平成22年度採用試験傾向分析

◆全体的傾向
 教員の採用は,30年程度の周期で大型採用と採用氷河期を繰り返している。それは教員採用を規定する要因が,1つには,児童・生徒数によっているためである。1947(昭和22)年から1949(昭和24)年を中心とする「第一次ベビーブーム」,1971(昭和46)年から1974(昭和49)年を中心とする「第二次ベビーブーム」に出生した子どもが,やがて学齢に達して各学校段階に順次入学していくことで,小学校,中学校,高等学校などが増設され,それに伴い教員も採用されていった。
 2000(平成12)年以降,2009(平成21)年まで,都市部の小学校教諭の採用を中心に,大型採用が続いており,多くの教員養成大学・学部では,卒業生を教員として排出する好機と捉え,大型採用を行う自治体に向けて在学生の支援を行っている。加えて,小学校教諭の免許状を取得できる大学も増加してきている。その一方で,自治体は,質の高い人材の確保を念頭に,地方に試験会場を設けたり,各種の免除措置や特例措置を講じている。
 なお,文部科学省の発表によれば,2009(平成21)年度公立学校教員採用選考試験における採用者のうち女性の割合は,小学校で63.8%(前年度比0.1ポイント増),中学校で48.5%(前年度比0.9ポイント増),高等学校で39.3%(前年度比0.3ポイント減)である。また,教員全体における女性の割合(平成21年4月1日現在)は,小学校で62.8%(前年度と同率),中学校で41.7%(前年度比0.2ポイント増),高等学校で28.9%(前年度比0.4ポイント増)となっており,例年と比べて特に大きな変化は存在せず,校種が上がるにつれ,女性教員の割合が少なくなる傾向にある(文部科学省「平成21年度学校基本調査」)。

◆東京都
 東京都における公立学校教員の年齢分布は,50歳代の層が多く30歳代が少ない「いびつな年齢構成」になっており,今後10年間,毎年2,000人規模の退職に伴う大量採用が見込まれる。特に小学校では,毎年1,000人規模の退職が続くため,大型採用をせざるを得ない状況にある。
 若手教員の割合が急速に高まることにより,学校現場では,必然的に若手のうちから組織の重要な役割を担わなければならない状況が到来する。このため,東京都では,「若手教員の計画的な人材育成」を重要視し,意図的・計画的な人材育成の研修等の体系化を目指して,2008(平成20)年10月に「東京都教員人材育成基本方針」を策定した。
同基本方針では,東京都が求める「教師像」として,@教育に対する熱意と使命感を持つ教師,A豊かな人間性と思いやりのある教師,B子どもの良さや可能性を引き出し伸ばすことができる教師,C組織人としての責任感,協調性を有し,互いに高め合う教師,の4点を提示している。
 また,採用選考における課題として,採用者数の増加に伴う受験倍率低下による教員の質の低下を懸念し,数の確保と同時に,「東京都の教育に求められる教師像」に合致する質の高い人材の確保を掲げている。具体例としては,「広報活動の充実・拡大」,「人物重視の選考方法の充実」,「大学推薦制度の充実」などを提示している。
 採用選考の充実のための取組みとして,東京都は,2010(平成22)年度公立小学校教諭採用試験において,東北と九州で30年ぶりに異例の追加採用試験を行った。東京都では,1999(平成11)年度から2005(平成17)年度にかけて,毎年100〜200人規模で合格者が増加し,この間,競争倍率は減少を続けている。1999(平成11)年度には,東京都公立小学校教諭の倍率は10.2倍であったが,2009(平成19)年度には2.6倍にまで減少した。東京都は,優秀な人材を集めるためには最低3倍の競争倍率が必要との方針を示しており,今回の追加採用は,低下し続ける競争倍率への強い憂慮があったものと考えられる。2011年(平成23)年度試験(2010年夏実施)では,秋田県,高知県,大分県と連携して協調選考を行う方針を明らかにしており,受験者並びにその質の確保に向けた取組みが続いている。
 なお,東京都における2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数は,小学校が1150名程度,中学校・高等学校共通(国語,社会(地理歴史),社会(公民),数学,理科(物理,化学,生物),英語,音楽,美術,保健体育)が800名程度,小学校・中学校共通(音楽,美術(図画工作))が90名程度,小学校・中学校・高等学校共通(家庭)が30名程度,中学校(技術)が40名程度,高等学校(情報,工業(機械系,化学系),農業(園芸系,食品系))が20名程度,特別支援学校が160名程度,養護教諭が70名程度となっている。

