大隅正子

 

 
 
 本研究は、β-1,3-、β-1,6-およびα-1,3-グルカンとα-ガラクトマンナンから構成される分裂酵母の細胞壁の形成におけるα-1,3-グルカンの役割を解析するために、種々の細胞壁成分合成酵素の変異株を用いて比較検討し、以下の結果を得た。
 1)ガラクトマンマン合成に関わるUDP-galactose transporter欠損株、Δgms1は、細胞壁の最外層の毛状構造が短く、細胞壁の表層構造に異常を示したのに対して、β-1,3-グルカン合成酵素変異株cps1-12とα-1,3-グルカン合成酵素変異株mok1-664は、いずれも球形で、厚いルーズな細胞壁を有し、mok1-664株では、最外層の毛状構造が欠損して、グルカンネットワークが細胞表層に露出した。したがって、完全な細胞表層構築には、α-ガラクトマンナンの合成が必須であり、正常な細胞壁と細胞形態の構築には、骨格となるグルカンが、重要な役割を果たすことが明かとなった。
 2)隔壁形成過程において、cps1-12株では、一次隔壁形成時から異常が確認されたのに対して、mok1-664株では二次隔壁が厚く異常を示し、一次隔壁の形成にはβ-1,3-グルカンが重要であることが示唆された。β-1,3-グルカン合成酵素サブユニットが温度感受性を相補するts606株では、細胞成長期の細胞はナス型で、細胞壁のold end側の最外層は正常であるが、主としてグルカンからなる中央部が肥厚し、細胞壁は層状を示すが、ルーズな構造であった。また、隔壁形成の細胞では、細胞膜の陥入による一次隔壁形成が起こらないか、あるいは一次隔壁の形成が遅延し、二次隔壁成分が異常に蓄積した細胞が確認された。
 3)細胞壁グルカンの局在に関する免疫電子顕微鏡学的解析から、一次隔壁にのみ存在する直鎖β-1,3-グルカンと隔壁形成の完了時(細胞質分裂が完了)まで存在するα-1,3-グルカンとは、隔壁形成過程における役割が異なることが示唆された。
 4)β-1,3-グルカン合成酵素の1種Bgs1pの挙動をGFP-bgs1株を用いて解析した結果、Bgs1pは隔壁形成の開始直前から完了時まで隔壁の内側の細胞膜に局在し、同様に隔壁形成部位に局在するα-1,3-グルカン合成酵素Mok1pが、陥入した細胞膜の基部にも局在したのに対して、Bgs1pは陥入の先端部に特に局在した。これらの結果は、β-1,3-グルカンが一次隔壁形成を先導する役割を担うとする我々が主張する説を強く支持し、α-1,3-グルカンは、β-1,3-グルカンと共に、二次隔壁の強固なバッキングに必要であることが示唆された。
   

分裂酵母のTEM像とSEM像 細胞壁合成変異株の細胞壁と隔壁構造