います。」
(田中洋 中央大学ビジネススクール教授, 2012.10.4)
 ※5「キュレーション・ラーニング」
 「オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み」 (米国富士通研究所 2014.1)

(次号に続く。)

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