植物の茎と根の先端(茎頂と根端)には、分裂細胞の集団である頂端分裂組織が存在し、この働きによって葉原基や茎と根が作られる。一方、葉の成長や茎の節間を伸長させるには、もう1つの分裂組織である、介在分裂組織が働く。このような分裂組織は、動物にはみられない植物独特の構造であり、現生植物にみられる形態の多様性は、全てこれら分裂組織の働きの違いに負っていると考えられる。したがって分裂組織の理解なしに、植物の形態進化の解明はあり得ないといえよう。
 茎頂の頂端分裂組織は、シダ植物、裸子植物、被子植物への進化段階に伴って、始原細胞の数の増加、層状構造の発達など、大きくその構造を変化させてきた。最近の我々の研究から、茎頂構造の違いは、隣接する細胞間を貫通する原形質連絡の分布や密度、すなわち原形質連絡ネットワークに反映されていることが明らかとなった。原形質連絡は細胞質分裂時に細胞壁に形成される構造であり、また茎頂構造の違いをもたらすのは細胞分裂の方向の違いであることから、細胞分裂面の違いを制御する前期前微小管束の動行が鍵を握るであろうことが予想される。
 介在分裂組織については、単子葉植物の斑入り(斑の部分は葉緑体をもたず白色)植物を用いた研究を進めてきた。緑色部と白色部が交互に形成される機構には、(1)1つの介在分裂組織が、正常な葉緑体を分化する細胞と、分化できない白色の細胞の両方を交互に作るか、あるいは(2)介在分裂組織から同じように切り出された細胞が分化する段階で、葉緑体形成能に違いが生じる、という2つの可能性がある。電子顕微鏡を利用してこれらの細胞分化を明らかにし、斑入り形成機構の解明を行い、これによって介在分裂組織の維持機構を解明しつつある。


 
 
今市涼子