松影昭夫    
 
 
 
     (1)染色体分配に関わる新規微小管たんぱく質Orbitの機能解析
 Orbitは,愛知県がんセンター研究所の松影研究室で2000年に発見された,分子量約150000のショウジョウバエの微小管結合タンパク質である.ヒトに2種のOrbitホモログが存在することをそれぞれヒトOrbit(hOrbit)1および2と命名し,研究を進めてきた。今回の研究で明らかにすることは以下のとおりである。
 1) これまでの研究からhOrbitは,動原体,中心体と微小管の相互作用や微小管同士の相互作用の制御に重要な役割を果たすと予想されるが,これらの反応を形態学および分子生物学的研究によって明らかにする。
 2) hOrbit-1のN-端断片の過剰発現によってアポトーシスと思われる細胞死がもたらされる.これには,微小管の核周辺における微小管の束化が関わっていると予想される。微小管の束化がおこる機構とそれが核構造に及ぼす影響について解析する。
 3) hOrbit-1と-2の機能の違いを解明する.両者の微小管との相互作用に違いがみとめられるが,その違いを詳細に解析する。
これらの研究を推進するために、GFP-融合タンパク質,免疫電顕,siRNAの使用,免疫沈降などの方法を用いる。これにより,細胞内における微小管の機能分化の解明に手がかりが得られると考えている.本研究のアプローチには,光学顕微鏡、電子顕微鏡をもちいるほかに、AFM(原子間力走査顕微鏡)やFIB(収束イオンビーム法)を用いて,その細胞内構造の解析における有用性を検討する.これらの研究を通じて,微小管の多様でダイナミックな変化におけるhOrbitの役割を解明できると考えている。

   (2) 細胞増殖のマスターキーである転写因子DREFによる制御ネットワークの研究
申請者らは、ショウジョウバエDNA複製関連遺伝子の共通な転写制御エレメントである8塩基対のパリンドローム配列5'-TATCGATA-3'からなるDRE(DNA replication-related element)とこれに結合する転写因子DREF(DRE-binding factor)を発見した。DRE/DREFが数百の遺伝子の共通の転写促進因子として働いていることを示す結果を得ており、その多くは細胞増殖に関わることが示唆されている。また,ヒトでもDREFと相同の因子を同定しており、同様の機能を有することを示す結果も得ている。本研究の目的は、ショウジョウバエおよびヒトのDREFの標的遺伝子の織りなすネットワーと細胞増殖との関係、更にはがんとの関連を解明することにある。本課題では、抗体を手がかりに、細胞内でDREFとその共同作用因子との相互作用を解析するとともに、DREFの異所的な発現や、その抑制によってもたらされる増殖・分化異常を電子顕微鏡によって観察する。