◆埼玉県
 埼玉県では,公立学校の教員約4万2700人のうち,約4割が50歳代である。特に小学校教員の占める割合が多く,2000(平成12)年度には10.6倍であった小学校教員の倍率は,大量退職期を迎えた2010(平成22)年度には3.0倍にまで低下している。今後10年程度は,大量退職期が続くため大型採用が継続するものと予測される。
 団塊世代の大量退職で,都市部を中心に教員の争奪戦が激化する中,埼玉県も教員採用試験の負担軽減策を次々に打ち出している。負担軽減策のパターンは,主に1次試験を全面・一部免除する「特別選考」の条件緩和と,試験内容の緩和とに二分される。
 特別選考枠はここ数年拡大が続いており,例えば,小学校教員の採用試験では,2008(平成20)年度に「埼玉教員養成セミナー受講生を対象とした特別選考」を,翌2009(平成21)年度には「大学推薦特別選考」と「得意・特技特別選考(音楽・体育・英語のいずれか)」を新設した。また同年度には,全教員採用試験を対象に「臨時教員の経験」と「国際貢献活動経験者」が加わっている。その後も,小学校教員の「得意・特技」に算数・理科が追加,中学校の数学・理科教員に「大学推薦」が新設され,2011(平成23)年度では,小・中学校と養護教諭の「経験者採用」の経験条件が3年以上から2年以上に,臨時教員も12か月から7か月に緩和される予定である。
 同様に試験内容も簡略化の傾向にある。2010(平成22)年度試験では,集団面接を廃止し,3日間だった2次試験が2日間に短縮された。また,小学校2次試験の実技で「水泳」が廃止されたほか,2011(平成23)年度には「歌唱」が廃止される方向である。
 なお,埼玉県における2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数は,小学校が650名程度,中学校が310名程度,特別支援学校(小学部,中学部)が50名程度,高等学校(特別支援学校高等部を含む)が350名程度,養護教諭が45名程度となっている。

◆さいたま市
さいたま市は,2006(平成18)年度試験より,埼玉県とは別に単独で採用試験を行っている。ただし,1次試験の教職・一般教養と専門教養は,埼玉県と同じ問題で実施されるため,埼玉県が教職・一般教養や専門教養に関して変更を行った場合,さいたま市の試験内容も変更となる。さいたま市の特徴の1つは,受験時に「人物評価表」の提出を義務づけていることである。最終卒業(見込)学校の学長,学部長等又は在職した所属長が評価者となる。また,2次試験の受験時には,小学校と中学校の体育実技受験者に,「体育実技調書」の提出を義務づけている点も特徴である。
 さいたま市教育委員会では,定年退職者数が小学校で2005(平成17)年度末,中学校で2006(平成18)年度末にピークを迎える見込みであり,競争倍率は,特に小学校で3倍程度と伸び悩んでいる(朝日新聞2009年04月10日)。市教委では東北地方に続き,北海道で説明会を始めるなど,地方志願者数の増加に向けた取り組みを強化している。
 また,2011(平成23)年度教員採用試験における主な変更点としては,@年齢制限を58歳に緩和,A小学校大学推薦特別選考の新設,B社会人特別選考の新設,が挙げられる。「小学校大学推薦特別選考」は,小学校教諭1種免許状取得のための課程認定を受けている大学の推薦を受けた者で,2011(平成23)年3月に卒業見込み又は大学院修了見込みの者が対象とされ,1次試験が免除される。また,「社会人特別選考」は,民間企業または官公庁等での正社員(正規職員)として,通算3年以上の勤務経験のある者が対象で,1次試験の筆答試験に替えて論文が実施される。正規採用予定者数は,前年度比203人であり,小・中学校で前年度比各5人増となる。
 なお,さいたま市における2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数は,小学校が135名程度,中学校が60名程度,養護教諭が8名程度となっている。

