宮本武典

 

 
 
 味質の識別は先ず末梢の感覚細胞レベルで甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5基本味のような味物質の化学的性質に依存した分類が行われる。一方、中枢神経系においては口腔のどこの部位で生じた味かあるいは好ましい味とそうでない味などの実際の行動に即した味質の再編成が行われる。後者は生得的にプログラムされている部分と発達過程や学習を通して可塑的に変化する部分とからなる。本研究では、先ず、神経切断や味蕾の3次元培養、味神経と味細胞の共培養し、これに電気生理学的方法を導入することによって、末梢の味質識別に深く関わっている味細胞と味神経との結合様式を探る。また、味覚嫌悪学習や味覚嗜好学習および脳内への薬物投与、局所破壊などの行動実験を通じて味質識別の不変部分と可変部分を明確にする。続いて、行動実験で得られた結果に対する脳内現象を免疫組織学的方法や電気生理学的方法を用いて分子レベルで解析・同定する。特に学習などによる可変部分については、神経細胞の後天的な増殖による可能性が高いので、細胞増殖因子や細胞分化調節因子などの検索が重要である。また、2次元電気泳動法などを用いて、学習記憶に関する未知の物質の探索を行う。