◆千葉県/千葉市
 千葉県における公立学校教員の年齢分布は,小学校が50〜54歳,中学・高等学校では45〜49歳をピークとする山になっている。今後の傾向としては,小学校で約10年,中学・高等学校では10年以上にわたって採用の増加が見込まれると推測される。
 求める教師像としては,@家庭・学校・地域が連携・協力して「あすを拓くちばっ子」を育てるという目標を理解していること,A「千葉県教育の戦略的なビジョン」を必読し,インターンシップ体験者が望ましい,とされている。
 2010(平成22)年度試験(2009年夏実施)においては,岩手県盛岡市で実施する試験の対象を,小学校のみから全校種・教科に拡大したりと,他の大都市圏の自治体同様,受験者数の確保に取り組んでいる。また,千葉県教育委員会では,公立学校教員を志望する大学生,短期大学生及び大学院生を対象に,小学校(千葉県下)及び特別支援学校(千葉県立及び市立)での実践研修を体験する機会を提供し,教職への理解を深めるとともに教員としての資質能力を高めることを目的として,「ちば!教職たまごプロジェクト」を実施している。県教委では,教職志望者に対し,当プロジェクトや各自治体で行っている教職インターンシップなどに積極的に参加し,授業以外の学校の業務を知るなどの体験を推奨している。
 なお,採用試験は,政令市となった千葉市との共同実施となっている。千葉県/千葉市における2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数(一般選考・特例選考)は,小学校670人程度,中学校・高等学校併せて665名程度,特別支援学校130名程度,養護教諭35名程度となっている。

◆神奈川県
 神奈川県における公立小学校教員の年齢分布は,50歳代が圧倒的に多い構造となっている。2010(平成22)年度試験(2009年夏実施)における公立小学校の受験倍率は2.4倍と全国最低レベルであり,今後約10年は大型採用が続く見通しである。公立中学・高等学校については,小学校よりやや遅れて採用のピークが到来する見込みとなっている。2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数(相模原市を含む)は,全体で1,360人(前年度比10.1%増)で,小学校の採用予定は微減しているが,中学校,高等学校,特別支援学校,養護教諭で採用予定者数が増加している。
 大量退職・大量採用時代を迎える中で,優秀な人材を大量に採用すると共に,ベテラン教職員のもつ教育指導に関するノウハウを若い世代に継承し,学校全体の教育力を向上させていくことを課題として,神奈川県では,2007(平成19)年10月,「教職員人材確保・育成基本計画」を策定した。この中で,「めざすべき教職員像」として,@人格的資質と情熱をもっている教師,A子どもや社会の変化による課題を把握し解決できる教師,B子どもが自ら取り組むわかりやすい授業を実践できる教師,の3点を明らかにしている。
 「めざすべき教職員像」を踏まえ,多様で優秀な教職員を確保するための施策の1つとして「教員採用試験の見直し」が掲げられており,@選考方法の改善・工夫(より人物を重視した選考,経験・実績等に応じた選考,面接試験の工夫,実技試験や模擬試験の充実等),A有資格者等の一次試験の免除,B大学推薦制度の拡充(実績に応じた推薦人数の設定,校種・教科等の拡大等),C受験区分の新設(2007年度実施試験より,特別支援学校の区分による募集を実施)を打ち出しているほか,「教員志望者支援施策」として,@大学連携の実施(県教委職員による出前講座等)や,A教育実習の支援などを提言している。
 また,神奈川県では,2011(平成23)年度公立小学校教員採用試験(2010年7月実施)において,青森,山形,愛媛,沖縄の4県で,昨年に筆記試験(1次試験)を通過した受験生の筆記試験を免除する方針を明らかにしている。4県の競争率は4.7倍〜25.2倍となっている。これに対して神奈川県の競争率は,近年2.5倍前後と低迷しており,優遇策の背後には地方出身の優秀な人材を確保しようとするねらいがあると考えられる。
対象者は,7月に実施する筆記試験(一般教養・教職専門,教科専門)と論文試験が免除され,8月の面接試験と模擬授業の最終選考に進むことができる。神奈川県と新たに政令市となった相模原市を併せて小学校の採用予定580人程度(後掲)となっており,一般試験,特別選考の1次試験通過者と共に最終選考を受けることになる。
 なお,神奈川県における2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数は,小学校580名程度(相模原市100名程度(内数)),中学校320名程度(同60名程度),高校350名手程度,特別支援学校70名程度,養護教諭30名程度,他に身体障害者特別選考10名程度となっている。

◆横浜市
 過去5年間の小学校教員の競争率はいずれも2倍台であり,横浜市においても,人材の量と質の確保は大きな課題となっている。横浜市では,2009(平成21)年度より,地方での採用説明会を,札幌,広島に加え,仙台,大阪,福岡の5会場で実施しているほか,全国約120の大学・大学院に推薦特別選考枠を新設し,横浜市が第1志望であれば1次試験(筆記)を免除する制度を設けた。さらに,数学と理科の社会人特別選考の受験資格を,社会人経験が5年以上から3年以上に緩和するなど,受験者数確保に努めている。しかしながら,近隣では廃止している自治体も見られる小学校の水泳と音楽の実技については,維持する姿勢を見せている。
 また,2010(平成22)年2月には,団塊世代の教員の大量退職を受け,優秀な若手を確保することを目的として,「マイナビ就職セミナー合同会社説明会」(会場:パシフィコ横浜)に初めて参加し,多数の民間企業とともにブースを出して就職活動中の学生に「教師の魅力」をアピールするなどの取組みを実施している。横浜市では,合格者のうち,毎年1割以上が採用を辞退している現状がある。そのため,横浜市教育委員会では,同説明会において,若手教師が出演するビデオレターを流すほか,若手教師同士が助け合う横浜市独自のサポート体制などを紹介するとしている(朝日新聞2010年2月6日)。
 なお,横浜市における2014(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数は,小学校が380名程度,中学校(国語,社会,数学,理科,音楽,美術,保健体育,技術,家庭,英語)が205名程度,特別支援学校が45名程度,養護教諭が20名程度となっている。

◆川崎市
 川崎市では,川崎市新総合計画と整合を図りつつ策定された教育行政基本計画 「かわさき教育プラン」に基づいて教育環境の整備が進められている。「かわさき教育プラン」は,2005(平成17)年度から2104(平成26)年度までの10年間を対象とした長期計画であるが,2008(平成20)年度〜2010(平成22)年度の重点施策として,@共に生き,共に育つ環境を創り,心を育む,A地域の中の学校を創る,B 学校の教育力を高め,確かな学力を育成する,C個性が輝く学校を創る,D安全・安心で快適な教育環境を創る,E共に学び,楽しみ,活動する生涯学習社会を創るという6つの施策が掲げられている。以上の方針の下,川崎市は,@子どもの話にきちんと耳を傾けることができる教員,A子どもと一緒に考え行動することができる教員,B子どもに適切なアドバイスを与えることができる教員,C教材研究がきちんとできる教員を採用したいとしている。
 なお,川崎市における2011(平成23)年度試験(2010年夏実施)の採用予定者数(相模原市を含む)は,小学校が120名程度,中学校が60名程度,高等学校と養護教諭がそれぞれ若干名となっている。

※本件データ及び分析は,日本女子大学総合研究所における下記の研究プロジェクトの成果を活用している。
・研究課題32「女性教員の養成とキャリア・パスに関する総合的研究」(研究代表坂田仰)
・研究課題43「教職志望者・現職教員に対するサポート体制の構築に関する研究」(研究代表坂田仰)